愚連隊大連合
2008 草山通り
「赤城さん、ボスは・・・」と聞いてきたチンピラを赤城は殴りつける。「馬鹿野郎!今ボスはまだ動ける状態じゃねえ・・・少し待て」そう言うと赤城は溜息をつく。
扉の向こうの事務所から聞こえる声を聞きながら太田は「ビール」と言ってカウンターの向こうにグラスを突き出す。「・・・承知しました。あの、太田さん・・・」「あん?」「大丈夫でしょうか?顔色があまりよくないみたいですが・・・」「うるせえ!さっさとビールを出せ!」そう言うと太田はナイフを抜き、テーブルに突き立てた。「は、はいすみません・・・」そう言うとバーテンダーはビールを注いぐ。
太田はここ数日自身がボスとなった半グレ集団魔瑠狗須の運営を手下に全て任せ、自身の先輩で前ボスの富樫のことを思い出してながらビールを飲んでいる。
太田は格闘家の息子として生まれた。両親は曲がったことが嫌いで、太田を真面目な子どもに育てようとしていた。順調に生きていくことが出来れば、彼は半グレになどならなかった筈だ。
だが父の行動こそが、彼の人生を大きく変えてしまうのだった。
あるとき父はコンビニでサラリーマンに絡む不良たちを見つけた。「おいおい、おっさんぶつかったぜえ!」「え?あんたらがフラフラと近づいてきたんだろう?」「あん?てめえ言いがかりつけんのかあ!」そう叫ぶと4人の不良がサラリーマンを取り囲んだ。「え、あの・・・」「いいよ、金出したら通してあげる。」そう言うと一人の不良は何とライターを取り出してサラリーマンの顔に近づけた。それをみた太田の父親は「おい、あんたら何やってんだ!」と怒鳴りつけた。だが不良たちはなんにでも反抗する。「なんだ、てめえ!関係ねえなら引っ込んでろ。」と凄む。「悪いことは言わねえ。俺はなあ・・・すぐ手が出ちまうんだ。行けよ。」と父親は冷静に返したが、不良たちはそれが気に障ったようだ。「おいおい、こいつは死にたいらしいな。」「ああ。」そう言って不良たちは拳を固めて襲い掛かってくる。「ああ・・・いつもこうだ。」溜息をついて太田の父も拳を固めた。そして激しい殴り合いの末・・・不良たちが地面に伸びた。「ああ・・また警察の皆さんに迷惑を掛けちまうな。」と言い、父親は電話で警察に連絡する。
だが父親が殴った不良たちはただのチンピラではなかった。彼等のバックには暴走族集団大友愚連会が付いていたのだ。彼等は仲間を見捨てて一人アジトに逃げて来たチンピラの頭から話を聞くと激怒した。「あん?ただのカタギのおっさんに負けた!?このことが知れ渡ってみろ!俺等の縄張りを狙ってる雑魚どもに馬鹿にされるぞ!どうすんだコラ!」「で、では俺等でそのおっさんを・・・」「馬鹿野郎!てめえらゴミが行ったところまたボコられるだけだ!そいつの特徴教えろ。俺等でボコす。」
そしてジム帰りの父親に大友愚連会の連中が接触する。「おい太田選手さんよお!」「うん?」「もしかして俺の後輩ボコったのあんたか?」「後輩?知らねえぞ。だいたい俺は不良じゃねえ。あんたらの世界の者じゃねえから関わったこともねえ筈だ。」「そうかい・・・じゃあコンビニであんたにボコされたっていう俺等の後輩の話は嘘か?」「コンビニ・・・あんたらじゃなくてチンピラをボコしたことならあるぞ。あいつら、サラリーマンの人に絡んでたからな。」「そうか・・・じゃあそいつは俺の後輩だな!」そう言うといきなり彼等は鉄バットを取り出し、父親の頭を殴りつけた。気絶した父親を彼等は路地裏に運び、殴る蹴るの暴行を加えた。そのせいで父親は半身不随の状態になる。一命はとりとめたものの格闘技を辞めざるを得なくなった父親はすっかり生気をなくし、引きこもってしまった。だが犯人の暴走族連中は10代の若者が多く、皆不起訴になっていた。
それを知った太田は誓った。必ず父をリンチした不良たちを倒すと。そのためには力を得なければならないと考えた太田は不良の道に入ったのだった。太田は高校生の頃には立派な不良になっていた。手下となる学生も何人かいた。そこで太田は言う。「てめえら、もっとてっぺん目指したいよなあ!今日はな・・・大友グループを襲うぞ!」「ま、待ってくれ・・・奴ら、暴走族上がりの半グレだろ?大丈夫かよ。」「あん?何びびってんの?ビビってる雑魚なんか俺のチームには要らねえんだよ!」そう言うと太田はその不良をボコしてチームを暴力で引き締めた。そして傘下に付けた中学生不良の赤城グループとともに半グレ集団大友グループの拠点となるゲームセンターに突撃した。「おりゃあ!」太田は拳を振りかざして大友グループの本拠地に突っ込むが、そこにいた半グレ達は皆武器を持っていた。とりあえず数でボコそうと考えていた太田にかなう相手ではない。仲間達は次々と倒され、中には逃げ出す者もいた。
(くそ・・・こんな筈じゃ・・)
そのとき、扉がけ破られて大声が響く。「雄糲鵡慈だ!世代交代だぜ!」富樫率いる暴走族集団雄糲鵡慈がカチコミを仕掛けてきたのだ。彼等の加勢で大友グループの半グレは全員倒せたものの太田達は怪我がひどく、満身創痍だった。そのとき、富樫が話しかけてきたのだ。「大変だったな。だがガキの割には肝が太い奴だな。どうだ、てめえ俺等の仲間にならねえか?」
「くそ・・・星山の野郎、許さねえ!」そう呟くと太田は机から抜いたナイフをもう一度机に突きたてる。
そのとき、突然バーの扉が開いて手下のチンピラが入ってくる。「大変ですボス、向かいの闇金に閻魔爛弩の連中が入ってきました!」その後ろから別のチンピラも入ってくる。「二つ向こうのクラブが閻魔爛弩の強盗に遭いました!」その後ろから入って来たチンピラが似た報告をする。「すんませんボス、俺の経営するカラオケ店で閻魔爛弩の奴らが暴れてます。」「あん?どういうことだ?閻魔爛弩の奴ら、富樫さんが死んだからそれをチャンスとみて俺等のシマを奪おうってか?」そう言うと太田はフラフラと立ち上がり、事務所の扉を開けると呂律の回らない声で叫ぶ。「今すぐ魔瑠狗須の幹部全員に伝えてくれ!徳川町の閻魔爛弩のシマに最低でも各グループ5人ずつ兵隊を送れってな!富樫さんが守ったこのシマ、外道共に渡すなよ!」
翌日 横浜中華街
横浜の中華料理店から一人の男が護衛の黒服傭兵を3人連れて出て来た。ロングヘアの若い男で、薄く顎鬚を生やしている。
彼は取引相手の中華マフィアと話していた。「武器はいつもの倉庫に置いてある。管理人にはナシつけといたから取りに行ってくれ。」「ありがとうフェン、ではまた今度。」そう言って彼はマフィアと握手すると車に乗り込んだ。
「相馬さん、お疲れ様です。次は・・・チョッパーファイヤーの連中ところです。それから、俺の手下を今倉庫に向かわせました。」と助手席に座る半グレが報告する。「ああ、分かった。それよりも大木戸、俺等尾行されてるぞ。」「え?」「ほらよお、後ろ見てみろ。」「確かに・・・あいつらはマフィアですかね?」「うん・・・分からねえが紀蘭のところから追いかけて来てるようだぜ。」「どうします、相馬さん?撒きますか?」「いや、いい。マフィアの連中なら俺等が倉庫で管理人の奴らを殺さねえか見張りたいだけだろう。だが大木戸の部下が向かってるから意味ねえ。他の連中なら・・・チョッパーファイヤーのアジトまで誘い出してそこでブラジル人どもに殺してもらうだけだ。」だが、そのとき両側からバイクがいきなり表れて相馬の乗る車の横に付けた。さらに尾行していた車が急接近し、体当たりすると同時に目の前からもバンが迫って来た。「クソ!どういうことだ・・・まあいい。止めろ!」相馬が命じ、運転手が車を停めた。と同時に相馬は座席の下に置いていたマシンガンをつかんで外に飛び出した。その後に黒服と大木戸、運転手もマシンガンを持って飛び出した。
それと同時、体当たりしてきたバンやバイク、前のバンも停車して中からヤクザが下りて来た。全員ピストルを構えている。「おい、どういうつもりだ?」と相馬が聞くとヤクザの中から屈強な男が進み出る。「俺等は小原一家のものだ。善竜会に武器を送って何を企んでいる?」
それと同時、その男の右側にいた男が連絡する。「オヤジ、いま相馬とおぼしき奴を見つけました。交戦になるかもしれません。」「おう分かったぜ川上、相馬は強い。とりあえず中安に任せろ。だがそれでも相馬を拉致できそうにないと思ったら撤退してくれて構わねえ。」「承知しました。」
その様子を見て相馬はいきなり笑いだした。「ハハハハ・・・時代遅れなヤクザどもをこの手で殺せるじゃないか!」
二日後 徳川町
徳川町の倉庫で閻魔爛弩の幹部が話し合っていた。「奴らを揺さぶってみたが・・・どうだろうな?」と閻魔爛弩幹部の菱川の問いにボスの梅田は「多分奴ら、最初は攻めてくるだろうぜ。」と答える。「攻めてくる?この場所に?」と傭兵チョン。「そうだぜ。」と冷静に言う梅田に対して女幹部のマチが問う。「あんた、それやばいんじゃないの?」「大丈夫だ。奴らに対しては厳戒態勢が出来ている。」
そのとき、電話が鳴る。「おう、俺だ。」と出た菱川に対して電話の向こうの声は「俺等のアジトにカチコミかけてきた奴らをボコしたら魔瑠狗須の大規模襲撃を吐いたんですが・・・」「・・・そうか。しばらく警戒しておけ。」そういうと菱川は電話を切る。「いよいよ来たぜ。」それを聞くと梅田は大笑いする。「ハハハハ・・・お前ら、もうすぐ魔瑠狗須の兵隊が手に入るぜ。」
街中ではあちこちでもめ事が繰り広げていた。強盗団の本部や盗品市場が半グレに襲撃され、強盗団と戦いを繰り広げていたのだ。だが襲撃した半グレ達の大半はボコされて傘下につくか殺されていた。まるで襲撃を予測していたかのように、強盗団は重武装であったのだ。
2時間後 草山通り
「何だと!くそ、てめえら何やってる!?」太田は激怒し、逃げ込んで来たチンピラを投げたおすとその顔面を何度も踏みつけた。「くそ・・・まあいい。閻魔爛弩の奴らが攻めてきたところで潰せばいいだけだ。」だがそのとき、「すまねえな。だがあんたらが仕掛けてきた喧嘩だぜ。」という声と共が聞こえ、入り口の護衛が頭から血を流して倒れる。「邪魔するぜ。」と言ってマシンガンを片手に持った大男がバーに足を踏み入れる。「よお、魔瑠狗須の新しいボス太田さんはあんたかい?」「誰だ!てめえ。」太田はピストルを向け、事務所の中からも赤城を始めとする手下たちがピストルを抜いて現れた。だが侵入者は冷静に言う。「まあ落ち着けよ。俺は話しあいに来たんだぜ。」そう言うとその男は何と太田の隣の席に腰を落ち着けた。「いいか・・・怒らないでくれよ。魔瑠狗須は弱体化しちまった。海棠がボスを退いたときに奴の崇拝者どもは抜けちまった。それから富樫が締めていた奴らも少し抜けたろ?」「それがどうした?俺はこのシマを守るぜ!」そう言うと太田はナイフをその男の手に突き刺そうとし・・・うめく。「おい物騒な真似は辞めてくれよ。」そう言いながら大男は太田の腕の関節を掴んで笑う。「くそ・・・なんだこの怪物。」「とりあえず閻魔爛弩の梅田に銃を向けるのをやめろといってくれねえか。」「・・・お前ら、ピストルを下ろせ。俺が命令したら撃っていい。」「・・・ふん。で、話だがな、俺等閻魔爛弩がここを守るのを手伝うしヤクザどもへの復讐も手伝ってやる。その代わり・・・シノギの4割、たったこれだけを俺たちに渡して欲しい。まあ用心棒料だな。」「ふん。がめつい閻魔爛弩さんのことだ。どうせ俺等のシマを奪うつもりだろ?」「ああ、それは・・・ある意味正しいともいえる。」「なんだと!?」「簡単に言うとな、あんたら俺等の傘下に入らねえかって話だ。」「返事は決まってる。お断りだ!これは富樫さんがな、育て上げた組織だ。あんたらみてえな強盗団の寄せ集めごときには渡す訳にはいかねえ。」「まあ俺の持ち込んだ話は提案であんたは断る権利がある。だけどな、よく考えてくれよ。ここで俺等に合流しねえってんなら俺等はあんたらのシマに侵略する。善竜会の連中とともにな。」「善竜会だと!?奴らは俺が憎む米田組と同じ善輪会・・・」「善輪会も一枚岩じゃねえ。善竜会の奴らと金山組の奴らの間で抗争が始まりそうだ。あんたが恨んでる米田組は金山組側についている。それにな、組織に合流したら魔瑠狗須の名前は残していい。いま保持してるシマと傘下グループの管理権もそのままだ。それに加え、あんたに俺等の傘下組織をまとめる最高権限をやろう。つまり閻魔爛弩副将だ。下っ端の奴らはあんたの裁量で自由に動かせ。米田組を壊滅させてやれ。」「なるほどな・・・本当に俺の裁量で動かしていいんだな?」「そうだ。善輪会内部抗争案件は全てあんたに任せる。」「・・・分かった。とりあえず幹部連中に俺を副将として紹介しろ。」「分かった。じゃあ、仲直りの握手だぜえ!」と梅田が手を差し出す。太田はそれを見つめたあと、その手を握る。
ここに東京の半グレ界隈の双璧を成す二大組織が連合する。




