善輪抗争開幕
2008年 獄界町
「星山さん、あんたに頼まれていた相馬についての情報だけど多分彼のほうが詳しいよ。」と言って笹山はカウンター席に座る武器屋の石橋を指し示した。
「石橋さんですか。」「やあ。小原一家総長就任おめでとう。」「ありがとう、石橋さん。」「それで・・・閻魔爛弩の相馬についてだな?」「ええ。奴がシャークスの連中を唆して黄弁銀行を襲ったらしいんですが・・・」「なるほどな・・・まあ奴は武器屋だから武器をシャークスに流したんだろうな。」「武器屋?」「ああ。相馬は閻魔爛弩の武器調達を取り仕切っている幹部だ。中国人やロシア人、ボナード人から武器を仕入れているらしい。強盗そのものには関与しねえが、閻魔爛弩の梅田を筆頭とする『ステゴロ四天王』の最初の舎弟とだけあって閻魔爛弩内ではかなりの実力者だ。」「なるほど・・・ヤサは分かりますか?」「それは俺でさえ掴めてねえ。だけど奴は武器取引のためによく横浜の中華街に出入りしている。中華街の情報屋ハンに連絡を付けておいたぜ。ここ、ハンが隠れ蓑にしている骨董品屋だ。穂村理事長が関わっていることだから俺からハンに金は払ってある。」そう言って笹山は1枚の紙を渡して来た。「分かりやした。情報助かります。」そう言って星山が立ち上がったとき、石橋が呼び止める。「ああ、それと・・・ファントムガンズについて一応知らせておく。」「ファントムガンズ?」「実はビィレグファミリーの本部が支部の連中の入れ替えを行った。ダスケファミリーに対して抑止するためにな。」「なるほど・・・そうだ、伝え忘れたましたぜ。魔瑠狗須との抗争は終わった。黒人連中とドンパチやりたかったら勝手にやってくれと伝えておいて下さい。」「そうか・・・じゃあそれはファントムガンズの連中に伝えることになる。ビィレグファミリーは同盟者のファントムガンズの連中に日本支部を任せたみてえだ。」「そのファントムガンズってのは?」「アメリカのバイカーギャングでビィレグファミリーの同盟相手の一つだな。まあ・・・正直行儀がいい連中とは言えねえな。今のところは大人しくしてるがな・・・警戒しておけよ。」
翌日 青柳街
米田は車を降りると慌てた様子で原山太闘会岸田組の事務所に入っていく。
岸田組の会議室では、原山太闘会会長で上部団体の善輪会本部長も務めている韮澤が岸田組組長兼原山太闘会理事長の川田をはじめとする直系組員と深刻な顔で話し合っていた。
「どうも親父、遅れました。穂村理事長から連絡は?」との米田の問いに対し、韮澤は「あったが・・・兄貴も困惑してたよ。」と言う。
一同が囲む机の上には破門状が2枚置いてあった。その内容はそれぞれ善輪会理事長の穂村と善輪会舎弟頭代行の大日方を破門するというもので、両方「善輪会会長代行」という肩書で善輪会副会長の原野の署名がされてあったのだ。「因みに先ほど大日方さんから連絡があった。鬼斬鉄拳会は善竜会と喧嘩するそうだ。穂村理事長にも原野の破門状を出すように要請したと・・・」と川田が補足した。「そうですか・・・オヤジはどうされます?」と米田。それに対し、韮澤はしばらく考え込んで言う。「俺の個人的な所見だがよ、正しいのは穂村理事長だと思う。」「ああ・・・俺もそう思いますぜ。」と米田。「しかし穂村理事長が結論を出せてねえからな。俺は穂村の兄貴の動きに合わせるぜ。兄貴が原野の兄貴との和解を選べば俺は静観する。だけど兄貴がもし・・・もし原野の兄貴との喧嘩を選べば・・・」「俺たちも善竜会と喧嘩ですね?」との川田の問いに対し、韮澤は静かに「ああ。」と答えた。
同時刻 横浜 中華街
星山は今中安と川上を連れて横浜中華街にいた。
川上がゆっくりと星山が座る車椅子を押し、中安が中に声を掛ける。「善輪会の者だ!ヤクザの情報屋笹山の紹介だ。」すると奥から二人の中国人が進み出て来た。二人ともカンフーの胴着を身に着けていて、顔は瓜二つだ。恐らく双子なのだろう。「笹山の紹介か?笹山から渡された紙はねえか?」「ああ・・・それならここに。」と星山が言って笹山から貰った紙を渡す。そしてそのうちの一人が紙を受け取る。「確認した。俺等のあとについて来い。」
双子が一行を案内したのは骨董品が所せましと並ぶ棚の後ろの空間であった。そこには薄汚い店とは似つかわしくない程綺麗なオフィスが広がっていた。近代的なオフィスだが、おいてある調度品は中華風だ。そして中央に置いてある椅子の上に灰色の無精ひげを生やした細身の中国人の男が座っていた。赤いマントを羽織っている。その傷だらけの顔からは裏社会の修羅場を多く潜り抜けてきたであろう猛者のオーラが漂っている。これが横浜中華街のフィクサーの一人である情報屋ハンである。「あんたか。あんたのことは噂には聞いてる。米田組若頭、そして小原一家新総長の星山さん。」「いかにもそうだ。今日は少しこの街に出入りする武器屋について聞きにきた。」「武器屋か・・・大勢いるが。」「相馬って男だ。閻魔爛弩っていう組織の幹部をしている。武器の調達のためにこの街のマフィアと取引していないか?していたらいつ現れるか教えてくれないか。」「相馬か・・・奴はてっきりあんたらと仲が良いと思っていたが怪しいところでも?」「仲が良い?あいつはチンピラ使って善輪会理事長のシマを荒らしたんだぜ?」「そうか・・・いやすまん。中華街の外についてはあまり詳しくない。だがな、事実として相馬は仕入れた武器の半分を善輪会に売ってるぜ。」「まじかよ・・・爺さん、そりゃあ本当か?」と中安。「本当だ。俺は金をいくら積まれようと拷問を受けようと嘘はつかねえ。」「なるほど・・・ちなみに善輪会の誰に売ってるか知らねえか?」と星山は聞いてみた。すると情報屋は衝撃的な組織名を出して来た。「知ってる。奴は善竜会の組員とよく会ってる筈だ。」「善竜会!原野副会長の・・・」と川上。「こりゃあ・・・まずいかもな。」「・・・何か事情があるようだな。まあいい。とりあえず、あんたらの問いに答えよう。相馬は明日の午後4時、仲間と共にこの中華街の『紀蘭』っていう中華料理屋でマフィア連中と会う。」「ああ。ありがとう・・・すまん、少し電話を掛けさせてくれ。」と言い星山は携帯を取り出した。
「はい、善輪会理事長の穂村です。」「小原一家の星山っす。」「お疲れ様です。実は今、少しゴタゴタがありまして後からかけ直して頂いても・・・」「理事長、黄弁金庫を襲ったのはシャークです。だけどそいつらを動かしたのは半グレ集団『閻魔爛弩』の関係者でした。そいつは武器屋で、何故か善竜会にも武器流してますぜ。」「なんですって・・・」穂村は絶句しているようだ。
翌日
星山は受話器を持ち上げる。「へい、小原一家総長の星山です。」「ああ、俺だ。」「あ、オヤジ・・・小原一家の仕事が多くてそちらに顔出せてねえです。申し訳ねえ。」かけて来たのは米田組長だ。「星山・・・また抗争が始まるぞ。鬼斬鉄拳会・金山組は善竜会・西坂組・大北組と絶縁した。穂村理事長と原野副会長がそれぞれ会長代行名義で互いを破門したからな。俺等原山太闘会は金山組につく。今から善竜会は敵だ!」その言葉に対して星山は冷静に答える。「承知しやした。小原一家の連中にも伝えます。」
こうして後世まで善輪会の黒歴史として語り継がれる内部抗争が幕を開けたのだ。




