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決裂

2008 獄界町

 「巻き込んですまんかったな、押坂先生。」

 米田組長は今、闇医者「押坂医院」の院長室で押坂と共にコーヒーを飲んでいた。

 「いえいえ。私は問題ありません。米田組さんに医者にして頂いた身です。それよりも、私は星山さんが心配ですよ。」「星山ねえ・・・容態はどうですかな?」「怪我がやっと治ってきたと思ったらまた刺されましたからな。でも元気そうではあります。今マル暴の富山さんと話しています。」「そうか・・・星山に臭い飯は食わせたくないが・・・」「そうですね。個人的には私も米田さんと同じ気持ちです。ですが、多分ご本人は・・・」「ああ。あいつはサツが見張っていると分かった上で富樫を殺したからな。富樫は元々あいつの舎弟。辛かったろうが心を鬼にしてあいつは武闘派らしく抗争を終結させた。そして自分自身に対してもあいつは心を鬼にした。多分ムショに行くつもりだろう。」

 そのときドアをノックする音がした。「はい、どちら様?」「失礼します・・・あ、米田さん来てたのか。」「富山かあ・・・星山の様子はどうだ?」「元気がなかったよ。今回の騒動、米田組を破門になった富樫が起こしたらしいですな。」「その通りだ。破門した奴とはいえ迷惑をかけたこと、謝罪するよ。」と米田。「上の連中が納得するか分からないが俺としてはあんたの謝罪を受け入れますよ。星山の決断もね。」「そうか・・・やまりあいつはムショに・・・」「いや、俺が言いたいのはその『決断』についてではありません。あいつが富樫と会うと決めたときに決断したことですよ。」「あいつの決断・・・」「そう。あいつは自分の元舎弟が暴れまわっていることに責任を感じていた。だから自身の手で富樫を葬ったんでしょうな。」「俺もそう聞いている。あいつは最初から・・・富樫を自身の手で殺すつもりだった。」「そうだろうな。まあ書類上は正当防衛です。富樫はナイフを出したんでしょう?咄嗟に星山は相手の頸動脈をかみ切ることで身を守った。そういうことにしておきます。あんたも口裏を合わせてくれ。」「え?」「星山はムショに入るつもりだったみたいですが、俺は奴をぶち込みませんよ。我々警察はいくら悪党でもむやみに殺すことは出来ない。でもあんたら裏社会の住人は違う。星山はヤクザなりに社会貢献しようとしたんでしょう。上の連中はヤクザをゴミだと思ってますけど、俺はそこまでヤクザを嫌いじゃないんですよ。」それだけ言うと富山は出て行った。

 「あの野郎・・・米田組に恩を売ろうとしやがる。」と言いながらも米田は嬉しそうであった。


1週間後 

 「いてて・・・すんません、見苦しくて。」星山は車椅子の状態で小原一家の事務所に入る。

 中には米田組長と小原総長が待っていた。

「大変でしたな。」と小原総長が星山を労う。「そちらこそ、岩居さんのお悔やみを申し上げます。彼は獄界町にとって惜しい人材です。」「ああ・・・そう言っていただけてあいつも地獄で嬉し涙を流してますわ。ハハハ・・・」

 「それで私に話があると伺ってきましたが・・・」と星山。「ああ・・・実はですな、米田さんと相談して小原一家は米田組の傘下に入ることにしたんですよ。」「は、はい?でも小原さん達は金山組の・・・」「ああ。穂村のオヤジには納得してもらいました。」「俺も話を聞いたときは驚いたね。でも穂村の叔父貴は理に適ってると。実質善輪会の理事長を兼ねている叔父貴の指示とあっては仕方ないね。小原一家の面倒はうちで見ることになった。」「なるほど・・・これから盃直しですか?」「その予定です。明日、本部でオヤジに私と舎弟の盃を返す。そのあと米田組さんの事務所でうちの直系組員とあんたの間で盃直しです。それからうちの代行の西山以下私の舎弟とも兄弟盃を。」「承知・・・うん?私と小原一家の皆さんと親子盃・・・まさか!」「そうだ。星山、お前にはな・・・これから米田組二次団体となる小原一家の総長を務めてもらいたい。」と米田組長。「そ、総長ですか?」「ええ。私はもう年でしてな、舎弟頭や副総長に組の運営を任せていました。そのせいで獄界戦争が起こった。片山に全て任せたせいだ。だが仁義厚い米田さんの下でさらにあんたが組長をやってくれれば小原一家は道から外れることなく、またかつての強さを取り戻すだろう。」「た、確かに片山はお世辞にも良い総長代行とは言えませんでしたが、今は西山さんが・・・」「西山はな、舎弟の地位が一番合っているんだと。」「しかし私も組長の地位はあまり性に合わず・・・」そのとき米田がにやり、と笑うと言う。「おいおい小原さんの頼みを断るのかい?これは組長命令だ。星山、小原一家総長を務めろ。命令違反は許さんぞ。」「しょ、承知しやした親父。」


二日後

 米田組事務所内には、厳粛な空気が漂う。

 「小原一家組長、襲名致します。」と米田が告げると小原一家直系組員達が一斉に礼をした。その様子を見る米田組長の目からは涙が溢れている。


2週間後 蔵部町

 善輪会本部にて、総会が行われていた。出席者は善輪会の幹部と直系組員、会長の舎弟、そして直系組員が各々の組から選んだ組員だ。

 星山もそこに含まれており、護衛の一人として部屋の隅に立っている。脇には舎弟の中安と小原一家幹部の川上を連れている。「これは・・・すごい人数ですね。」と川上。「そうだな。俺も初めてだ。やはりお偉方は迫力あるぜ。」そう言って星山が差し示すのは大きな広間の前にある幹部席だ。

 そこには中心に座る善輪会理事長兼直系団体金山組組長穂村・善輪会副会長で直系団体善竜会会長の原野を筆頭として善輪会本部長で直系団体原山太闘会会長の韮澤、善輪会副理事長で直系団体木戸組組長の木戸、善輪会副本部長で直系団体西坂組組長の稲垣、善輪会事務局長で直系団体大北組組長の摂津が並ぶ。皆険しい顔で会場に居並ぶ直系組員達を見ている。

 その彼らの後ろに設けてある高い席には会長である武田の舎弟達が居並ぶ。彼等の顔は何故か物悲しく見える。

 しばらくした頃、穂村が口を開いた。「ではこれより、総会を開始します。では原野副会長、式次第を。」

 星山は会が始まったことを率いている二人の組員に告げて静かにさせた。

 「ではこれより式次第を読み上げます。その1、会長代行原野より挨拶。その2、会長代行穂村より挨拶。その3、本部長韮澤より決算報告、その4、各組員より二次団体以下の人事報告。以上だ。」

 そのあと原野は立ち上がって演台に進むと口を開いた。「諸君もご存じの通り先日、大きな悲劇が善輪会を襲った。武田会長が堂嶺会構成員の連中によって撃たれたことはもう知っているだろう?我々は下手人である堂嶺会へカエシを行った。だが諸君はこう考えてはいないか?堂嶺会の裏には荒木組、そして・・・布山元理事長がいるのではないか!と。」会場が少しざわめき、星山が険しい顔になる。(原野さんは気性が荒い。何を言い出すかわからねえな・・・)さらに隣に座る穂村も不安げな顔をしている。そんな様子を気にすることもなく、原野は続けた。「だが諸君の考えていることは恐らく間違っている。」すると会場から戸惑いの声が飛び出す。星山も眉をひそめた。「どういうことだ・・・?」

 さらに原野は続けた。「布山は今回の襲撃に噛んでいない。襲撃は鬼斬鉄拳会の幹部が仕掛けたものだ。」すると「何!?どういうことだ!」と怒声が飛ぶ。「ああ、あんた舎弟頭代行としてきていましたか?鬼斬鉄拳会若頭の大日方さん?」「ああん⁉うちの幹部が何故そんなことしなきゃいけねえ!大体な、親父だって襲撃でやられてんだろう・・・」「そうですねえ。でもそれが・・・あんたの狙いでしょうが!」「何を言ってるんだ貴様は!」「あんたははやく別府の叔父貴に引退してもらいたかったんじゃないですかね?」「は?」「待って下さい、兄貴・・・それは大日方さんが別府の叔父貴を排除して・・・いやでも何故会長は撃たれたんですか・・・」「会長はな、巻き添えだ・・・金で雇った堂嶺会の連中をけしかけたはいいものの偶然にも武田会長が叔父貴を訪問していた。」「お、おいそれはどこからの情報なんだ!根拠を示せ!」「実はね・・・布山さんと会談しました。俺だって布山さんを疑ってましたからねえ。」と原野。「い、いつの間に・・・」と呆れたように穂村が言う。「そこで布山さんは自分の無実を証明するために一人の人間を差し出して来た。入れ!」すると会場の扉が開き善竜会組員に両側から挟まれるようなかたちで一人の組員が入って来た。その顔は腫れあがり、鼻と唇には血が滲んでいる。「こいつは堂嶺会舎弟頭鈴本だ。おい鈴本!」「へ、へい・・・」「鬼斬鉄拳会の陰謀について話してやれ!」「へい・・・俺とオヤジは鬼斬鉄拳会から依頼を受けやした。組長を殺してほしいという若頭派の人間からです。幸い俺等の上には布山がいるから、布山を黒幕にできると考えたみてえです。」「その通り!これが証拠ですぜ、大日方さん。」だが大日方は困惑顔だ。「こいつ、誰だ?布山は俺等を喧嘩させるためにこいつを引き渡してきたんじゃあねえのか?ああん?なあ鈴本さんよお、『真相』を教えてくんねえかな・・・」「ええい、往生際が悪い!」そう言うといきなり原野はピストルを取り出して大日方に突きつける。「会長代行として、てめえを破門する!さっさと出て行け!鬼斬鉄拳会の事務所には戻るんじゃあねえぞ。」そのとき穂村が言う。「兄貴、お待ちを!私もこれは布山の陰謀だと思い・・・」「てめえ、大日方の肩を持つつもりかこの野郎!」「いえ。大日方さんと布山、どちらが信用できるかと考えたとき大日方さんと判断したまでです。」「そうか、そうか・・・別府の叔父貴が死ねば大日方は鬼斬鉄拳会の会長になれるしてめえは善輪会の会長になれるからなあ!だけど・・・俺が阻止してやる。穂村、てめえは破門だ。」「な、なんですって!?兄貴、落ち着いて・・・」「もう破門されたあんたに用はねえっすよ。出て行って下せえ。」と口を開いたのは善輪会副本部長の稲垣だ。「な、稲垣さんあなた・・・」「すみませんが穂村の兄貴、私も原野の兄貴につかせてもらいますよ。」と事務局長の摂津が口を開く。だがこのとき、善輪会副理事長木戸が怒鳴る。「てめえら、会長が意識ねえ間誰がこの会保ってきたと思ってんだ!破門されるべきは穂村の兄貴じゃなくて原野、てめえのほうだぜ!兄貴、あんたも会長代行だ。原野を破門して下せえ!」「おいてめえ!誰に口聞いてるんだこの野郎!」そう言って原野は立ち上がって木戸に殴りかかる。「兄貴・・・おやめください!」穂村が立ち上がり、原野を止める。「触るんじゃねえ!」と原野は穂村を突き飛ばした。

 「お、オヤジこれは・・・」川上が慌てたように星山に問いかける。「くそ、ここまでこじれてやがったか・・・」と星山は舌打ちした。

 原野と穂村はもともと同じ金山組所属であった。原野は熊笹義和会という小さなヤクザ組織に所属していたが、義和会が金山組のシマを狙って抗争を仕掛けた際、組長を殺して組抜けした。原野は善輪会側に回って熊笹を潰し、金山組に入った。実力の高い彼はすぐに金山組若頭にまで上り詰めた。一方の穂村はいわゆる「インテリヤクザ」であり、もともとは証券会社の役員であった。しかし他の役員の不正により会社の価値は下がり倒産。社長と取引した原野が会社の所有者になり、唯一残っていた役員である穂村は原野にスカウトされるかたちで金山組入りを果たした。穂村は組長の武田からも能力を買われ、当時服役中であった本部長の代行に抜擢された。原野がその圧倒的な暴力性で組をまとめ、穂村は突出した経営能力で金山組に多くの金をもたらした。この能力バランスをみた武田は自身の跡目は穂村が継ぐ方がよいと考えた。穂村が原野を制御し、原野が穂村の下で実動を担う体制が良いと考えたのだ。しかし武田が善輪会会長になったことで自身が金山組組長になっても穂村は原野の上に立つことをよしとしなかった。自身を拾ってくれた原野には感謝しかなかったからだ。そこで穂村は武田に対し、自身は原野以外の組員とだけ親子盃を交わすと告げる。それにより原野は穂村の子分ではなく武田の子分扱いとなり、善輪会直系組員となった。さらに穂村は原野に組を持たせるべく原野派に属する組員の組抜けを推奨した。組抜けした原野派組員を原野がまとめ、善竜会が結成されたという経緯がある。しかしそれでも武田は原野より穂村を上に置きたがった。善輪会のナンバー2となるポストに穂村を任命し、穂村の助言により原野には「善輪会副会長」の地位を与えたもののこれは肩書のみのポストであった。自身の舎弟である筈の穂村のほうが会の実権を握る現状に対して原野がよく思っていないという噂も星山の耳に届いていた。そして会長の武田が意識不明状態となったことで二人の確執が明確化した。実質的な「会長代行」として穂村が会を取り仕切るようになったからだ。

 突き飛ばされた穂村は起き上がると冷静に「兄貴、少し頭を冷やしましょう。」と言う。だがそんな穂村に対し、なんと稲垣が殴り掛かる。「てめえは破門された身だ!とっとと出てけ!」穂村は倒れ込み、韮澤が飛び出てその体を支えた。

 「けっ、こんな下らねえ総会なんてやってられっか!」と吐き捨てると原野は稲垣と摂津を引き連れて出て行ってしまう。

 こうして日本議長国最大の暴力団組織善輪会の分裂が始まる。

 

 

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