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侵略

2006年 東京 獄界町

 「これ売ってこいよ、ガキども。」と言って首筋に髑髏と槌と鎌の入れ墨を入れた無精ひげの男が紙袋を銀髪の高校生に渡した。「分かりやした、先輩!」と答えると高校生は紙袋を受け取り、後ろに引き連れていた仲間に言う。「てめえら、これを売りさばくぞ!」「よっしゃあ!」高校生たちは紙袋の中からポリ袋をつかんで駆け出していく。

 「どう、江藤ちゃあん?」無精ひげの男の後ろから声がして髪をピンク色に染め、緑色のカラーコンタクトを入れた女が近づいてきた。「高校の不良どもは使えるな。奴らに高校の中で売らせるぜ。」「いいわね。海棠ちゃんに報告しとくわよ。」「ああ、頼む。」と男は言って満足気に煙草を吸う。


二日後

 星山は若頭執務室で本部長の勝田と共に書類仕事をしていた。

 「すまねえな、勝田。俺はこういうのが苦手でな。」「ふん。分かっていますぜ。」と苦笑する勝田。

 「カシラ、本部長、コーヒーっす!」と言って最近入った部屋住みの有馬がお盆を持って入って来た。

 「すまねえな、有馬。」と勝田。「有馬、お前さ・・・」と星山が言うと有馬の顔が少し引き締まる。「お前・・・やっとヤクザらしくなってきたじゃねえか!」「え、あ、ありがとうございます!」

 「あいつ、いい奴だな。」「そうっすね!」二人の幹部は笑う。

 そのとき、デスク上の電話が鳴る。「ん?」星山は受話器を取る。舎弟の胡桃からだ。「おお、どうした胡桃?」「カシラ、シマ内にヤクが出回ってます。」「ヤク!?」星山がそう言うと勝田が眉をひそめる。

 「今高校生のガキを締め上げたところっす。ガキは高校の不良グループのリーダーだったんすけど、そいつは半グレのパシリだそうです。」「半グレ?随分大胆な奴らだな。どこの組織の半グレか分かるか?」「ガキの入れ墨の証言から推測するに恐らく・・・魔瑠狗須です。」「何だと!?奴ら、小原一家のシマ荒らしもしてたよな?」「ええ。最近奴らの動きが怪しいですね。俺たち善輪会系のシマ荒らしをするということは・・・」「恐らくケツ持ちが付いてるな。」と星山。


2時間後

 「むう・・・」星山は会議室で唸る。

 「こんなにもヤクが出回っているとは・・・本気でシマを荒らす気だな。」と不快そうに米田組長は言う。

 胡桃以外にもシマの見回りをしていた組員は多くいたが皆ヤクを売るチンピラや半グレを締め上げていたのだ。そしてそいつらの証言は皆半グレ集団魔瑠狗須の存在を示唆していた。

 中には複数人の売人を見つけた者もおり、ヤクの蔓延を深刻化しそうだ。

 「奴らを潰すのは無論だがケツ持ちを見つけねえといけませんな。」と言うのは副本部長酒木だ。「そこだよ酒木。皆ケツ持ちはどの組織だと思いやすか?」と星山は意見を求めた。すると若頭補佐の高橋が口を開く。「俺は天城会しか思いつきませんぜ。」「天城会か・・・だが奴らは今サツに睨まれているな。八天黄会と共にな。」と米田。「確かにリスクがありますよねえ・・・」と星山は考え込んだ。

 善輪会含め極道組織にはヤクの販売を禁止している組織が多い。だがそんな中でも天城会は異端だ。

 彼らはいわゆる「外道」であり、ヤクの販売やオレオレ詐欺、ぼったくりバーの運営などで稼いでいる。さらには複数の殺人強盗に裏から関与しているという噂もあった。

 そして天城会を支援する八天黄会もまた極悪なチャイナマフィアだ。東京でヤクが売られるとき、大抵この組織が供給元だ。

だがそれゆえこの二つの組織は警察の目を引いていた。反社会的組織の全滅を掲げる警察長官平出はあらゆる手段を使って監視を強めている。このタイミングで半グレのケツ持ちになるのはリスクが高すぎる。

 「とりあえずだが・・・笹山さんに聞いてみるのはどうでしょうかな?」と勝田。「うむ、それがいいだろう。星山、頼めるか?」と米田組長が決断を下した。


翌日

 米田は笹山が運営するてんぷら酒屋に舎弟の高島と共に来ていた。

 「よお、高島久しぶりだな。」と笹山。「おっちゃん、久しぶりっす!」と高島は元気に挨拶する。

 笹山は米田組の上部団体である原山太闘会の元幹部組員であるのだが、高島はそれ以前の付き合いがあった。高島は今でこそ地味な服を着てかしこまった好青年であるが学生時代は筋金入りのワルであった。父を薬害で亡くし、母親は悪い男に騙された挙句育児放棄をして姿を消してしまったという家庭環境がその背景にある。そんな彼に親切にしてくれたのが当時まだ組員であった笹山だ。高島がいた入所施設を運営する法人が原山太闘会系の法人だったこともあり、笹山を始めとする幹部組員がよく施設に出入りしていたのだ。

 星山は他の客がいないことを確かめると笹山に魔瑠狗須の活動について情報が入っていないか尋ねた。「魔瑠狗須ねえ・・・最近ヤクをばらまいているんだって?」「ああ、もうその情報は入っていましたか。」「ああ、奴らはヤクの売人藤堂からヤクを買っている。」「藤堂?」「ああ。奴は八天黄会にとって天城会の次に有力なヤクの買い手だ。金持ちのボンボン野郎だ。」「拠点は分かりやす?」「もちろんだ。奴のヤサは奴の父親が遺したビルだ。」そう言って奥に入っていった笹山は一枚の紙を持って現れた。「なるほど・・・楼零街っすか。」「ああそうだ。藤堂の父親は楼零観光の社長だった男だ。藤堂はその親が遺したビルを拠点としてるぜ。自称『暴走族総長』だが奴は金に物をいわせて前科者や不良、チンピラを雇って警護させてるに過ぎない。武藤組の協力があれば簡単に拉致できるだろうよ。」


二日後  楼零街

 星山は胡桃と高島を伴って赤田組系武藤組を訪れていた。

 赤田組は現存する極道組織の中で最も歴史が古く、何と江戸時代の大名の血を引く赤田家によって運営されている組織である。そんな赤田家の配下にある武藤組は赤田組若頭塩野に率いられている超武闘派組織であり、界隈では恐れられる存在だ。

 「星山殿、こっちは準備できてるぜ。」と言い、塩野は頭を下げた。「ありがたいですわ。こっちの事情ですに巻き込んでしまって申し訳ねえ。」「なあに、こっちが感謝しなきゃいけねえ立場でさあ。不覚にも俺らがいながらこの街にヤクを売買する野郎がいるとは考えていなかった。星山殿の情報のおかげで・・・」そう言って塩野はにんまりと笑う。「・・・俺らが暴れる口実が出来たってわけよ。ヤクを売る下衆を守る奴らも同罪だ。藤堂の金にたかる虫どもの駆除は気持ちいいい筈だぜ。」


 40分後

 バンを運転していた武藤組の部屋住みが「あん?」と眉をひそめた。

 藤堂の拠点とされていた場所にはパトカーが沢山停まっており、ビルの警護に雇われていたと思われるチンピラ達が警察から事情聴取を受けていた。

 「どういうことだ・・・」と言う星山の携帯が鳴動する。「へい、星山です・・・ああ、笹山さんですかい?」「ああ、今情報が入ったんだけどよお、藤堂の野郎何者かに刺されたらしいぜ。」「え?」「藤堂は刺殺された。あんたらの仕業じゃねえだろ?」「ええ・・・今来たらサツどもがいて・・・」「ああ、そうだろ?だけどサツの捜査は難航するね。」「犯人が分からねえと?」「ああ、そうだ。やったのは恐らくプロの殺し屋だな。」

 


 

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