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師弟の対峙

2007年 草山通り

 「赤城・・・てめえ負けてのこのこと!」魔瑠狗須幹部太田は顔に包帯を巻いた赤城を容赦なく殴りつけた。包帯に血が滲み、赤城はうめくが太田は意に介さない。

 「富樫さんに払う金がねえ・・・畜生!」太田は赤城を突き飛ばしながら部屋中をぐるぐると歩き回った。「くそ!くそ!」

 太田の管理していたキャバクラが敵対組織のアメリカバイカーギャングビィレグファミリーによって爆破された。そしてそれは魔瑠狗須にとって資金源の一つを失うということでもあった。このことに関し、魔瑠狗須のボス富樫が太田に損失を補填するよう迫っていた。

 そのとき、部屋をノックする音がする。「太田さん、東山が至急会いたいと・・・」「うるせえ!今は奴と雑談してる暇はねえ・・・」「それが・・・」「あん!?何だ。」「富樫さんと繋ぎを取ってもらいたいと・・・」「・・・分かった。とりあえず応接室で会う。」


 「で、ボスが出張る程大切な話なのか?」といら立ちをあらわにする太田に対し、向かい側に座った情報屋東山は静かに答える。「ああ。なにせお宅のボスに対し、米田組若頭の星山が会談を申し込んでいるんでな。」「何だと!」「米田組は先の獄界抗争で疲弊している。そこにあんた達が攻撃を仕掛けたからダメージがデカいんだろうぜ。」


翌日 獄界町

 「星山さんが!?」小原一家組長代理の西山は驚きの声を上げる。「はい。先ほど電話があり、情報屋のネットワークを通じて富樫に会談を申し込んだと。」と米田組長。「まじか・・・カシラは何するつもりでしょうかね?だって目覚めたばかりですよね?」と米田組本部長の勝田。「星山は・・・会談の場で富樫と決着をつけるつもりだ。奴は富樫の兄貴分だ。今回の抗争に責任を感じているんだろうな。」と米田。


1時間後 草山通り

 「星山が会談を!」とビィレグファミリー日本支部長代理ピートは驚きの声を上げる。「本当だよ。今米田組は先方の出方を待っているが、半グレ連中が了承すれば闇医者で会談だ。」と答えるのは武器商人の石橋だ。「もし奴らの抗争が終結したら俺等の武器は・・・」「何とも言えねえから念のためいくつか武器を欲しがっている連中をピックアップしておいた。だが・・・俺の見立てだと抗争が終わっても別の抗争が始まる気がする。それもより大規模な。」「ハハハ・・・じゃあ武器を本国に大量発注しておくぜ。」


2時間後 千葉県 丸尾町

 「で、あんたは了承したのかい?」とダスケファミリー日本支部長アントニーは魔瑠狗須のボス富樫に問いかける。「ああ。あの野郎、何企んでやがるか分からねえが奴らの好きにはさせねえぜ。星山の馬鹿は気づいていなかったけどよお・・・俺はヤクザが嫌いなんでな。」と富樫は顔を醜く歪ませながら酒をがぶり、と飲む。


翌日 徳川町

 「そうか東山、情報ありがとさん。で、富樫はどう動くかな?」と半グレ集団閻魔爛弩のボス梅田は尋ねた。それに対して東山は少し考えたあと答える。「富樫は・・・多分米田組側からの会談の申し出に応じるだろうな。」「ほう。やはり魔瑠狗須の連中も疲弊しているのか?」「それもあるが・・・富樫は星山の意図に個人的興味があるみてえだな。」「そうか・・・まあいい。」そう言うと梅田はにやり、と笑って続ける。「米田組と魔瑠狗須の抗争も最終段階か。草山通りと獄界町で動き始めねえとな。」


1時間後 銘游町 

 「これは・・・どうみたらいいんですかね?」と天城会統括本部長の大塚が尋ねる。それに対し答えたのは天城会若頭補佐の竜山だ。「恐らく双方抗争で疲弊しているんじゃねえかな。」そのとき、扉が開いて天城会会長の木田が入って来た。「よお!おもしれことになったきたよなあ?そろそろ反穂村派をたきつけるとするかな。」「そうっすね。八天黄会の連中にも連絡しやすか?」「ああ。いよいよ善輪会切り崩し作戦だ。」


30分後 中華街

 「連絡感謝する。では反穂村派に武器を流してよいかな?」竜山からの電話を受けた八天黄会「龍位」倫は尋ねる。「ああ。そろそろ善輪会切り崩し作戦を開始しよう。」と竜山が答える。


翌日 千葉県 丸尾町

 「そうかいそうかい。あんたらにやられて星山はびびっちまったのかなあ。」と刃桜傭兵団トップの河馬は笑いながら殺し屋示野姉妹に問いかける。「そうみたいね、ふふふ。」と姉妹は顔を見合わせ、不気味な笑みを浮かべる。「うちもあの星山ってやつには因縁があってなあ。もしあんたらが俺等の仲間になってくれたら・・・米田組壊滅の仕事をしてもらおうと思うぜ。」「もちろんよ!加入するわよね。」「ええ。沢山殺せるものね。あっハハハハハ・・・」


4時間後 獄界町

 米田組お抱えの闇医者「押坂医院」の周りには緊張感が漂っていた。小原一家の下っ端、米田組の下っ端、暴走族集団烈火隊の者、そして警察車両が集まっていた。

 「抗争がいよいよ終わりますかね・・・・」と尋ねる部下の巡査に対し、マル暴の富山刑事は険しい顔で答える。「分からん。双方ともこの会談の意図を明らかにしてねえからな。」

 これからかなり重要な会談が押坂医院の中で行われる。米田組若頭星山と、彼の元舎弟で現在は半グレ集団魔瑠狗須のトップである富樫だ。

 そしてその富樫は今やって来たところだ。駐車場に停まったバンから下りて来た彼は後ろに二人の筋肉質な手下を従えている。彼はにやり、と押坂医院の入り口を見上げた。


 「いよいよ奴が来ます!」と有馬が星山に耳打ちする。「よし・・・分かった。」

 星山はベッドの上に腰かけていた。その後ろには緊張した様子の中安がいる。

 そのとき、ドアが空いて薄ら笑いを浮かべた富樫が入室してくる。「久しぶりっすね・・・兄貴!」と嘲笑うように言う富樫に対して「てめえ・・・どの面下げて・・・」と拳を固める中安。「まあ待て。今日は抗争終結の相談だ。やり合うところじゃねえ。」と冷静に星山は言う。「ハハハハ・・・兄貴、いや星山!貴様ともあろうものがビビっちまったかあ!」と富樫。「ふん・・・てめえが差し向けた女どもにやられたんだよ。」「女ぁ~!!おいおいまじかよ、武闘派星山、女にやられる!」と挑発を続ける富樫に対し、「いいから座らんか外道!」と中安が怒鳴った。「おいおい・・・昔は仲間だったじゃねえか水臭えな。」と態度を全く変えず富樫は用意された椅子に座る。その後ろに二人の護衛が立つ。

 「で、今日は会談かいな?」「ああ。俺もお前ももとは同じ釜の飯を食った仲間。殺し合いはやめようじゃねえか。」と星山。「ふうん・・・ふざけんなよ!」と突然富樫は叫ぶ。警戒する中安と有馬がチャカを抜き、後ろの2人の護衛もチャカを抜く。だが星山がなだめる。「サツもいる。殺し合いはやめよう。」

 そんな中、富樫は吐き捨てるように語り出す。


 実はな、俺はガキの頃からてめえらヤクザが嫌いだったんだぜ。野郎どもは俺の人生をめちゃくちゃにしたからな。

 俺の両親は馬鹿だぜ。母親は警戒心がなく、父親は衝動で行動する奴らだ。だけどな、俺は両親が好きだった。いつも自分達より俺のこと考えてた。俺も含めた家族は皆教養ねえ馬鹿だったけどよお、幸せだったぜ。その幸せをあのクソ野郎が壊すまではな。

 あるときな、親父の不在を狙ってセミナー運営をしているとかいう男が訪問してきた。お袋に美容効果のあるセミナーを案内してきやがった。山口とかいう柄の悪そうな女がやってるセミナーさ。まんまと騙されたお袋はセミナーに通った。そしたらそいつ、セミナーのテキスト代やら受講料やら会員料やらお袋から搾り取りやがった。お袋の金がなくなるほどにな。さらによお、闇金してる熊笹とかいう奴を紹介してきやがった。そいつはお袋にセミナー代を貸し付けた。俺と親父に迷惑かけると思って家の金には手を付けなかったんだな。だが熊笹の野郎、返済が滞るとお袋を脅しやがった。それでそいつの仲間だとかいう原野ってやつが出て来た。ハハハ・・・聞き覚えのある名前の野郎だろ?そいつはその当時裏風俗のオーナーだった。熊笹はお袋にそこで働いて金を稼げと言いやがった!クソみてえなセミナーに通いつめ、闇金から金を借り、風俗で働く・・・親父にも俺にも隠し通せねえくらいお袋はやつれていた。そして・・・俺と親父を残して死にやがった。熊笹の野郎が取り立てのために親父に接触してきたとき俺は初めて知ったぜ。お袋を死に追いやったのはセミナーを主催してる山口と闇金の熊笹、そして裏風俗の原野だ。そしてなあ、奴らはグルでヤクザだった!山口は熊笹と事実婚してる女、熊笹は熊笹義和会の会長で原野は熊笹義和会の副会長だったな。奴らは母親を死に追いやった上に親父に借金を返すよう言いやがった!親父は有り金全部渡したぜ。そしてあろうことか弁当屋なんか開いちまった。馬鹿な親父はサラリーマンのままでは俺一人を育てることができねえと思ったんだろうな。だけどな、別に親父は料理が得意ってわけじゃねえ。弁当屋はすぐに赤字になった。だけど俺にはあの飯が旨く感じた。全く凝ってねえ料理だ。誰でも作れる簡単なものばっか出てきた。でも旨かった。愛情がこもってたんだ。だがまたあのヤクザどもが現れやがったんだ。このままでは俺を育てることはできねえと親父に言った。てめえらは子育てしたことがねえくせにな!熊笹と山口の間には子どもがいたけど彼等の世話は部屋住み連中がやってたって話だからな。そんなクソどもになぜか親父は金を借りた。そして・・・あとはまあ馬鹿なあんたらでも分かるだろ!?当然親父は追い詰められた。だけどお袋が死んじまった今俺を置いて死ぬわけにはいかねえよな。親父は生きたよ。でも・・・でもあのヤクザどもが俺から強制的に親父を奪った!親父はな、漁船に送られた。金が返せねえなら漁船で働けとな。俺はどうなったかって?ヤクザどもの「孤児院」にぶち込まれたよ。管理者は熊笹だった。子どもの世話をしたこともねえ連中にクソまずい飯を食わされて黴の生えまくった風呂に入れられて、黄ばんだ硬い布団に押し込まれた。熊笹の野郎、いつか親父は帰ってくると嘘付きやがって!親父とは今日まで会ってねえ。多分海の藻屑にされたんだろな。俺はな、何年間も親父に会えねえとき、それに気づいた。漁船とは分からなかったがなあ、当時は勘で分かった。親父はもう二度と帰ってこねえ。熊笹の野郎は外道だってこともな。で、俺は孤児院を逃げ出したよ。だけど逃げたところで俺は家への帰り方が分からねえ。ヤクザどもは俺に目隠しをして孤児院に連行したからな。で、俺はサツに保護された。俺の話に驚いたポリ公どもはヤクザの捜査をしたらしくてな。そのとき親父が漁船送りになったことを知った。サツの連中は児童相談所に俺を引き渡し、奴らは俺を孤児院にぶち込みやがった。ヤクザどもの経営する「孤児院」の経験がある俺はそこからも逃げ出して・・・不良になった。熊笹の野郎を殺そうと思ってた。だけどな、原野の野郎が横槍を入れやがった。熊笹と山口を殺して勝手に組抜けしやがったんだ。だけどな、奴のおかげで熊笹義和会を潰しやすくなった。熊笹と原野がいねえ組には馬鹿しか残らなかった。俺はグループを率いてそいつらを襲った。「孤児院」の職員も何人かいたな。全員ボコしてやったぜ。それで俺は暴走族を作った。ヤクザみてえに奪う側になってやろうって思ってな。で、あんたと出会ったときその決意が固まった。俺は米田組に入って人生を建て直そうとな。でもなあ、てめえらはつまらねえ連中だった。俺が出会ったヤクザどもとは違う。カタギからはわずかな「みかじめ」を取るだけ。そのくせ平気でカタギから搾取する原野みてえな連中を「叔父貴」として崇めてるんだからよ。馬鹿な話だぜ。だからなあ、俺は小原一家と手を組んだ。片山の野郎が俺の来歴を調べて声を掛けてきた。で、てめえらもよく知る強盗計画に繋がったわけよ。だけどなあ、片山の野郎は俺を使い捨てた。強盗計画が終了すれば俺は邪魔者。海棠とかいう半グレと一緒に勝手に動きやがった。半グレ集団に暴走族時代の俺の後輩がいたのは幸いだったけどな。管理していたキャバクラを爆破されるような馬鹿だが、あいつには感謝してるぜ。


 「だからお前は海棠を消して魔瑠狗須のボスに!」「ああ。俺と太田ならうまくやっていけるからな。族やってた頃みてえにな。しかも魔瑠狗須は半グレや族、不良グループの連合だ。そのボスである俺はチンピラどもから金を搾取する立場だ。やっと俺は『奪われる側から』『奪う側』になったんだよ!だからなあ・・・てめえらのシマを寄越せ。俺から散々搾取してきたヤクザどもは、俺に奪われるんだよ!」

 星山はその言葉を静かに聞いていた。そして、突然立ち上がると「富樫・・・てめえそんな過去があったのか・・・」と言い、富樫の両肩に手を置いた。「ああ、そうだぜ!ヤクザは嫌いですよ!でもあんたらがシマをくれたら俺のクソみてえな過去は帳消しだ。」「そ、そんなめちゃくちゃな・・・」と有馬。「ガキぃ!てめえは黙ってろ。さあ、あんたも一時は俺の兄貴分だった男だな星山?シマを譲れ。」「・・・分かった。」と星山は静かに答えた。「か、カシラ!?こいつらはヤクを・・・」「いいんだ。確かに魔瑠狗須はヤクを売りさばいている。だけど富樫、ヤクで得られる金は米田組と小原一家のシノギを引き継げば得られるだろ?お前がヤクから足を洗ってくれさえすればいいんだ、富樫・・・」すると富樫はがっくりと膝をついた。「あ、兄貴・・・」「富樫、つらかったよな。」星山はかがみこんで富樫を抱きしめようとした。だが、そのとき中安が叫ぶ。「カシラ、危ない!」

 何と富樫はいつのまにかナイフを抜いていた。「てめえに限って組を裏切ることはねえ。どうせシマを譲ったふりして潰してくるんだろ?ヤクザどもは汚いやり方をするからな。」だが星山はナイフに動じず、言う。「すまん・・・富樫。てめえは死んでもらう。」そして富樫のナイフが腹に突き刺さると同時に星山は富樫の首に歯っを突き立て、頸動脈を断ち切った。その口からは血が、そして目からは涙が流れていた。その涙を流したまま、星山は倒れた。同時に富樫の死体も倒れた。

 

 

 

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