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原点

2007年 暗幻街

 今、暗幻街に拠点を置く三堂繪所有の倉庫では二人の男による激しい撃ち合いが勃発していた。

 一人は三堂繪の上部団体である小原一家の幹部岩居。もう一人は倉庫に襲撃を仕掛けてきた半グレ集団魔瑠狗須の幹部赤城だ。

 「悪いことは言わん。立ち去れ!」そう言いながら岩居はマシンガンで赤城が隠れていると思わしきドラム缶を撃ち抜く。しかし、気配がない。

 そのとき、後ろからいきなり岩居の首に手が伸びてきて締め上げる。「よお爺さん、耄碌しちまったかな?」「な!」

 どうやら赤城はドラム缶の後ろに飛び込んだあと、岩居の視界に映らないように後ろに回り込んだようだ。「くそ!」岩居は回されたその手にかみついた。「クソ!いてえなジジイ!」赤城は腕を離すとドスを抜いた。「なるほどな。」岩居もピストルを捨て、ドスを抜く。「肝っ玉の太い小僧だ。やり合おうじゃねえか。」そうして二人は向かい合い、ドスを前に突き出した。

 赤城は余裕の笑みを浮かべる。刃物の扱いは得意だ。常にこのドスと共に歩んで来た人生だ。

 赤城の家庭は複雑だった。赤城が小学校高学年のとき、両親が離婚した。父親が浮気したせいだ。だが実は母親のほうも浮気していた。その相手が母親と再婚し、新たな子どもまで生まれた。そして継父はあまり良い男ではなかった。母親も、金でその男に釣られただけだ。継父は赤城に対して全く興味を示さなかった。それに同調するように母親も赤城に愛情を注がなくなった。これが赤城が不良になるきっかけであった。赤城は中学校さえろくに通わず、小学生から恐喝して小遣い稼ぎをしていた。だがあるとき高校生の不良と喧嘩になってしまう。小遣いをせびった小学生がたまたま近くの高校の不良をまとめ上げている男の妹であったのだ。仲間もいなかった赤城は高校生不良4人で取り囲まれ、少し怯えた。何故なら彼は中学校内では一匹狼であり、外部での関わりは恐喝相手の弱い小学生やパシリとして使っていた小学校の不良しか知らなかったのだ。そして相手はといえば高校内で恐れられ、暴走族にも加入しているという凶悪な不良太田だ。彼は仲間4人に赤城を囲ませたあと、ドスを取り出して言う。「俺の妹にちょっかいかけてくれたじゃねえか、ガキ!」そう言うと太田はいきなりドスを振り下ろして来た。だが赤城が太田の予想とは違う動きをする。何とドスにひるむことなく太田に飛び掛かり、その顔を殴りつけたのだ。だがドスは赤城の腹に深々と突き刺さった。口から血を吐きながらゆっくりと赤城は倒れる。だがその手はしっかりと太田の首に掛けられていた。「てめえ・・・なかなかやるじゃねえか。腹に刺さったドス、お前にやるぜ。」「は?」「俺はな、お前を最悪殺すつもりで来たんだ。だけど・・・てめえ、殺すには惜しい。医者に連れて行ってやる。だがその代わり、俺の手下になれ。」こうして太田にもらったドスを使って赤城は多くの修羅場を潜り抜けて来た。太田が加入していた暴走族にも加入した。抗争相手が武器を出してきても怖くない。太田からもらったドスで自分の身を守った。

 そして今、まさにまたドスが活躍する。この邪魔者を排除するのだ。

 岩居もドスを突き出し、二つのドスがぶつかり合う。「このドスはなあ・・・多くの血を吸ってるんだぜ!今日はそこにてめえの血が加わるかもな!」そう言いながら赤城はドスを一旦下げて伸びて来た岩居の腕をつかんだ。そして金的を岩居にぶち込む。「うっ!」とうめく岩居。「ハハハハハ、もうヤクザの時代は終わったんだぜジジイ!」そう言いながら赤城はドスを岩居の左胸に突き刺した。「さあ、どけ!」

 だが何と岩居は「うおりゃあ!」と言いながら無理やり体を押し出してくる。「何!」驚く赤城の目に岩居の手に握られたドスが突き刺さる。「くそ!」とうめく赤城の上に岩居が倒れ掛かる。既に死んでいる。「うっ!」激痛が走る眼をどうにか抑えながら赤城は立ち上がった。「くそ!手下を呼ばねえと・・」と携帯電話を取り出した時、「岩居さん!?」と大声がした。そして中村率いる暴走族烈火隊が入って来た。「仕方ねえ!」赤城は手ぶらで逃げていくしかなかった。

 残った烈火隊の面々は岩居のもとに歩み寄る。

 「岩居さん!」「ああ・・・君達か・・・三堂さんに・・・連絡を・・・強盗が入った。魔瑠狗須の奴らだ・・・」「わ、分かりました!それよりも・・・おい、医者だ!」「へい!ただいま押坂先生に電話しています!」「まあ待て。私はもう助からん。」「岩居さん、あきらめてはだめです!小原一家にも今連絡しますから!」そう慌てる中村とは対照的に、岩居は冷静であった。「良い人生でしたよ、小原の親父・・・」

 薄れゆく意識と冷たくなっていく体温の中で、岩居は走馬灯のように自分の人生を思い返していた。

 岩居は元々この暗幻街の漁師の家に生まれた。その頃の暗幻街は素朴な下町であり、漁業組合のような組織もなかった。町の皆は自然と協力し合っていた。

 だがあるとき、それを邪魔する存在が町に入って来た。ブラジル人ギャング「ゲレイロス」である。彼等は日本人との共生を目指すブラジル人コミュニティに反対した不良たちが集まったグループで、日本への「植民」を掲げた。彼らは町の中に廃品回収工場をいくつも立ち上げ、表向きは町の粗大ごみ処理に貢献した。だがその裏では違法風俗や死体処理、麻薬密売などの裏稼業に手を染める。その不良分子の存在で、街の治安は乱れ始める。

 そんな中、岩居の家庭に悲劇が起こった。麻薬を吸ってハイになっていたブラジルギャング数名がカフェにいた母親を拉致したのだ。ブラジル人たちは性的暴行を加えた後、母親をカフェの前に戻した。母親はかろうじて生きていたものの、精神疾患になった後自殺してしまった。父親も最愛の妻の跡を追うように海に身投げした。だが地元警察はギャングどもを調査しようとしない。後で分かったことであったが、地元警察はブラジルギャングから賄賂を受け取っていた。こうして岩居は絶望に沈んだ。

 ときを同じくして一人の青年が立ち上がった。ブラジルギャングを暗幻街から追い出そうと呼びかけ、愚連隊を結成したその青年の名前は小原であった。元々新米警官であった彼は、警察内部の腐敗に嫌気がさして退職したのち何度か補導して顔見知りになった不良たちを集めた。

 岩居は両親を失ったあと近所の祖父母が預かったものの、両親がいなくなった心の隙間は埋まらず不良になってしまった。その彼に小原が声をかけた。「おい小僧、ギャング共は害悪だよなあ。あんたはよく知ってる筈だ。」「ああ。それがどうしたよおっさん。」「俺たちはな、ギャングをこの町から排斥する。俺はあのような粗暴な連中を街から追い出すために警官になった。」「ふん!警官だと!俺の両親が死んだとき、奴らはギャング共を追求しなかった。」「ああ、そうだ。だから俺は警官を辞めた。ギャングに金で従う連中と一緒に仕事したくなかった。小僧、俺と一緒にこの街を変えよう。」

 こうして小原に拾われた岩居は後に善輪会金山組傘下に入って「小原一家」となる小原愚連隊に加入したのだ。加入以来小原の信念に共感し、慕っていた彼は小原のために尽くした。

 そして最後まで彼は小原の顔を思い浮かべながら死んだ。


翌日 獄界町

 押坂は憔悴したような顔で米田組若頭星山が入院している病室に足を踏み入れた。彼のことが心配で眠れなかったのだ。

 だがその顔に輝きが戻る。「星山さん!良かった・・・」

 押坂の視線の先にはベッドの上に上半身を起こした星山がいた。彼は押坂に笑いかけると静かに言う。「笹山さんに連絡してくれませんか?少し相談したいことがあります。」



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