狂気の姉妹
2007年 西東京
善輪会所属の情報屋笹山は現在、バーでキャバクラ界隈に潜り込ませた私立探偵と会っていた。彼女の表の顔はフリーの若手ジャーナリスト、裏の顔はキャバ嬢そして裏社会の私立探偵だ。
「店では中々人気な双子姉妹ね。頻繁に魔瑠狗須の幹部・・・確か太田とか言ったかしら?とVIP室で話しているわ。不思議なのはね、太田は彼女らを``お持ち帰り”しないことね。」「他の連中はアフターに連れ出すのか?」「ええ。遊爛堂は魔瑠狗須の管理するキャバクラというだけあって数人の幹部連中が利用する。その利用者の中で最も地位が高いのが太田ね。」「やはりボスの富樫は引っ込んでいるか?」「ええ。魔瑠狗須のボスは滅多に姿を見せないと、幹部連中の間でも話題になっている程よ。」「なるほどな・・・太田は酒さえ飲まないのか?」「ええ。VIP室に入って数十分話して出て行くだけよ。会話内容はオーナーでさえ知らないみたいね。多分客と嬢として話しているわけではないと思うのよ。」そう言い、探偵は顔写真を取り出した。「この二人よ。」
それを見た途端、笹山は「こいつら・・・!こんなところに!」と真っ青な顔で叫んだ。「あらま、お知り合い?」「ああ・・・こいつらは危険人物だ。長い年月で妖艶になってるが間違いねえ。すまんな、これで好きなだけ飲み食いしてよいぞ。俺はいますぐ米田組長と話さねえと!」そう言って笹山は4万円をテーブルにさっと置くと飛び出すように店を出る。「え、ちょっと!?笹山さん・・・」と呼び止める私立探偵であるが笹山はそれどころではない様子だ。
米田組事務所に向かってひたすら走る笹山は封印した記憶を開放した。あの忌まわしい夏の日。
当時原山太闘会の武闘派組員として知られていた彼は自身が用心棒を務めているジム経営者示野からのSOSを貰った。全てショートメッセージで連絡する彼にしては珍しく、電話で彼が副業として経営するカプセルホテルのフロントで会いたいと言ってきたのだ。
その場所に行くと、今にも泣きそうな顔で貧乏ゆすりをする示野がいた。慌てた笹山は彼に問う。「どうしたんですか、示野さん?」「助けてくれ・・・娘達に殺される!」「はい?娘さんとはあのかわいらしい?」と怪訝そうに尋ねる笹山。彼は示野の屋敷に何度か行ったことがあり、そこで勉強に励むかわいらしい姉妹を見かけていた。笹山の把握するかぎり、示野にはその二人以外に子どもはいない筈であった。「そうだ!あいつらは・・・俺の妻を殺した。あいつらが仕組んだんだ!」「な、何を言ってるんです?奥様が突然お亡くなりになってまだ動転なさっているのは分かりますが・・・」「違う!あいつは・・・紀美子は殺されたんだ!あれは不幸な事故なんかじゃねえ!娘達・・・いや、あの化け物どもが話しているのを聞いたんだ・・・」「わ、分かりました。とりあえず事務所へお連れします。」と笹山は動転する示野を落ち着かせながら言う。
示野の妻は3日前、階段から転落して頭を強く打って亡くなってしまっていた。示野は妻ととても仲が良かった。最愛の妻を突然亡くした示野の精神状態は不安定になってしまったようだ。
すすり泣く示野をどうにか組の車の後部座席に乗せた笹山は車のエンジンをかけた。そのとき、いきなり示野が「ぎゃあ!」と悲鳴を上げる。と同時に彼は首の後ろに痛みを感じた。敵対組織や警察とやり合ったことがある笹山なら分かった。これはスタンガンだ。
薄れる意識の中、バックミラーに映ったのは見たことある顔であった。示野の二人の娘だ。どうやって車の中に入り込んだのであろうか。彼女らは笑顔であった。だがその顔は薄気味悪い笑顔だ。目はバキバキと見開いていた。そして示野の悲鳴と血しぶきが車の中に響き渡る。
笹山を心配してやってきた舎弟が組の車の運転席で倒れる笹山と後部座席で大量に刺された示野の惨殺死体を発見したのはそれから2時間後のことである。
笹山が娘を見たのがその衝撃的な事件で最後であった。
同時刻 獄界町
二人の女が同時に左右からナイフを突き出して飛び掛かってくるのを星山はかがんで避けた。だがそこに二人の女から蹴りが繰り出される。星山は蹴りを食らい、一旦転がったものの銃を取り出して立ち上がる。「女だからって容赦しねえぜ!」そう言うと星山はピストルを金髪の女に向けた。だがその直後、激痛が走る。何と黒髪の女もピストルを持っており、星山がピストルを持っていた右手を撃ったのだ。星山の右手からは血が滴り、ピストルが地面に落ちる。と共に星山の下腹部に金髪女と黒髪女が弾丸を撃ち込む。「うっ!」星山は痛みの余り蹲る。防弾チョッキで弾丸は防げているが、衝撃がデカい。「ウフフ・・」金髪女が笑いながら近づいてきて星山の頭を激しく蹴った。「うおっ!」星山が目の前が血でにじむのを感じながら後ろに倒れた。そこに追い打ちをかけるように黒髪女の蹴りが飛ぶ。それは星山の顎に直撃し、星山は骨が砕けるのを感じた。「くそ・・・」と立とうとした星山だが、今度は足に激痛が走ってしまってうまく立てない。「肉を刺すのって気持ち良いわね、お姉さま。」と黒髪女。「そうね。」と金髪女が答える。
何と二人は星山の足にナイフを何度も刺していた。(まずい・・・なす術がねえじゃねえか・・・)星山は唖然としていた。心の中で油断していた。かよわい女に俺が殺せるわけが無いと・・・でも彼女らはやれる。
そのとき、「カシラから離れやがれ!」と大声が響く。運転手の舎弟と彼が呼んだ増援が現れたのだ。
女二人は顔を見合わせ「まあ今度にしましょう。」と言うと路地の奥に走って消えた。
と同時に星山は気を失った。
千葉県 丸尾町
抗争相手の半グレ、魔瑠狗須の幹部を次々と撃破していた星山が妖艶な女の殺し屋にやられたという話は裏社会に瞬く間に広まった。
ここ、丸尾町の刃桜傭兵団拠点にも噂は届いていた。
「残浪さん、星山じゃなく女二人組に殺されたらしいっすよ。」と一人の傭兵が言う。「そうか・・・女二人組と言えば、示野姉妹しか思いつかねえな。」とリーダーの河馬が言う。「示野姉妹?」「ああ。サイコパスの女姉妹だな。幼い頃に両親を殺した殺しの天才どもだ。」「マジかよ・・・やべえな。」「ああ。相当ヤバいぜあの女ども。狂人姉妹さ。まさしくこの刃桜傭兵団に勧誘したい人材だな。」と河馬は笑いながら言う。




