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殺し屋ドニー

2007年 獄界町

 「おいおい・・・うちはそんな真似しねえぞ富山刑事。だってそのアパート、ギャングだけじゃなくて韓国人のカタギもいたんだろ?うちはカタギは狙わねえ。あん?獄界抗争の件はすまなかったな。だけどカタギに手出したのは小原一家片山派の連中だ。ああ。確かに今は小原一家と組んでいる。新生小原一家な。片山が権力を握ってた頃とは違う。」そう釈明すると米田組長は受話器を置いた。

 「親父、西東京の件ですか?」と星山は尋ねた。すると米田は溜息をついて答える。「ああ。西東京の韓国人アパートの住民が全員銃殺された件だ。サツの連中は蝶夢と因縁がある俺らを疑っている。確かに俺は西東京からカタギに迷惑をかける蝶夢を追い出すよう毛利組に指示した。だがあのアパートは蝶夢の奴らが都合よく利用してるだけで、カタギも多く住んでいる。」「ええ。蝶夢と敵対している奴らだとしても、俺らではないですね。」「蝶夢の敵対者か・・・誰か思いつくか?」「西東京は俺らヤクザや蝶夢のようなギャングの他に、族の連中や半グレもいます。だけど、ここまで残忍にやるのは・・・ギャングでしょうな。アメリカのバイカーギャングのような粗暴な連中が思い浮かびますぜ。」「なるほど。話を聞く必要がありそうだな。」


同時刻 楼零街

 楼零街にある暴走族組織「仇走会」は暴走族のOBで結成された半グレ組織で、魔瑠狗須の中核を為す組織の一つだ。その事務所で今、会合が行われている。

 「赤田組の連中、そろそろ潰さねえか?」と一人の幹部。「ああ。俺はそれも考えてた。魔瑠狗須のボスが新しくなったらしいしな。」「そうらしいな。誰なんだ?」「それが不思議でよお、ボスは俺ら末端には正体を明かさねえんだよ。」と仇走会のボスは答えた。

 そのとき、突然ガラス窓が割れる。「くそ!赤田組の連中、遂に仕掛けてきやがったか!」

 そう言いながら仇走会の連中は物陰に隠れる。しかし突然その割れた窓から一台のバイクが突っ込んで来た。「あん?」そう言って少し顔を出した仇走会のボスの頭が突然吹き飛ぶ。「なんだてめえは!」他の構成員達は驚き、物陰から飛び出して必死にバイクの運転者に飛び掛かる。だが運転者は容赦なく全員撃ち殺すと、バイクにまたがって仇走会の拠点を出た。


翌日 獄界町

 星山が情報屋笹山が経営する飲み屋に入ると、既に武器屋の石橋がビィレグファミリーの構成員と共に待っていた。

 「支部長のレニーは入院中だから、代わりにこいつを連れて来た。」と石橋。「へい、分かりやした。で、あんたは支部長代理ってわけだな。」「おう、そうだ。俺はビィレグファミリー日本支部支部長代理のピートだ。」「おう、よろしく。」「で、石橋さんから何か問い詰めたいと?」「ああ。単刀直入に言おう。あんたらビィレグファミリーは取引内容に違反したんじゃねえかって疑ってる。」「何故だ?俺らは石橋さんを通じて高性能な武器を米田組限定で販売している。約束通り相場より安い価格でな。」「ああ。武器に関しては取り決め通りだ。だが・・・あんたはレニーから聞いていないか?」「うん?何をだ?」「俺らはあんたらビィレグファミリーと同盟するに当たって、武器の支援以外での抗争参戦は山て欲しいと頼んだ筈だが?」「ああ。そう聞いている。」「だがなあ、あんたら西東京の韓国人アパートを襲撃したり楼零街の半グレを皆殺しにしたりしたろ?」「俺は関与してねえ。」「本当か?あんたらのやり方によく似てるが?」「ああ。俺は、関与してねえ。だがうちのメンバーは関与してるかもな。」「あん?どういうこった?」「俺らは見習いのジャックスと衣笠、そして護衛隊長のポールを黒人どもに殺された。さらにボスのレニーは入院状態だ。多分バイクには二度と乗れねえだろう。それでな、うちの連中は怒り狂ってる。」「そうか・・・先に仕掛けてきたのは黒人連中だな。だがそのリスクも理解した上でレニーは俺と取り決めをしたと理解したが?」「ああ。確かにそうだな。だが構成員を俺ら上層部が上手くコントロールすべきだとお前は言わなかったな。」「どういう意味だ!?」星山はいらいらしながら問い詰める。するとピートは気持ち悪い笑みを浮かべて言う。「武器供与のみというのはレニーとお前との取引だ。そして俺も支部長代理としてその取引内容を守る必要がある。だがなあ、それ以外の構成員が暴れようがレニーや俺の知ったこっちゃねえ。」「何だと!それは・・・」「用事はそれだけかな?じゃあ・・」そう言うとピートはいきなり立ち上がり、出口に向かう。「おい、お前・・・」「俺らまで敵に回したくねえだろ。」とだけ言い、ピートは出て行っしまう。「ったく・・・俺に払わせやがって!」と石橋が肩をすくめる。

 そのとき、笹山が言う。「暴れている構成員、こいつじゃないかな?」そう言いながら彼は一枚の写真を差し出す。そこには、スキンヘッドで濃い口ひげが顎を覆っている白人男性の証明写真のようなものが写っていた。写真では、オレンジ色の作業着のようなものを着ている。「アメリカの連邦警察に出向していた元サツの友人から手に入れた。こいつはビィレグファミリー本部に所属していた殺し屋ドニーだ。この写真はビィレグファミリー内部に潜入していた捜査官を殺害して収監されたときのやつだな。こいつは一流の殺し屋で、ビィレグファミリー内で恐れられていた。日本支部を作るに当たり、有力戦力としてレニー達と共に日本に派遣されたという情報がある。今は死亡したポールに代わり、護衛隊長になっているみてえだな。ドニーは一度本気を出すと残虐性を発揮するサイコ野郎だ。奴を敵には回さねえほうが良いだろうな。」


4時間後

 「なるほど。そのドニーって奴が勝手に暴れていて、レニーやピートは指示をしていないが黙認してるってわけだな。」と米田。「へえ。そういうわけです。どうしましょうか、親父?」「そうだな・・・奴を俺らで制御するしかねえだろうな。」「え?」「奴は恐らく一匹狼タイプだろう。だがな、だからこそビィレグファミリーに拘らねえ。」「まさか・・・」「ああ。星山、ピートにドニーを米田組に貸してもらえねえか聞いてみろ。」「しかしダスケファミリーとの全面戦争になりやせんかね?」「全面戦争で構わん。ダスケファミリーを潰さねえと、たとえ魔瑠狗須を潰したとしても奴らのヤクを売る第2の魔瑠狗須が出てくるだけだ!」


翌日 千葉県 丸尾町

 「そりゃあ厄介なことになったな。」とダスケファミリー日本支部長アントニーは眉をしかめる。「厄介なこと?」と魔瑠狗須のボス富樫が尋ねる。「ああ。恐らくビィレグファミリーのドニーが動き出した。そいつが韓国人アパートにあんたらの支部を襲撃した奴だ。」「聞いたことねえな。向こうでは有名なのか?」「ああ。ドニーは恐らくビィレグファミリー日本支部で最も残虐非道な構成員だ。生まれつき暴力性があったって話だぜ。」「なるほどなあ・・・だが俺らには精鋭が揃ってる。殺し屋上がりの奴も何人かいるな。」「日本の殺し屋では奴に太刀打ちするのは至難の業だぞ。俺らの中にさえ、単独で奴にかなう奴はいねえ。」「ふうん。そうかい。まあいい。おい太田、示野姉妹を動かせ。あの女どもならドニーを仕留めることが出来る筈だぜ。」と後ろに控えている部下に命じる富樫。


4日後 獄界町

 「おう、ドニーに用があるらしいな。」ピートは隣に座る筋肉質の男を指さす。2mくらいはあろうかという長身だ。そいつの顔は笹山が見せてくれたドニーの写真の顔と同じだ。

 「その男、有用だな。しばらくうちに貸してくれねえかな?」「構わんぜ。だけどなあ・・・ビィレグファミリーの狂犬を上手く操れるかねえ?」とピートは言う。

 ドニーはゆっくりと立ち上がり、星山の後ろに立つとそのがっしりとした手を星山の肩に乗せて言う。「一緒に魔瑠狗須とダスケファミリーを潰そうぜ。」その楽しむような口調に、星山は背筋に寒いものが走るのを感じた。

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