揺れ動く獄界町
2007年 獄界町
「ここが奴らのアジトか。」と星山はつぶやくと5名の組員と共にバンを降りた。
「何の用だ、おっさん。」と赤いジャケットを着たチンピラが片手にバットを持って立ちふさがる。「ここ、ヤクの販売禁止してること知ってるよな?」と組員が問うと「知らねえな。とにかくよお、挨拶もなしになんだその態度は!」と言うとチンピラがいきなりバットで殴りかかって来た。「ふん。」星山は鼻で笑うとしゃがみ込み、ナイフで相手の足を突き刺す。「うおっ。」チンピラは蹲る。「足を刺された程度で情けねえなおい!」と言い、星山は相手の頭を蹴って気絶させた。
「おいてめえら何しやがる!」奥から赤ジャケットの集団が出てくる。「くそ!少々面倒くせえな。」と言いながらも星山はナイフを振り回し、二人の敵の目を切り裂く。
それを契機に赤ジャケットのチンピラ集団と米田組組員の間では大乱闘になる。だがチンピラとヤクザの乱闘では圧倒的な差があった。同じチンピラにしか喧嘩で勝ったことのない赤ジャケット集団はすぐさま圧倒され、リーダーは星山にボコされて伸びた。それを見た構成員達は即座に敵対行為をやめ、降伏した。
「この赤ジャケット集団の名前は何だったか?」と星山は元半グレの舎弟有馬に尋ねた。「こいつらは赤蝮繪です。単なる不良でしたが、恐らく魔瑠狗須の方針転換により奴らのヤクを売りさばく要員としてこき使われていますね。」「なるほどな。やはりこの街に出回っているヤクの大半が魔瑠狗須に原因があるみてえだな。こりゃあ、一度笹山さんに依頼をださなきゃな。」
翌日
「なるほどな。魔瑠狗須についてか・・・実は俺も今調べてる最中だがな、孟についての情報以外ねえな。」「孟?」「ああ。孟っつうのはな、魔瑠狗須で粛清屋をしていると噂の半グレだ。」「そいつはナニモンです?」「奴は元々日系中国人ギャングを率いていた。奴らの主なシノギは闇パチンコ店の経営と違法なAV撮影、ぼったくりバーやキャバクラのキャッチだった。そこに目を付けたのが稲垣連合の総長だった飛田だ。飛田は孟に接触して同盟を結んだ。」「その流れで飛田が魔瑠狗須を結成するとそこに加わったと?」「そうだ。だから奴は魔瑠狗須の創設メンバーだ。魔瑠狗須に入ると奴はギャング団自体を稲垣連合の傘下に入れ、自身は持ち前の銃の腕前を魔瑠狗須内で生かすことを決めたようだな。身内の粛清を主に行うようになったらしい。」「なるほど。もしかしてそいつ、フード被ってます?」「ご名答だ。遭遇したことあるのか?」「ええ。俺らの下部組織に粉かけた連中を潰しに行ったら奴が登場。その半グレ組織のボスらしき女を殺害してバイクで逃亡しました。」「ああ。多分そいつは孟だ。奴は感情を見せない男だ。無表情で人を殺害する、気味が悪い野郎だ。」そう言うと笹山は身震いした。
3日後 埼玉県 亜袋町
高級住宅街であるこの町の中で最も大きい家は政財界を牛耳っていると噂の海棠家の家だ。
モダンな欧米式の屋敷であり、現代建築に携わる有名な建築家を大勢雇って作らせたという。
その屋敷の最上階、会議室では海棠家に属する各界の大物達による家族会議が開かれていた。
「魔瑠狗須のボスになった正輝が死にました。」とゼネコン「海棠グループ」の会長正敏が言う。「何!?兄上、それは本当か?」と問うのは正敏の弟で、とある有名大学の学長を務める英敏だ。「ああ。正輝はボスになる気質に育てたつもりだが、どうやら海棠家としては失格だったようだな。悲しいですが。」と言った正敏の顔には言葉とは裏腹に悲しみの表情は一切見られない。「そうかい。あんたの馬鹿息子のせいで裏社会は支配できなくなったわね。どうするつもりかしらね?」と鋭い声で指摘するのは正敏・英敏の母で「海棠グループ」の顧問を務める頼子だ。「仕方ない。私がヤクザ連中に接触してみますよ。」と答えたのは頼子の甥で与党副幹事長を務める幸三だ。「なるほど。しかしどの極道と組むのです?場合によっては制御しにくい連中もいるかもしれません。」と口を開いたのは正輝の兄で「海棠グループ」中核組織の「海棠建設」社長の毅だ。「私としては天城会あたりがいいと考えているがな。どうでしょうか、叔母様。」と幸三は頼子に意見を求める。「消去法でいくなら天城会が一番最適でしょうね。でも奴らの傘下には飛田組がいるわ。正輝が飛田桐戸を殺したと知ったら飛田組が牙をむくかもしれないわ。関わるのは天城会でもいいけれど、飛田組には注意しなさい。」と頼子は忠告し、会議はお開きとなった。
2日後 獄界町
米田組事務所では緊急会議が開かれていた。米田組本家組員と小原一家幹部が全員出席している。
全組員を見渡しながら米田組長は口を開く。「実は情報屋笹山に敵組織魔瑠狗須の情報収集を依頼していた。その結果、衝撃的な情報がもたらされたのだ。星山、説明を頼む。」
米田の横に座っていた星山は立ち上がると口を開いた。震える声を抑えるようにして。
「笹山さんから今朝連絡が来た。魔瑠狗須のボスが交代したらしい。新しいボスは・・・富樫だ。小原一家の皆さん、富樫の殺害を担当したのは片山一派の組員ではないですか。片山と富樫、魔瑠狗須は組んでいた。富樫と魔瑠狗須による宝石強盗にも恐らく片山一派が絡んでいた。そして富樫は・・・生きている。だが俺らの敵になってしまった。」




