危うい同盟
2007年 獄界町
星山は舎弟の中安と共に飲み屋に足を踏み入れる。
中には米田組御用達の武器屋石橋と彼に武器を卸しているアメリカギャング「ビィレグファミリー」の日本支部長レニーが待っている。
「俺は一昨日この店に来て初めて天ぷらを食べたけど、こりゃあ気に入ったぜ。」とレニーの言葉を伝える石橋。「おう、ありがとさん。」と店主の笹山が答えてレニーに日本酒をつぐ。
「単刀直入に言おう。俺ら米田組と小原一家はあんたらビィレグファミリー日本支部と同盟を組む。」と星山は席に着くと結論を切り出す。「そりゃあ嬉しいぜ兄弟!」と石橋の通訳で言ったレニーは握手を求めてきたが、星山はその手を無視して「ただしあんたらはこの戦争に後方支援として関わる条件だ。ダスケファミリーの連中と抗争をおっぱじめたりしないで欲しい。」と続ける。
レニーは手を引っ込めると数秒考えて尋ねる。「後方支援ってのは?」「ご存じの通り米田組は石橋さんを通じて武器を買っている。武器の出どころは知らねえ。中国人から仕入れたものだろうと、自衛隊から仕入れたものだろうと、ロシア人から仕入れたものだろうと買う。だが同盟後はあんたが石橋さんに卸している武器を全て俺らが買い取る。だが条件があるぞ。」「ほう。市場価格より安く売れと?」「ああ、そういうことだ。あんたらは本国で元軍人連中と同盟したろ?」「ああ、『ソルジャーオブゼウス』のことだな。」「ああ、そうだ。そいつらの持っている高性能な武器を石橋さんを通じて我々に流せ。分かったな。」「ああ、分かった。では同盟成立だな?」「ああ。」
その後レニーは再び手を差し出して来た。星山は今度は握手した。
迎えの車に乗り込んだ中安は隣に座った星山に尋ねる。「この同盟、大丈夫っすかね?」「正直なことを言うと少し不安だな。奴らは俺ら任侠の行動規範を分かってねえ。奴らは金を稼ぐためならどのような卑劣なことだってしかねない。」「そうですね。それに奴らは・・・その・・・レイシストめいたところがあります。」「ああ。奴らは黒人嫌いだ。アメリカの極右連中と違って、白人至上主義というわけではないみたいだがな。あくまで差別対象は黒人限定だということがまだ我々黄色人種にとってはマシだが・・・我々と関係している黒人系連中とトラブルを起こされては困るからな。」「そうですね。ダスケファミリーとの抗争は最悪ですが、その他の黒人連中との小さなもめごとも困りますね。」「そうだ。だからこそ奴らとは最低限の関わりのみにしたよ。」「ブローカーを通じた武器売買ですね。」と中安は納得する。
そのとき、星山の携帯が鳴る。「ほい。」すると向こう側からは小原一家の新若頭皆山の声が聞こえる。「すまねえ。星山さん、お宅の組員をパチンコ店『虹村』に派遣してくれねえか?」「へい。承知しやした。どうかしました?」「うちの二次団体のところにカチコミがありましてな。襲撃してきた奴らのトップと思われる女を生き残りの組員が見ている。腕に蝶を彫ったその女がそのパチンコ店で働いているところを見た情報屋がいた。クラブ内には柄の悪い黒服も大勢いたというから多分奴らが黒です。」「分かりやした。今カタギは?」「いません。今日は休業中です。だが奴らは休業中普段そこにたむろしているとか。」「向かいます。」
30分後 草山通り
星山は「いつでも逃げ出せるようにエンジンをかけておけ」と運転手に命じると中安と共に車を降りた。
「意外と静かっすね。」と中安。パチンコ店にはカーテンがひかれ、中は暗い様子だ。「ああ。そうだな。多分休業中を装ってるんじゃねえか。」そう言いながら星山は扉に近づき、ドンドンと叩く。だが反応がない。
「おい!米田組の者だ!てめえらの正体は分かってる!殺されたくなきゃ、出ろ!」だが反応がない。
溜息をつくと星山は中安に目配せした。すると中安は「俺らの言うことは聞いておいたほうがいいぜ!」と言うと扉を蹴り開けた。
すると「おりゃあ!」鉄パイプを持った黒服達が飛び出して来た。「ふん。」星山は振り下ろされるパイプを手で受け止めながら前蹴りをお見舞いする。二人の半グレが吹き飛んでパチンコ台にぶつかる。中安は拳一つで四人の半グレを気絶させる。
襲ってきた黒服たちを制圧した二人の前にいたのは腕に蝶、そして首筋に鎌と槌の模様が描かれている女だ。彼女の隣には二人の屈強な男が控えている。襲ってきた黒服たちより体格がいい。「あらまあ。化石ヤクザさんね。やっちまいな。」すると男達は腰からピストルを取り出し、前に出た。星山と中安もピストルを取り出す。
そのとき、二人の黒服がいきなり倒れた。奥からフードを被った人物がゆっくりと歩み出てくる。フードのため顔はよく見えない。その人物に対して女は「あ、あなたは・・・」と声を上げたがその人物は女に銃を向けて引き金を引いた。弾丸は女の頭を貫いている。
「誰だ!てめえ!」星山と中安はその人物に銃口を向けるがその人物は素早い動きで裏口のほうに行く。「おい!待ちやがれ!」二人がフードの人物を追いかけるも、その人物は裏口に停めてあったバイクに乗って去っていくところだった。「チッ!」
そのとき、また星山の携帯が鳴る。「もしもし。おう川瀬じゃねえか。どうしたよ?あん?何だと!?分かった。すぐに向かう。」
「どうしやしたか、カシラ?」「川瀬組が襲撃されている。一体どうなってやがる。」
同時刻 場所不明
「そうか。虹村隊の幹部連中は殺したな。何?米田組の連中と遭遇したか。はっはっは、面白くなってきやがったな。」と言うのは巨大半グレ集団魔瑠狗須の新しいボスとなった富樫だ。
電話を終えたトツプ2の太田が確認する。「先輩、本当にジャクリーンの幹部連中にも突撃させますか?奴らが仮にヤクザにボコボコにされた場合幹部がかなり減少・・・」「馬鹿野郎!やられたほうが俺らの手間が省けるだろうが!」「は、はい?」「いいか。海棠は元々複数の組織だった連合体を無理やりまとめようとした。そのせいで魔瑠狗須幹部会の人数が多すぎるじゃねえか。幹部は少なくして大量の下っ端どもを動かす方が効率がいいだろう。幹部は減ったほうがいい。幹部なき組織は組織として機能してねえ。馬鹿な兵隊だけが残る。だがそいつらは逆に言えば・・・俺ら主要幹部の意のままに動かせるってこった。」そう言うと富樫は煙草をふかす。




