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忍び寄る影

2007年 蔵部町

 善輪会総本部の会議室にて小原一家総長小原は米田組組長米田の前に大きなスーツケースを二つ置いて深々と頭を下げた。「すまねえ。これで手打ちとして下せえ。小原一家の解散届は明日提出します。穂村の親父も承知です。」それに対し米田が答える。「分かりました、小原さん。確かにあなたが片山に組の運営を全て任せていたせいで今回の悲劇は起きた。だが、あなた方は片山派と違って任侠です。私は許しましょう。」「え?」すると隣にいた星山が口を開く。「今回の件でうちはかなりのダメージを負いました。なのであなたからの申し出通りシマは全てうちが管理します。ですがね、元々小原一家のシマだったカタギの人たちはあなたを好いています。ですから、うちがシマの管理を委任するという形で小原一家には存続して欲しいと考えているんです。」

 ここで小原一家の上部団体金山組の組長穂村が口を挟む。「それでよいのですか?うちとしては身内やカタギに対して酷い仕打ちをした小原一家を解散させる予定でしたがね。」「私らは構いませんよ。だけど、今度はしっかり組の運営を監視して下さいね小原総長。」と声を掛けたのは米田組の上部団体原山太闘会会長の韮澤だ。

 小原総長は涙を流しながら舎弟の西山の肩を叩いた。「代行、頼むよ。米田組さんのために頑張ろう。」


翌日 行政区

 マル暴の富山は同僚から話を聞いていた。「なるほどなあ。じゃああの悲劇的な抗争は終わったんだな。」「ああ、そうだ。捜査本部も解散した。小原一家の奴を何人か起訴予定だ。」「・・・うん、分かった。状況報告ありがとな。」そう言うと富山は机に向き直る。

 顔は少しやつれていたものの、富山は職場に復帰したのだ。


同日 夜中 千葉県 丸尾町

 2台のバンが古びたバーの駐車場に入っていく。そして小さく警笛を鳴らした。

 するとバーの入り口が空き、筋肉質の黒人が出て来た。彼はバンから下りて来た男達に対し、身振りで「中へ入れ」と伝える。

 バンからおりた男の一人、富樫が手下の町田に言う。「海棠は馬鹿だ。俺はヤクの仕入れ先を見つけて来たぜ。」「まじすか先輩・・・仕事早いっすね。」と目を丸くする太田。そんな太田に対し、富樫は言う。「これからはこのマフィアどものヤクで日本制覇だな。」

 バーの中には柄の悪い黒人達がいる。ある者は浴びるように酒を飲み、ある者は煙草を吸い、ある者は机でポーカーをし、またある者は同じく柄の悪い雰囲気の黒人女の胸をもんで喘いでいる。

 だがそのように楽しむ彼らの向こうの椅子に、じっと富樫達を見つめるスーツを着た黒人の大男がいる。後ろに銃を持った二人のボディガードを控えさせている。富樫は連れの一人の西洋系らしき男に合図をした。その男は少し怯えた様子で前に出てくる。富樫はその男を立たせたまま黒人の大男の向かい側のソファに腰を下ろす。

 西洋系の男が通訳を務め、商談が始まったようだ。

 「ようこそ。何か飲み物は?」と一切表情を変えずに大男。富樫は「大丈夫だ、気遣いありがとう。」と答えた後「あんたとあえて嬉しいぞアントニー、サンプル品はあるかな?」と尋ねた。「金が先だ。我々は先払い方式を採っている。」と無表情の大男。すると富樫は頷いて後ろに控える黒沢に合図した。黒沢は手に持っているスーツケースを開く。中には沢山の金塊。それを見たアントニーは頷く。「いいだろう。取引成立だ、ミスター富樫。」「あんたがたダスケファミリーと取引出来て光栄だと本国のダスケさんにも伝えておいてくれよな。」と言うと富樫は笑みを浮かべた。


3日後 東京 中華街

 穂村はチャイナマフィア八天黄会の幹部連中と顔を合わせていた。「獄界抗争の件はご苦労だったな。」と言うのは八天黄会のトップ2丁。「ああ、ありがとう。で、要件は何だ?」と穂村は警戒しながら問いかける。「軒、説明しろ。」すると二次団体「風天」ボス軒が口を開く。「今回はあんたら善輪会との休戦協定を白紙にしようと思ってな。」「何だと!」穂村がうなると同時、彼が連れている護衛がピストルを抜いた。だが軒は冷静になだめる。「まあ、最後まで話を聞いてくれ。我々が提案したいのは休戦協定を白紙にして正式に我々の間の抗争を終わらせ、そのあと同盟を結ぼうということだ。」「同盟?」「実は・・・我々のビジネスが新たな勢力によって邪魔されている。」「うん?どういうことだ?」「私はヤク取引を商売としているが、そのビジネスを邪魔してくる奴らがいる。そいつらはあんたらのシマも浸食し始めているぞ。」「あん?じゃあ共通の敵がいるってことだな。」「そういうことだ。その情報はまだ少ないが、そいつらが日本人のチンピラ売人だってことは分かっている。奴らは我々の顧客にヤクを売りつけ、顧客を奪っている。」「話が見えて来たぞ。そいつらはヤクの売買を禁止している善輪会関係団体のシマにも進出しているんだな?」「そういうことだ。特に抗争で弱体化している獄界町は危険かもな。」と丁。


翌日 獄界町

 星山は退院した若頭補佐高橋を労う。「リハビリご苦労さん。」「ああ、ありがとよカシラ。で、これから会合でしょう?俺も行きやす。」「おいおい・・・お前は病院から戻ってきたばっかだろ。留守番頼むわ。」「しかし・・・」そう言った高橋の様子を見て星山は苦笑する。「おいおい、カシラの命令だぞ。」「わ、分かった。留守番してますよ。」


20分後

 獄界町内の料亭にて米田組と新生小原一家の会合が始まる。

 米田組側は米田組長、星山若頭、酒木副本部長、早坂舎弟頭の4名が出席している。一方の小原一家は西山総長代行、皆山若頭代行、川上副総長が出席している。

 「小原一家の皆さま、集まってくださって感謝しています。今日は獄界抗争後の残った問題について話し合いたいのです。」と米田が口を開く。「確かにうちの片山がやったことは大きいですな。後始末をしなければ。」と申し訳なさそうに西山。だが星山が続ける。「抗争自体の後始末というよりは、我々のシマを脅かす存在について話し合いたいのですよ。」「といいますと?」「ああ、片山殿は小原さんや西山さんには隠していたかもしれませんが実は裏で半グレ集団魔瑠狗須と一時期手を組んでいました。」と酒木。「なるほど。片山派は一掃したわけですが、魔瑠狗須がまだ残っているんですね。」と皆山が納得する。「拠点は我々のシマである獄界町です。奴らの一掃に、小原一家の力を借りたい」と星山は力説する。すると西山は頷いた。「なるほど。奴らを獄界町、いや東京から叩きだしましょう。」

 

 

 

 

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