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シマ荒らし

2006年 東京 獄界町

 米田組の本部にて原山太闘会二次団体米田組の若頭就任式が行われていた。

 式には米田組の米田組長や勝田本部長を含める米田組組員の他原山太闘会の理事長兼二次団体岸田組の組長川田と岸田組の若頭大久保、二次団体飯村会の副会長大平他四次団体以降の関係幹部数十名が出席していた。

 今は式の終盤であり、新若頭星山が挨拶を述べるところだ。

 「ご存じの通り私の前任者の山城は彼に恨みを抱いていた中国ギャングに襲撃されてしまいました。彼は仁義に厚い人であり、一番弟子である私は彼から渡世のルールを学びました。ですから私は彼のように仁義ある組織を維持そして発展させていくために彼の最大の遺産である若頭を継がせていただく所存であります!」

 出席者全員から拍手が起こる。「これから頼むぞ!信頼している。」と米田が激励する。

 米田により式がいったん閉じられたが、幹部陣が帰ってからも米田組は解散しない。

 「実はな、米田組に入りたいという奴がいてな。紹介したい。入ってこい!」と言う米田の呼びかけに応じて入室したのは金髪でロングヘアの半グレ風の男だ。「自己紹介してみろ。」と米田に言われて彼は「はい!俺は有馬孝輔と申します!俺は米田組の皆さまにこの命を救われました!」と言う。

 「お前・・・あの清獅子ブラザーズに拘束されていた奴か?」と星山が聞く。「はい!仰る通りっす。情けねえことに俺は清獅子ブラザーズの奴らにいかさまを仕掛けるという馬鹿なことをしでかして奴らに捕まっていました。そこに丁度米田組の皆さんがいらっしゃったんです!俺は奴らに縛られてましたが米田組の皆さんは俺の拘束を解いて解放して下さったんです!そこで俺は思いました!いかさまなんて雑魚のすることをしていないで極道として生きてみようと!」

 米田が言う。「ありがとう有馬君。さて、星山お前は有馬君をこの組織に入れていいと思うか?若頭としてお前が判断しろ。」すると星山は即答した。「ダメですな。」「え?」と有馬。「有馬、お前は熱意はあるな。だがなあ、評価できるのはそれだけだ。お前のような浅い考えの奴に厳しい極道界に生きていくのは難しいだろうな。」「・・・そうですか。では俺はどうしたらよいでしょうか?」「うん。まずなあ、お前のその腕の入れ墨。」と言って星山は有馬の腕を指さした。そこにはソビエトの鎌と槌のような入れ墨が彫られていた。「それは半グレ組織魔瑠狗須マルクスの入れ墨だろう?」「へい。魔瑠狗須にも入っておりやす。」「俺らの仲間になるなら魔瑠狗須を抜けろ。そしてその入れ墨を消しな。それからなあ・・・俺らが清獅子ブラザーズを襲撃したのはあんたを救うためじゃなくて俺たちの大切な人が襲われたからだぜ。そこは分かっているよな?てめえは半グレといえども堅気だ。堅気は救わなきゃならねえ。それだけの話だ。それを理解した上でまだ入りたいようだったら・・・」「はい!魔瑠狗須を抜けます!」と即座に答える有馬。米田組に相当な憧れがあるようだ。


3日後 獄界町

 「よし、止めろ!」後部座席の男が命じると運転席のチンピラが車を宝石店の駐車場に入れた。

 「てめえら覆面しろ!」と後部座席の男が言い、助手席のチンピラと男の隣に座っていた二人のチンピラが覆面をする。

 「俺らは待機だ。お前ら、行ってこい!」との男の命令で3人は車を飛び出した。

 

 「いらっしゃいま・・・うっ!」店員はいきなり撃たれ、店の中は大混乱だ。「ハハハハ・・・」押し入って来た覆面男の一人が叫んで筒を投げた。筒からは煙が出る。警報機が鳴った。

 3人の覆面強盗はショーケースを叩き割って宝石類を回収する。


 宝石店の駐車場に二台の黒いバンが入って来たのを認めた男は言う。「よし太田、車を出せ。」「へい!」運転手の太田というチンピラがアクセルを踏み、強盗達を乗せたバンはそのまま逃亡した。

 「ヤクザ連中には感謝しねえといけませんぜ。あの無能共を処理してくれるんでねえ。」と冷酷なことを太田は口走る。「そうだな。今から俺の雇用主にお前を引き合わせてやるよ。」「まじすか!」「ああ。クライエントはお前ら魔瑠狗須のケツ持ちしてくれるだろうよ。」


 「サツに見つからねえようにお前らは半グレどもを連れて帰ってろ。俺が事情聴取をしとく。」と言うと小原一家副本部長野本は泣いている従業員の女性に聴取をし始めた。

 「なるほど。奴らの腕には鎌と槌の入れ墨があったんだな?」「ええ・・・右翼団体かしら?」「いや。奴らは・・・凶悪な半グレだ。魔瑠狗須という連中だな。クソ!皆殺しにしてやる。」


2日後

 星山は有馬を伴って情報屋笹山の居酒屋を訪れていた。

 有馬は結局入れ墨を消して魔瑠狗須と縁を切ったのであった。

 「お!あんたらか。」とカウンター席から声を掛けてきた男がいた。「おいおい・・・何の捜査だよおっさん。」と星山が冗談めかしてその男に言う。

 男は富山。マル暴の刑事だが星山とは昔から「腐れ縁」のようなものがあり、なんだかんだ仲良くやっている男だ。

 「笹山なら小原一家のシマでの強盗事件について情報を得ているんじゃねえかと思ってな。」と富山。「なんだよ。捜査に行き詰ってるんだろ?」「うるせえよ!お前らは何か知らねえか?」「そうか・・・有馬、お前元魔瑠狗須だが何か情報は知らねえか?」「よおあんた、俺は警視庁組織犯罪対策課暴力団捜査係長の富山だ。」「お、おっす・・・俺は米田組の部屋住みの有馬っす。」と言う有馬はこのおっさんがマル暴だと知って少し怯えているようだ。

 「あんた元魔瑠狗須か?」「あ、へい・・・」「実はなあ、魔瑠狗須の奴らが小笠原宝石店を襲った。店長の小笠原と店員1名、警備員1名が射殺されている。駆け付けた小原一家のヤクザの話によると下手人は逃亡したみてえだが、堅気の聞き込みから下手人連中が腕と首筋に魔瑠狗須の入れ墨を入れていたことが分かっている。」「強盗っすか?計画自体は聞いたことねえですが・・・多分太田って幹部の管轄ですね。」「太田?」「ええ。魔瑠狗須のトップ2を張っている奴です。そいつが強盗関連のシノギの管理をしています。」「へえ・・・そうかい、ありがとさん。笹山、その男について何かしらねえか?」「太田かあ・・・有馬君、太田についてなら俺より詳しい奴がいるよな?」「ええ。多分富樫の兄貴に聞いた方が早えかと・・・」「富樫!?」と星山は少し驚く。「え、星山の兄貴知らなかったんすか?太田は富樫の兄貴が暴走族時代の後輩ですぜ。」「へ?」「いやあ俺も知らなかったんすがねね、俺が魔瑠狗須を抜ける話をしたら幹部の太田が暴走族時代の後輩だから口きいてやるって言ってくれたんすよ。そのおかげで俺は半グレ卒業っす。」「そうだな。富樫と太田は面識がある。とはいえ富樫が米田組に入ってからは暴走族関係者との縁は切れてる筈だがな。」と笹山が言う。


30分後

 「マジかよ!富樫が魔瑠狗須幹部と知り合いとはな・・・おい胡桃、富樫はいるか?」と事務所に帰った星山は早速舎弟の胡桃に聞く。すると胡桃は何故か震えながら「それが・・・あいつは今親父に締められています」と言って組長室を指さす。「は?」「あいつ、何かやらかしたみたいです。」

 組長室の前に設置されたソファに座った星山はびっくりして一瞬立ち上がりかけた。

 「てめえ!米田組の看板を汚しやがったな!」そして「うっ!」といううめき声。「指詰めは免れねえぞ!」そして鈍い音。「今から小原一家の方々が来るから大人しく応接室で待ってろ。」

 ドアが空いて鼻血を出した富樫が出てきた。「おいお前、何やらかした!」星山は驚いて富樫を詰めた。「俺ですか?シマ荒らしっすよ・・・」元気なくつぶやくと富樫はとぼとぼと隣の応接室に入っていった。

 「おお、星山。丁度いいところに来た。富樫がやらかした件についてお前にも伝えとかなけりゃな。」という声がして息を切らした米田組長が姿を現した。その顔は深刻そうだ。


 室内に入った星山が開口一番こう尋ねる。「富樫の野郎、何かやらかしましたか?」「それがな・・・」と言って米田は衝撃的なことを口にする。「サツが本腰を入れて捜査している宝石店強盗あるだろ?」「ええ。」「それの黒幕はな・・・富樫だ。」

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