曲げられぬ信念
2006年 獄界町
「あの星山が!?分かった、今行く!」慌てた様子で米田が立ち上がる。
「親父、どうしたんすか?」と聞く書類整理をしながら部屋住みが聞く。「くそ・・・星山が押坂先生のところに運び込まれた!」「なんですって!?たしかカシラは今日・・・」「ああ。安田一家の事務所に行った筈だ。だが今土井から連絡があってな。事務所は既に刃桜傭兵団の手に落ちたみたいだな。」「はい!?」「安田一家の事務所に詰めていた者は皆殺されていた。刃桜傭兵団の幹部の一人加山が全員毒ガスで殺害した。倉崎組の冠城組長は拉致されてる。その代わり事務所には安田一家の下っ端のふりをした小原一家子飼いの半グレ2名と傭兵団の連中がいたようだな。星山は罠にかけられたんだ!」
40分後
「押坂先生、容態はどうだい?」「幸い、命に別条がある程度ではありません。しかし毒ガスを吸引したことにより、ご覧の通り意識がない状態です。最悪の場合後遺症が残り、体が動かせないことも・・・」「そんな・・・」米田はがっくりと椅子に座る。その肩に手を置きながら土井が泣く。「カシラまでやられたら・・・俺らどうすれば・・・」「ああ。あの無敗の星山が気絶させられた・・・俺は刃桜傭兵団を舐め過ぎていた。お前の他のこいつと同行させる護衛を奴につけていれば・・・畜生!!」普段は温厚な米田組長が咆哮を放つ。
翌日
「そうか。野郎の戦線離脱か。よくやった。」と片山は電話の向こうの相手に言う。「あざっす。だがあいつは多分生きてはいます。闇医者を襲撃して殺しましょうか?」と答えたのは刃桜傭兵団の団長河馬だ。「いや。前の襲撃でサツが張り込んでる可能性が高けえ。それはやめとけ。奴が戦線離脱するだけでも俺らにとっちゃありがてえことだ。」「そうっすか。じゃあ報酬のほうは・・・」「無論たっぷり出す。額は?」「そうっすね。今回で5000万ほど頂きますぜ。」「あん?少し高すぎやしねえか、河馬。」「ああ・・・説明不足でしたぁ。毒ガスの加山が気絶直前の星山にガスマスクを外されて死亡してます。加山の手下2名もね。その人的損失に対しての金額を上乗せしてありますよ。」「・・・チッ、分かったよ。払ってやる。」「で、次のターゲットは?」「は?俺らの依頼は星山を殺害することだ。奴が闇医者から弱って出てくるまで待て。」「片山さん、あんた裏社会の王になるんでしょう?まだ殺してえ奴が沢山いるんじゃねえんすか?」「あん?何の話だ?」「ああ・・・俺ら武力だけで傭兵団やってるわけじゃねえっすから。情報をそれなりに収集してますよ。あんたの野望は米田組の壊滅あんてことよりはるかに大きいでしょう。あんたは善輪会、ひいては日本裏社会の王を目指してる。チーマーに殺された親父さんの遺志を継いでね。」「て、てめえ・・・」「まあ警戒しなくていいっすよ。俺らがバックアップしますんで。次に殺したいのは誰ですか?とりあえず米田を殺しますか?」「あ、ああ。米田を殺せ。そのあとはまた連絡する。」
電話を切った片山のは少し動揺しているようだったがその顔には次第に笑みが浮かび始めた。
「親父、計画よりはやく天下を取れそうだぜ。」そう言いながら片山は壁に掛けられた写真を見る。袴を羽織り、胸に鯉の輪彫りがある初老の男が映っている。顔立ちが片山に似ており、その眼光は鋭い。片山はその凛々しい顔だちの男のこと、そして彼が片山に託した思いのことを考えていた。
片山は昔獄界町の一角を縄張りにしていた任侠組織「片山会」の会長の息子として生まれた。片山会は小規模が極道組織であったが獄界町の自警団としての機能を果たしていた。縄張り内をパトロールし、カタギに迷惑をかける不良や暴走族を壊滅させていた。その功績は警察でさえ感謝状を送るほどでった。
だがあるとき獄界町内に別の極道組織が入って来た。当時ものすごい勢いで力を伸ばしていた善輪会の極道達だ。彼らは獄界町内に事務所を次々に建て、飲食店や娯楽施設の運営も始めた。
片山一強であった獄界町内で複数の極道組織が競争し始めたのだ。
そして不運なことに片山一家はその競争に敗れた。片山会長は穏健派であり、新興勢力と対立するよりも共生する道を選んだ。だが善輪会系の連中は地元の暴走族や半グレを取り込み、どんどん勢力を拡大していった。その結果片山会は資金不足になりみかじめ料の支払先を善輪会系に変える店や善輪会系に移籍する組員も現れ始めた。
あるとき片山会長はわずか数名となった組員を集めた緊急会議を開いた。そして静かに語りかけたのだ。「この組にいたままでは将来的にあんたらは餓死する。すまないな。俺が馬鹿なばっかりに。お前たちを組に誘ったときはあんたらにいい暮らしをさせてやるつもりだったんだがな。」そして涙を流しながらこう続けた。「この組は今日で解散だ。これからサツに解散届を出しに行く。あんたらは皆善輪会系の組織に移籍しろ。あの人たちは強い。俺と違ってな。お前たちはそこでいい暮らしをさせてもらえ。」
落ちぶれる会長を見捨てなかった唯一の親族であった片山もその場にいた。そして彼は号泣した。父親の表情はつらそうだった。自分が立ち上げた育てた組を解散しなければいけないのは辛いことであっただろう。そして片山は分かっていた、父親が唯一の肉親である自分を食わせるために組を解散したことを。
その夜、片山会長はチーマーに殺された。組を解散して今は元ヤクザの一人の男となってことを知った因縁ある集団が取り囲み、片山組長が瀕死の状態になるまで暴行を加えたのだ。
そのとき片山は電柱の影で怯えていた。父親が殺されそうになっているのに自分は何もできなかった。チーマー連中が小便をかけて去った後、片山は死んだ父親のところに歩み寄る。
かろうじて意識を保っていた片山会長は息子に語り掛ける。「俺はなあ・・・若けえ頃な、大物に・・・なりたかったんだよ。全ての極道の・・・トップに立つ男になあ。だけど・・・はは・・・それは無理みたいだな。俺は・・・もう・・・死ぬ。お前が・・・極道の・・・いや裏社会の頂点に君臨・・・するんだ!分かった・・・な・・・」そして片山会長は自分を慕ってくれる唯一の親族に看取られてこの世を去った。
「だから・・・俺は米田も、そして上部団体の連中も皆倒さなきゃなんねえんだ。」そうつぶやくと片山は手元の資料を見た。その資料には米田の他自分の直属の上役に当たる小原一家総長や上部団体の金山組の全幹部、原山太闘会の全幹部、その他善輪会会長武田に至るまでの全ての善輪会幹部の写真が載っていた。そしてその皆の下に各々の「殺害計画」が詳細に書かれている。




