狂人部隊
2006年 獄界町
「あいつもつくづく役に立たねえなあ!」片山は机を叩く。組員達はびくっと肩を震わせる。「あいつが星山を仕留めそこねたせいで傘下団体事務所が次々と奴らに潰されてる。奴をこれ以上のさばらせるわけにはいかねえ。だろ?」その圧力を伴った問いかけに組員達が冷や汗を流しながら頷く。「だからお前らには一時的に・・・こいつの下についてもらう。」そう言って片山が指し示したのはサングラスをかけて鼻にピアスをつけた禿げの青年だ。「うっす!初めまして!河馬っす!」と言いながら煙草を吹かす男に組員達は少し眉をしかめる。「河馬は日本唯一の傭兵団の団長でな、何人かの要人の死に関わってる。ここでは言えねえがな。河馬、お前には星山泰全を消してもらいてえ。」「星山っすね。わかりやした。で、兵隊を貸して下さるとか。」「ああ、この下っ端どもは好きに使っていい。確実に星山泰全の息の根を止めろよ。」「もちろんっすよ。星山泰全なんてねえ・・・俺らにとっては雑魚っすから。」そう言って河馬は恐ろしい笑みを浮かべた。
翌日
「で、これがあんたらのアガリね?」と聞いた小原一家二次団体九条組の若頭に対して半グレ組織魔瑠狗須の構成員が答えて分厚い封筒を手渡す。「へい。オレ詐欺からマルチに転換してよかったすよ。オレ詐欺はバイト集めなきゃなんねえし大半の奴は引っかからねえっすから。」「そうか。お前が商材売ってんの?」「いや。俺は違いやす。俺は金主兼護衛っす。売ってる奴はダレンっすよ。」「ダレン!?あの元ホストの野郎か?」「ああ、そうっすね。」「あいつ、本名なんて言うんだ?」「さあ。俺も知らねえっす。」
そのとき突然玄関のガラスが割れ、トラックが突っ込んで来た。運転席からマシンガンを抱えた男が出てくる。「うわっ!星山!」
星山は即座にマシンガンを撃ち、組員たちを葬る。「マルチ商法の黒幕だろてめえら!顔しか取り柄のねえ偽カリスマ野郎は捕まえたぜ!全部ゲロッたぞ!」
「くそ!ダレンの奴、俺らの情報を売りやがったか!」そう言いながら若頭は半グレを突き飛ばして一人だけ助かろうとする。だが星山の弾丸が彼を捉える。「小原一家も堕ちたみてえだな!善輪会から除名してもらったらどうだ!」「ぐがっ!」若頭は腹を抑えながら倒れ、死亡した。
「ゆ、許して・・・」血だまりの中、奥から情けない声を発しながらスキンヘッドの男が出てきた。「お前だな、九条?」「そ、そうです星山さん。片山副総長の指示です・・・」「んなこたあ分かってる!」「副総長に殺されちまう・・・守って下せえ。」そう言って膝をついて手を差し出す九条。「そうか・・・片山の野郎はてめえの組を潰すとかなんとか脅したのか?」「はい・・・俺は組員を大事に思ってる。だから副総長の命令に従うしかなかった・・・」「そうか・・・分かった。米田組に来い。とでも言うと思ったか雑魚があ!」星山はいきなり相手の腹を蹴りつけた。「くそ!」九条の差し出した方の反対側の手から拳銃が吹き飛ぶ。「まずい!」拳銃を拾いに行こうとした九条の後ろから星山が襲い掛かる。そして背中を思いっきり踏みぬいた。「あがががが・・・」うめく九条に対して星山は拳銃を向け、引き金を引いた。「九条組設立は片山が許可したらしいな。お前が片山の情報をくれるとは信用できねえんだよ!」
そう言って出て行こうとしたとき、星山の携帯が鳴る。「へい、もしもし。あ、笹山さん。えっ、マジすか!情報ありがとうございます。」
30分後
米田組の幹部会議が行われていた。
「刃桜傭兵団が参戦したですって!」と勝田本部長が声を上げる。「ああ。まずいな。今までの先頭でも俺たちはかなりのダメージを追ってる。堅気も心配してるし、サツの富山からも警告の電話が来てる。これ以上抗争を激化させれば事務所前にパトカーが停まるかもしれねえとさ。」とため息をつきながら言うのは米田組長だ。
星山は実際に対面したことはないが刃桜傭兵団については裏社会に知れ渡っていた。日本議長国内唯一の傭兵団であり、海外での戦闘の他暗殺や表ざたには出来ない「運び」の護衛などを行っているらしい。金にがめつい連中であり、金のためならどのような外道行為にも手を染めるという噂だ。しかも戦闘経験が豊富で海外の特殊部隊並みの能力を持つらしい。リーダーの河馬は特に強く、メキシコのカルテルで訓練を積み幻の国際的暗殺秘密結社「ブラッドフォアゴッド」の幹部の一人でもあるとされる。敵に回したくない相手である。
「刃桜を相手にしなければならないとなると半グレには構ってる暇がなくなりますね。傭兵どもが動き出す前に半グレを潰さねば。」と星山が提案する。「そうだな。だが魔瑠狗須はかなり大規模な組織であるうえ頭目の海棠の居場所が掴めてねえ。俺らだけではすぐに潰すことは難しいだろうな。」と米田組長は言う。「そうですね。となると傘下の二次団体や族の連中、半グレに召集をかけなければいけねえっすね。」と勝田本部長。「当然それは考えている。勝田、お前は二次団体の奴らを招集してくれ。だがそれだけでは足りねえかもしれねえ。星山!」「はい。」「五和会の倉崎組から連絡が入ってな。彼らのシマが魔瑠狗須に奪われかけているらしいぜ。そのことについて明日正午より先方と会議がある。獄界町内にある倉崎組安田一家の事務所に行ってくれ。」「承知しました。そこで会議ですね?」「ああ。そうだ。倉崎組本部から冠城組長に来ていただくことになっている。頼めるか?」
翌日
「よし、ここで良いぞ土井。すまんな。」「問題ありませんカシラ。ではお気をつけて」「ああ。」
星山は車を降りて安田組の護衛に頭を下げた。「ご案内いたします。冠城は中で待っております。」護衛の黒スーツ二人組はそう言うと星山を案内して建物の中に入った。
(なんか妙な匂いがするな・・・)星山は少し違和感を感じたが護衛二人は何も感じていないようだった。(恐らく普段いない建物に入ったから匂いに慣れないだけか・・・)
「よし。」土井はそう言って車の運転席に戻り、向かい側の有料駐車場に車を乗り入れた。
「冠城は上階の応接室に入っております。」そう言うと護衛二人は入り口のほうに戻っていく。
米田組の組長室をノックする音がした。「どうした?」「組長、大変です!倉崎組の有賀若頭さんより冠城組長を預かったとの脅迫電話がきたと!」「なんだと!?だが俺は今土井から星山が会合に行ったとの報せを・・・まさか奴ら既に!まずい!」
星山は勘で悟り、体をひねって後ろを向くとハンドガンで弾丸を発射した。二人の護衛の頭が吹き飛ぶ。その手には拳銃が握られている。
「ふはははは・・・やはり星山、貴様は強いな。小原一家の下っ端ごときの奇襲は効かないか。」そう言いながら上階に通じる階段を降りてきたのはロングヘアで顎鬚を三角に刈り込んだ男。両側にガスマスクを付けた迷彩柄の服を着た二人の男を従えている。「貴様らは!」星山は悟った。彼らこそ桜刃傭兵団の連中だ。
星山は目の前の男に向かってハンドガンを撃とうとする。しかし超高速で反応した男は腰につけていた釣り道具のようなものを星山に向かって投げた。それは星山からハンドガンを奪った。
と同時両側の迷彩連中が飛び掛かってくる。彼等は星山が交わすより早く飛びついてきた。星山の反応は完全に遅れ、床に押さえつけらえる。「よし、いいぜお前ら。」男はそう言うと腰にかけていた缶を取った。
「くそ・・・まじかよ・・・」星山は缶を見て悟った。「貴様は・・・刃桜傭兵団の加山だろ?」「ハハハ、よく分かったな。」と言って男は醜く笑う。
加山は元々ストリートギャング「亜菩檀」を率いていたがその狂気はストリートギャングの枠に収まらなかった。そこに目を付けた河馬によってスカウトされ入団数日で幹部に上り詰めたらしい。彼は缶に入った毒ガスとガスマスクを常に持ち歩き、ターゲットの居宅や敵組織に突撃するときはそれを用いるという。理由は毒に苦しむ様子を見たいという常軌を逸したものだ。どうやら生まれたときからサディスティックな性格だったようだ。
「てめえ・・・冠城組長をどうした?」「ああ。それだったら小原一家のチンピラが回収して安全圏で保管してるぜ。倉崎組の連中をこの抗争から引き離しててえんだとさ。」「そうか・・・この・・・離せ・・・」星山は体を起こそうとするが迷彩連中の狂気的な力に押さえつけられて動けない。「こいつらの力は強いぜ。ブラッドフォアゴッドで河馬が訓練した奴らだからな。」そう言いながら彼はガスマスクを付けて缶の栓に手を掛けた。「フハハハハ・・・冠城は生かすがてめえは生かさねえ!」
その時、扉がけ破られる音がした。「てめえ!何しやがる!」入って来た土井は迷彩の男の一人の頭を撃ち抜いた。「なにっ!」慌てたもう一人の迷彩は腰から背負った鞄から手りゅう弾を取り出して土井に投げつける。だが土井はそれを蹴り飛ばして拳銃でその男を撃ち殺した。「馬鹿かてめえは!手りゅう弾を使えばこの事務所ごと吹き飛ぶ。そんな自殺行為するわけねえことぐれえ分かってるんだよ!」土井はダミーの手りゅう弾を拾うと加山に投げつけた。「これは爆発しねえが武器としては使えるみてえだな!」だが加山は足を上げるとそれを蹴りつけた。「ちっ、役立たずどもがよお!」加山はそう叫ぶと缶の栓をひねった。「まずい!土井、てめえは出てろ!毒ガスだ!」星山はそう言うと同時、缶の口から気味の悪い緑色の煙が立ち上る。
「うえっ!」猛烈な吐き気に襲われる星山。「ククク・・・最高だぜえ!」加山は狂ったように笑い始めた。だがいきなりその眼前に手が伸びる。「てめえは俺と一緒に死ぬんだ!」星山は加山のガスマスクを外した。「何っ!クソ野郎が!」と叫んだ加山だったがすぐに吐き気に襲われる。
反射的に外に出た土井だったが直後振り返る。「カシラ!」
事務所は緑色の煙に包まれていた。




