遺恨
1998年 東京 銘游町
「そいつにナイフを取られて脅されただあ!なめてんのか!」と言って稲垣連合総長飛田は後輩を殴る。「奴はバイトだったもので・・・なめてました。」と後輩は土下座する。「ああ!なめてるにも程があるぜ!」飛田はそう言うと後輩の頭を踏みつける。「で、そいつはどこのどいつだ?」「あ、アレスの胡桃・・・だったと思います。」「アレスねえ・・・分かった。どうせてめえのような雑魚には勝てねえ。俺がアレスを叩き潰す!」そう言うと飛田はバイクにまたがる。「あ、総長!この雑魚はどうしやすか?」と手下の男が後輩のヤンキーを指して問う。「あん?お前の好きにしろ。俺は先に親父んとこ行ってるわ。」そう言うと飛田はバイクのエンジンをかけた。手下は怯えて泣いている不良にバーナーを突き付けた。「へへへへ・・・てめえ、焼き肉屋に行ったんだろ?焼き肉の気持ちになってみるか?」
この後輩は飛田が総長を務める暴走族の稲垣連合がケツ持ちをしている不良グループを率いている男だ。だが彼の生まれは富裕層。金だけでチンピラを率いていると言われていた。チンピラの格闘技経験者が彼を金のために守っているとも聞いていた。つまり、奴は喧嘩に弱い。
そして昨日恐れていたことが起きた。あのボンボン野郎は油断して同じくボンボンの友人たちのみを連れて焼き肉屋に行き、そこでアルバイトだった不良グループ「アレス」のリーダーと喧嘩して・・・負けやがったんだ!
飛田が向かったのは自分の父親が立ち上げた極道組織飛田組の事務所だ。「よお、桐戸君、どうした?」と部屋住みの男達が話しかけてくる。「ああ・・・調べてもらいてえことがあると菅原さんに伝えてくれ。アレスという不良グループのヤサだ。」「はいよ!!」
翌日
飛田桐戸は再び飛田組事務所を訪れていた。「おう、すまねえが桐戸君、君のお父さんが呼んでいる。」「親父がか?分かった。」桐戸は少し戸惑いながら事務所に入る。父親の飛田孝之はヤクザの組長と言う仕事柄忙しく、桐戸の好き放題にさせていたからだ。
部屋住みの組員が組長室をノックした。「桐戸君を連れてきました!」「入ってくれ。」という孝之の沈んだ声がした。
少し嫌な予感がしながらも部屋に入った桐戸は予感が的中したことを悟った。父親と飛田組若頭菅原が沈んだ顔で待っていたからだ。「お、おい・・どうした親父?」「すまねえが・・・アレスへの粛清はなしだ。」「な、なしだあ!?何故だよ!」「桐戸君、俺らとしても君の後輩のお礼参りを手伝いたい。だが・・・アレスは別だ。」「何故です!?俺なら奴らごとき・・・」「ああ、分かってる。分かってるよ。アレスについて菅原が調べてみたが奴らは新興の高校生のガキ集団だ。お前に対して勝てる奴らじゃねえ。だがなあ・・・奴らを粛清すれば善輪会の連中が出張ってきやがる。」「ぜ、善輪会だと!!」「そうだ。まあ座ってくれ。」
「アレスは今善輪会の準構成員だ。」「は!?あの野郎はそんなこと言わなかった!」「君の後輩か?そうかもしれない。だが今アレスのトップの胡桃は善輪会原山太闘会に入った。」「ああ。すまんな桐戸、俺らは今善輪会を相手にすることはできん。俺の組立ち上げを五和会に掛け合った天城会の連中は俺から金を絞り出そうとしてきやがる。この状況の中で善輪会と敵対すれば飛田組は終わりだ。」と孝之は悔しそうに言う。
「総長、アレスのアジトは・・・」「黙れえ!」近づいてきた手下を殴り飛ばすと桐戸は「胡桃ぃ!許さねえ!いつか殺してやらあ!」と叫んだ。
2006年 獄界町
「本当か⁉押坂先生!!」原山太闘会米田組の事務所にて米田組長は声を上げた。一緒にいた若頭の星山は立ち上がる。「親父、もしかして・・・」「胡桃が退院だ。まだ現場には出せねえが組事務所には戻れるそうだ。」「そうですか!!迎えに行きます!」「ああ、舎弟を付けろよ。お前は小原一家の連中に狙われてる。」「承知しました親父!」星山は立ち上がり、部屋住みの工藤と増崎を呼んだ。「車の準備しろ!!胡桃を迎えに行くぞ!」
20分後
星山達は闇医者「押坂医院」に降り立った。「よし工藤、てめえはここで待機だ!もし敵襲者がいたら・・・このマシンガンで襲ってやれ。」星山は後部座席に置かれているマシンガンを指し示す。「承知しました!」と工藤はそれを手に取る。
「おう!増崎、行くぞ!」星山は意気揚々と階段を上がる。
上階からフードを被った二人の男が下りてくる。「すれ違いにくいから道を開けよう。」星山は脇によろうとして、目を見開く。「おい増崎、伏せろ!チャカを取り出しておけ!!」そう言う星山の目にはフード二人組の手に拳銃が握られているのが見て取れた。
「バレちまったなら仕方ねえなあ。」フード二人組はフードを取る。「小原一家の二階堂でーす!死んでもらうぜ。」「魔瑠狗須の太田だ!」「てめえら・・・さてはうちの組員を・・・」「それはどうかなあ!」と言いながらピストルを取り出した太田に対し、星山は何とタックルを仕掛ける。
「くそ!」足から血を流しながら増崎がピストルを相手の腹に打ち込む。「なかなかいいじゃんお前。だけどなあ、お前も分かってると思うけど意味ないぜ。俺ら防弾チョッキ着てるからな。」そう言いながらものすごい速さでパンチを繰り出す二階堂。
「くそ・・気を付けろ。そいつは・・・かなりのやり手だ。地下格闘技にいたとき・・・何回か試合したが強いぜ。」と警告しながら星山は太田を組み伏せる。しかし「俺はなあ・・・魔瑠狗須のトップ2なんだよ!」太田は蹴りを星山に入れると態勢を立て直す。
「ぐぐぐ・・・」椅子に縛り付けられた押坂は体を揺らしてどうにか脱出しようとする。だが縄がきつく、脱出できない。
部屋の向こうではやっと退院状態の胡桃と応急処置を終えたばかりの望野、有馬が飛田組武闘派の香取と向かい合う。「よお胡桃、アレスの連中は元気にしてるか?」「くそ・・・このタイミングでお礼参りかよ。」「フハハハハ、覚えているようだな。お前は卑怯にも飛田総裁の御子息の後輩を痛めつけた後原山太闘会に入りやがったな。」「ふん。俺が不良をぶちのめしたのは野郎が仁義外れだったからだ。飛田の野郎がそんな仁義外れの野郎を教育出来ていなかったのがいけねえなあ!」そう言うと拳を握って香取に向かう。だが香取はにやり、と笑うと突き出された腕をひねりあげる。「飛田総裁の前でその啖呵を切ってみやがれ!じっくり飛田流の拷問された後殺されるぜ。悪いことは言わねえから降参しろよ。」「ふん。俺はなあ、仁義外れには負けねえよ。」
「胡桃の兄貴を離しやがれ!」望野が飛び出て蹴りを入れようとするが香取はそれをよけ。宙にういた足を掴んで望野を病院の壁に放り投げた。
「うおりゃあ!」ナイフを抜いた有馬が飛び掛かるが香取は軽く笑うとハンドガンを取り出してその手を撃ち抜く。「くそ!いてえなおい!」有馬はナイフを落とすとうめく。
「俺はなあ、元自衛官だぜ。てめえらみてえな不良上がりの雑魚ヤクザとは訳がちげえんだよ!」香取はハンドガンを二丁構えると二人の舎弟に向かって撃つ。「くそ!」二人は机の影に飛び込んだ。
「お前ら・・・大丈夫か・・・」胡桃はそう言いながら拳銃を取り出す。「香取、殺してやらあ!」
「ふん。お前らごとき俺には勝てねえぜ。」そう言うと香取は胡桃よりすばやくその手を撃ち抜く。そして胡桃に飛び掛かると首を絞め始めた。慌てた有馬と望野が起き上がり、香取に飛びついて胡桃から引きはがそうとする。「うるせえ奴らだな!」香取は後ろに大きく振り返り、二人を吹き飛ばすと腰からサバイバルナイフを抜いて両手で構える。「さあ、来いやあ!」「おりゃあ!」二人もナイフを抜いて香取に飛び掛かる。
星山と太田は殴り合っていた。「お前みてえなチンピラごとき潰してやるぜ!」「息切れてるぜ、おっさん!」
その横では壁際に増崎を追い詰めた二階堂が拳銃を取り出していた。「増崎、死ね!」そう言うと彼は増崎の頭を撃ち抜く。
「くそったれえ!」星山は舎弟が撃たれたことに気づいて太田の腹に蹴りを入れるとそのまま吹き飛ぶ太田の体を持ち上げて下に落とした。
「さてと・・・俺も逃げるか。時間は稼げた。」そう言うと二階堂は階段を二つ飛びで駆け下りていく。「待ちあがれ!ゴミが!」星山は拳銃を取り出して相手を撃とうとしたが、「おじさんさあ、押坂のところ行ったほうがいいんじゃねえの?」という捨て台詞を残して二階堂は降りて行った。
「おい増崎・・・くそ!」星山は拳を壁にめり込むほど強く壁を殴った。増崎は頭から血を流している。脳漿が飛び出ており、即死したことは確かだ。「二階堂のゴミは俺が殺してやるからな。」そう言うと星山は上階の押坂医院に向かう。増崎以外の舎弟も失うわけにはいかない。
「ゴミ共がよお!」香取は有馬と望野を地面に転がして蹴りつけた。その顔にはサディステックな表情が浮かぶ。
胡桃が床を這って香取のほうに向かっていく。だが運悪く香取は振り向いた。「おいてめえ、こそこそなにやってやがる!」香取は拳銃を抜くと撃とうとし・・・倒れた。
「くそったれえ!」怒りに顔を染めた星山のタックルだ。彼は倒した香取に馬乗りになり、首を膝で押さえつけたあと顔を何度も何度も殴りつける。
押坂は縛られた状態であることも忘れて驚きの目でその光景を見ている。そこに有馬が近づき、ナイフで押坂を縛っているロープを切った。
胡桃、有馬、望野を押坂に任せた星山は下に下りてきて・・・絶句した。
乗って来た車の運転席のガラスが割れ、そこに脳を吹き飛ばされた工藤がいた。
「胡桃を迎えに行くつもりが・・・すんません。」星山は意気消沈した様子で米田の前で土下座した。だが米田はゆっくりと座席から立ち上がると星山の肩に手を置いた。「顔を上げろ星山。お前はよく頑張った。おかげで胡桃・有馬・望野は救えたんだろ?」「・・・へい。ですが増崎と工藤は死にました。」「ああ。奴らは・・・忠誠心があったな。」と米田も涙を流す。「本当に・・・すんません。」「いいんだ。今は共に悲しもう。」米田はそう言うと星山の顔を無理やりあげさせ、抱き寄せた。「親父・・・」星山の顔から涙が流れる。「奴らの分まで俺らは生きなきゃいけねえぞ。そして・・・この街を仁義外れどもから守り抜くぞ。」
4日後 銘游町
「おう、飛田組が俺らの傘下に入りてえとなあ?理由を聞きますぜ。」天城会の木田会長が目の前で土下座する飛田組の菅原組長に問いかける。「実は・・・五和会から絶縁処分を受けまして。」「絶縁?何故だい?」「俺らが善輪会原山太闘会米田組に喧嘩を仕掛けたせいです。」「奴らに喧嘩?なぜそんな真似をしたんでい?」「実はうちの飛田総裁と遺恨がありましてね・・・」「そうか。五和会はなぜそれが気に入らねえ?」「どうやら・・・米田組から五和会に話が入ったそうでねえ。五和会の連中は無許可でよその組に抗争を仕掛けたから飛田総裁と俺らを組ごと絶縁処分にしやがったが、本音は・・・」「善輪会系を恐れてる。だろ?」「ええ、そうです。」「ふん。こっちに乗りかえてよかったな菅原さんよお。俺らは五和会の連中と違って臆病じゃねえ。いつか善輪会を壊滅させてやろうって考えてるんだからな。いいぜ。飛田組を二次団体に迎え入れてやる。」




