新舎弟
2006年 獄界町
「守屋の兄貴!大森の兄貴が戻ってきません!」と慌てる舎弟の川上に対し、守屋は冷静に答える。「そうかい・・・じゃああいつは負けたんじゃねえか。」「は、はい?」「だからよお、あいつは失敗しやがったんだよ。米田を始末するつもりが野郎が逆に倒されたんだ。」「じゃ、じゃあ大森の兄貴は・・・」「死亡したんだろうな。」「そ、そんな・・・」「まあ野郎の実力はそれだけだったっつうことだ。」「へ、へい・・・」「米田組の連中・・・おもしれえ。次はどいつを仕掛けようかあ。」守屋は何と味方が死んだ可能性が高いにも関わらず笑った。川上は背筋に寒いものが走るのを感じながら部屋を後にしたのだった。
二日後
沈んだ顔の星山の下に米田組長付きの組員長瀬がやってきた。「カシラ、親父がお呼びです。」「そうか・・今行こう。」(ったく俺自身が情けねえな。極道なんざいつ死ぬか分からねえと覚悟決めてたつもりだ。だけど仲間が瀕死だと弱っちまうんだよな。カシラとしてもっとしっかりしねえとな。)
星山は立ち上がるとスーツの襟を整えて組長室に向かう。
「星山、お前・・・ちゃんと寝ているか?」と米田は心配そうに星山の顔を覗き込む。「親父・・・正直いいますと最近の抗争のせいで・・・寝れてねえです。」「そうか・・・お前たちには苦労させていてすまんな。だがヤクをばらまく半グレの支援をするヤクザ組織など善輪会には必要ないんだ。奴らを撃破するまで止まるわけにはいかねえんだよ。」「ええ、分かってます。この抗争、かならず米田組が勝つと信じていますから。」「お前をカシラにしてよかったよ星山・・・」「それで親父、俺を呼びだした理由ですが・・・」「言うまでもないと思うが・・・小原一家はこの喧嘩をやめる気はねえ。今日片山の野郎が電話を掛けてきやがった。先方に送った手打ちの申し出だが、拒否するそうだ。抗争は続行する。」「へい、分かりやした。奴らは外道確定ですね。ぶっつぶします。」「おう。そうだな。お前のガッツは素晴らしい。だが・・・やはり仲間の負傷に心を痛めているんじゃねえか?お前の大事な舎弟達だろ?」「へい・・・・」
今闇医者の下には胡桃、桜井、高橋を始めとする舎弟何人かが担ぎ込まれている。全員意識不明だ。
「俺もなあ、息子同然の連中が傷ついていくのは耐えられねえ。組長っつう立場がなかったら変わってやりてくれえだ。だが先代の親父に組与えられたてまえ俺が現場に出て行くことは難しい。」「分かってますよ親父。親父は俺らの心のよりどころっすよ。親父はここでどっしりと構えていて下せえ。組員としてもそのほうが安全ですんで。」「ああ、ありがとな星山。ところでなあ、お前を呼び出したのはこんな大変な状況の中でも組にとっていい知らせがあるんだ。」そう言うと米田は「入りなさい!」と部屋の入り口に呼びかけた。
「失礼しやす!」と言って両腕に包帯を巻いた若者が入って来た時、星山は叫ぶ。「お、お前は!」「へい!ありがてえことに米田組長からお誘いを受けまして今日から米田組の部屋住みになりやした!望野です!」と挨拶するのは米田組がケツ持ちをしている暴走族集団「烈火隊」の総長であった男望野だ。「こいつのことは知ってるな?」「ええ、そりゃあもちろんですよ。深沢さんを藤沢から守ったって聞いてるぞ望野!」「そうだ。こいつは自分の昔の先輩である藤沢相手にも芋引かなかった。星山も聞いてると思うが腕のこの傷は望野が素手でナイフ持ちの藤沢相手に突っ込んでいったときに出来たもんだ。俺はなあ、それを聞いて感動したよ。こいつは族のアタマ張ってたし、俺もこいつはヤクザより族のほうが似合うと思っていたけどなあ・・・今回の活躍で米田組に迎え入れることになった。」「へい!族ではトップでしたが今日からは一介の部屋住みになりやす!よろしくお願いしやす!」と頭を下げる望野を見て、星山は少し元気が出た。
二日後 草山通り
「やはりこの店の鍋は最高ですねぇ。黒沢さん、あなたいい店知ってますね。」と高級料理店の個室でうまそうに鍋をつつくのは半グレ集団魔瑠狗須のトップ海棠だ。
「この店は飛田組系列なのさ。今回は飛田さんのご厚意で割安料金にしてくれるとさ。」と答えるのは魔瑠狗須のトップ3に当たる黒沢だ。「そうか。ってことはよお、飛田組は俺らに加勢してくれるんか?」と聞くのは魔瑠狗須トップ2の太田だ。「今朝菅原組長から電話があって加勢の方針を決定したらしいぜ。」と黒沢。「ほお、そうですか。それはありがたい。」と海棠は邪悪な笑みを浮かべる。
そのとき、黒沢のポケットの携帯に着信が入る。「はい、もしもし。へい、へい分かりやした。参ります。」そう言って黒沢は電話を切った。「誰からです?」と海棠。「ああ。小原一家の守屋さんからだな。今から俺・・・星山をやりにいくから。」そう言って黒沢が立ち上がる。「あらまあ、彼も大変ね。」と苦笑するのは海棠の連れの女エリカだ。
2時間後 獄界町
「いい店選んだな!」星山はそう言うと烈火隊が貸し切った飲み屋に入る。「へい!俺らの行きつけなんすよ、ここ。店長、星山さん来るって言ったら喜んでましたぜ!」と言って望野は暖簾をくぐる。
「望野さん、お疲れ様っす!」「おお、星山さんじゃないですか!」「望野を米田組に入れてくれてありがてえです!」と次々に声が飛ぶ。
望野は米田をテーブル席の奥に案内し、その隣に望野が座る。「おい中村。お前が新総長になるんだろ?俺の横に座れや。」と言い、星山は烈火隊新総長中村を隣に呼ぶ。
「全員そろったな!じゃあ今から烈火隊総長引継ぎ会を始めるぜ!」と新副総長梶尾が宣言し、引継ぎ会は進行した。
「ようし。じゃあまずは引退する総長望野からひと言!」「へい、本日をもって俺は烈火隊を引退する!お前らと走った時間、楽しかったぜ!俺は米田組に加入した。米田組の舎弟として男を磨いていくからな!見守っていてくれよ!」拍手が起こる。「では新総長中村からひと言!」「へい!俺はなあ望野、副総長としてお前の近くでいつも見ていた!お前は常に俺らの先頭に立ち、喧嘩のときは必ず一番最初に飛び出していったよな。お前が積極的に動いてくれるから俺らは活動できた!ありがとさん。」拍手が起こる。
「じゃあいよいよ酒かあ・・・」と星山が言ったとき、梶尾が言う。「今日はケツ持ちの米田組から星山若頭が来てくださってる!コメントをいただこうぜ!」「お、おう・・・分かった。」星山は少々焦りながら立ち上がる。「ああ・・・まず望野。お前が米田組に加わってくれて嬉しいぜ。俺はなあ、お前のような勇気ある戦士を求めてたんだよ!それから中村!お前の話は望野から聞いてるぜ。お前なら烈火隊を今以上に成長させることが出来る筈だぜ!」「星山の兄貴、ありがとうごぜえます!」「星山さん、総長頑張ります!」二人の目から涙がこぼれる。
「さあて・・・お待たせしやした!では乾杯!!」梶尾が元気よく声を張り上げる。
「ふう・・・楽しかったな。」星山は新舎弟の望野を連れて会場を後にする。「有馬が車を回してくれてる。行くぞ!」「へい、兄貴!」
二人は車にたどり着き、後部座席に乗り込もうとする。だがその直前、星山は「あぶねえ!」と止める。
「流石だねえ・・・」何と車の後部座席から二人の男が襲い掛かってくる。「星山ぁ、往生せい!」とナイフを突き出す男の手を掴んだ星山はそいつを放り投げる。
「いてえな、クソが・・・」そいつは受け身を取ると立ち上がり、地面に落としたナイフを拾う。「ふん、てめえは小原一家の浜口だな。」「おう、良く知ってるじゃん。さあて、今日があんたの命日だぜ。」
「いててて・・・」両腕を負傷している望野は後部座席から飛び出てきた黒沢に組み敷かれている。「死にやがれ!」だがそのとき、その後ろから「ふざけるな・・・」という声がしてチャカを持った有馬が運転席から下りて来た。「気絶したと思ったか馬鹿め!」「有馬あ、この裏切りモンがあ!二人とも殺してやるわ!」黒沢もチャカを抜く。「俺は負傷してるがお前に勝てるぜ。」望野は気合で起き上がり、チャカを握る。
突き出されたナイフを交わしながら星山は浜口にパンチを叩き込もうとする。「おっと!足元注意だぜ!」浜口はパンチを交わす。そして星山の足に激痛が走る。「てめえ・・・いつの間にナイフを出しやがった!」浜口はもう一本のナイフを星山の膝に突き立てていた。
「お前の方が不利だぜ!」浜口はにやにやしながらナイフを突き出す。だが星山は笑う。「動きが単純なんだよてめえはよお!!」そう言うと星山は下から浜口の腹を蹴り上げ、うめく彼の髪の毛をつかむと思いっきり地面に叩きつけた。骨が砕ける音がする。「すまねえが、しんでくれ。」星山は彼からナイフを奪い取ると浜口の首筋に突き立てた。
「ふうう・・おい!」星山は痛む足を引きずりながら車に戻ろうとして慌てる。「くそう・・・」足から血を流しながらナイフを握って立ち上がろうとする望野と鼻血を出しながらよろめく有馬。そして無傷で笑う黒沢。「おいおい、米田組弱すぎねえかあ!何が武闘派だ!」そう言って彼は望野の頭を蹴りつけた。「望野に…手を出すんじゃねえ・・・」有馬は半分気絶しながらも拳銃を取り出す。「おいおい、そんな状態じゃ使えんぞ。」黒沢はそう言うと有馬にタックルを仕掛けて地面に倒す。
「おい半グレ、俺が相手だ!」星山は奪った二本のナイフを構えた。
そのとき、バイク音がする。「おいてめえ!望野と星山さんを襲いやがったなあ!」中村が烈火隊をひきいて駆けつけてきた。
「チッ、邪魔はいっちまったなあ。」黒沢はぼやくと星山達が運転する予定の車に乗り込んで急発進した。
「星山さん、有馬さん、望野さん、大丈夫っすか!」中村と梶尾がバイクを降りて駆け寄ってくる。「あああ、俺は・・・大丈夫だが・・・とにかく二人を闇医者へ・・・」「おい宗像、バンでこっちへ寄れ!三方を押坂さんところ運ぶぞ!」
翌日 銘游町
「飛田総裁、お疲れ様です!」と飛田組事務所に組員達の声が響く。
「おうよ!」と言いながら太った老人は杖を突いて会議室に入る。
彼は飛田組総裁の飛田孝之だ。「で、俺の顔に泥を塗った米田組に復讐できるんだって?」残忍な笑みを浮かべながら彼は飛田組組長の菅原に問いかけた。




