6. 魔法使いと神の獣
オレはなんとかめまいを耐えて起き上がる。やっとこ地面に座り込んで、リリアちゃんと向き合った。
リリアちゃんはもう可愛い振りはしていない。
こっちを睨みつけるようにしてニヤニヤと笑っている。うん、この顔も良い。
オレは膝を抱えるようにして座り、グラグラする頭を抑えるためにその膝に顎を乗せる。その頭に、リヴ爺がぴょんと飛び乗った。
「魔力欲しいの? うーん、あげてもいいけど、リリアちゃん、オレの魔力の10分の1でも容量オーバーだと思うよ?」
「何よ! 魔法使いだと思って偉そうに! 私だって魔術師としては上級よ!」
リリアちゃんが怒った。
そんな怒んなくてもいいのに。
オレが天才なのは仕方なくない?
この世界には生まれつき魔法が使える魔法使いと、ある程度才能があって、そこから術式を勉強して魔法を操る魔術師がいる。
術で魔法を使うから魔術師。フツーに魔法が使えるから魔法使い。
ちなみに魔法って言ったり魔術って言ったり、魔法使いと魔術師をごっちゃにしたり、一般の人にはそんなのどっちでもいいみたい。
そりゃそう。
結果は同じだもん。
ちなみに、意味のわかる人からすると魔法使いって名乗るやつは胡散臭いみたい。
滅多にいないから詐欺師扱いされて取っ捕まるか、国に報告されて希少な人材として取っ捕まるか。
どっちもごめんなので、師匠もオレも魔術師を名乗っている。
「よくオレが魔法使いだってわかったねぇ」
「無詠唱で魔法を発動させておいて、何言ってんのよ! あの速さ、あの量、精密な動き……、悔しいけど本当にすごかったわ……」
「おー! やっぱり? リリアちゃんがすごーいって言ってくれたのが一般人ごっこだったのか魔術師としてだったのか分かんなくてさ。やっぱ魔法がすごいってことね! やったあ!」
「……一般人ごっこ……」
「え? そうでしょ? だから合わせてたんだけど」
「そんな前からバレてたの……?」
「えっと、バレてたっていうか、魔術師だって一目でわかったし……? なのに何も知りませーん、ってフリしてんの、わざとらしくて可愛かったよ?」
くっ……、と歯噛みして顔を赤くしたリリアちゃんは、じろりとオレを睨み上げる。可愛い。
「……あの使い魔たちも私が演技してるって気がついてた?」
「ん? ルビーたち? どうだろ、リヴ爺は気づいてなかったっぽいから、気づいてないんじゃないかな」
オレは頭の上のリヴ爺を撫でる。その指先に、ピリピリとした電流を感じる。
あれ、これ、もしかして何か怒ってるな。くわばらくわばら。さっさと話を終わらせよう。
「……あ、でも、もし気づいてたら師匠猛ダッシュで帰ってきちゃうよ。ねえ、早く付き合う話まとめちゃお?」
「……そうね、魔力は貰えないわねえ。隙を見て殺そうと思ったけど、ここまでバレてたら罠にもかからないでしょう?」
「罠? あ、それとこれとこれ?」
言うと同時に、洞窟の壁や天井が数ヶ所爆発し、槍や矢が飛んでくる。
「きゃーっ!! やめてよ、危ないでしょ!」
「リリアちゃんが仕掛けたんじゃん。クラシカルな罠だよねぇ、可愛いなぁー」
「魔力を使うと探知されるかと思って、物理攻撃にしたのに!」
「仕掛ける時に魔力使ったら残滓が残るじゃん、バレバレだよ、可愛いなー」
「そんなのわかるの、あんたくらいよ!」
それを聞いて、オレはまた驚いた。
「また『あんた』だって! ねえ、これもう夫婦じゃん? 夫婦ってことでよくない!?」
オレは頭の上のリヴ爺をペシペシ叩く。
「違うわよ!! なんなのあんたの偏った知識は!」
「……やっぱ違うの?」
「違うわ!!」
「違うのかぁ……」
がっかりだなぁ。
そこで、ふとリリアちゃんが何かを思いついたように目を煌めかせる。
「……そうね、結婚してもいいわ」
「マジで!?」
「でもちゃんと手順を踏んでくれなくては嫌よ。まずはプレゼントをくれなくちゃ」
「プレゼント!? やるやる、どうしたら良い?」
「まず、プレゼントとして、あなたの一番大事なものを私にくれない?」
「えっ……、一番大事なものかぁ……。うーん……」
「その強そうな使い魔とか……」
「あ! この間杖に良さそうなかっこいい枝拾ったよ! リリアちゃん魔術師だから杖が要るでしょ? あの枝はどうかな?」
「はあ? 枝?」
リリアちゃんが不満そうだ。ヤバい。どうしよう。
「あ!! 根の下にいたとき、めっちゃ珍しい虹色に光る貝の化石を拾ったよ!! 世界中が砂漠に呑まれて化石なんてあんまり残ってないのに、すごくない!? オレずっと大事に持ってんだ!」
「石ぃ?」
あれ? 伝わってない?
「ただの石じゃないよ! 化石! わかる? 貝の形にツヤツヤにキラキラに虹色に光るんだ! 貝もさ、そこらの川の貝と違って、大きくて縞模様が入っててすっごいカッコいいの! 根の下にジジイがいてさ、学者の生き残りって奴で、貝だって教えてくれたの。どう? 欲しくない?」
ハーッ。
リリアちゃんが深い溜息を吐く。
あ、また間違ったみたい。うーん、困ったな。
「枝とか石とか……。私に対する気持ちはそんなものなの?」
「え……、わかんないよ……。ねえ、ごめんね……、どうしたらいい……?」
「……そうね、この国中の宝石を全部ちょうだい……、と言いたいところだけど」
「宝石ね! 今すぐ……」
「待ちなさい!! ホントにできそうで怖いわ」
「え? 出来るよ、ほら」
オレは近場の宝石を3つほど、手元に寄せた。
「大樹の奥の宝物庫のやつはちょっと手間取るけど、3日くらいもらえれば……」
「待ちなさいってば! そんなことしたらあっという間に捕まって死罪になっちゃうわ!!」
「あー、そうだねえ、流石に大樹守護隊は師匠の手にも負えないもんなぁー」
「いいからその宝石も返してらっしゃい!」
「えー……」
オレは渋々宝石を手の中で消し、適当に元の場所に戻した。ちょっと場所がズレたかもしれないけど、まあ大丈夫だよね。
リリアちゃんは、ふーっ、とため息をついて、それからオレの頭の上に目をやる。
「……仕方ないから、その頭の上の使い魔で我慢してあげるわ」
「えっこれ? こんなのでいいの?」
オレは喜んでリヴ爺を差し出そうと思って……。
「……ダメだ、師匠に怒られちゃう」
オレは頭に上げようとしていた手を下ろす。
あと、オレ多分リヴ爺の電撃で死ぬ。
「このガマガエル、ホントは師匠の使い魔なんだよ……。オレ借りてるだけなんだ」
「まあ、そうだったの?」
リリアちゃんがにっこりと笑う。可愛い。
「大丈夫よ、魔法で縛って私と契約させちゃえばいいでしょ? 私と新しく契約しちゃったら、師匠さんだって手を出せないわ」
「えー、ムリだよー」
「なんで? あなたくらい魔力があったら強制契約も出来るでしょう? ねえ、あなたすごいもの……、ね?」
「え? そう? うぇへへへへ」
褒められた。嬉しい。
「……でも無理なもんは無理。強制契約は相手を死ぬほど痛めつけなきゃじゃん」
「……可哀想、とでも言うの?」
「可哀想? ……いやいや純粋に無理だって。戦うってことは反撃もしてくるってことだよ? リヴ爺の電撃痛いもん」
「痛……!?」
あれ、リリアちゃんの顔が怖い。
リリアちゃんは再び深いため息をついた。
「痛いからイヤなんて……、あんたの気持ちはその程度ってことね」
「えっ」
『気持ちがその程度』って、どういう意味?
「わ、わかんない……、でも、ホント無理だよ?」
「……はあ、もういいわ、私がやる」
「えっ!? だから無理だよ! 無理無理無理、ぜぇぇぇったい無理だから!」
「あんたより弱いからっていうんでしょ? 大丈夫よ、私には最高の使い魔がいるんだから」
「最高の使い魔?」
オレが首を傾げるのにも構わず、リリアちゃんは呪文を唱える。
――プチ・パレット!
空中に、小さな、絵の具の乗った板が現れる。
リリアちゃんの手の中で杖が小さな筆に姿を変え、リリアちゃんはその筆をパレットの上から空中にシュッと走らせる。カラフルな光が筆の動きに沿って走り……。
パチパチパチッ。
リヴ爺が放電する。
「いてててて、なになにリヴ爺!」
言ってから、あ、この怒りの気配は……、と察する。
もしかして? まさか?
「待って待ってリリアちゃん、その使い魔出さないで!」
オレは焦ってリリアちゃんを止める。
けど、間に合わない。
「出なさい、リヴァイアサン!」
リリアちゃんは縦に平たいヘビのような使い魔を呼び出した。
さっきの大蛇よりよっぽどデカい。
人の背の高さくらいある壁のような銀色のそれは、くねくねと洞窟の床に這い、洞窟の入り口を塞ぐ迷路のようになった。
「あーやっぱり……。リリアちゃんそれはダメだよぅ……」
嘆いたオレの頭の上でバチン! と火花が散る。
「いでーっ!!」
同時に、リヴ爺がオレの頭を蹴って地面に降り立つ。
「り、リヴ爺、落ち着いて、こんなところで本性出したら危ないからね、そうだ、オレ一旦外に出るから、その後で好きにしてもらって……」
「わしのなぁ……」
「りっリヴ爺……」
「わしの女房はそんな貧弱な水蛇などではないわ!!」
叫ぶと同時にリヴ爺は弾けるような光を放ち、それが一気に膨れ上がる。雷鎚が洞内を跳ね回り、岩壁にヒビが入る。
「あああああぶあぶ危ないぃぃい」
バガァァァン!!
すごい爆発音とともに内側から山体が破壊され、オレは電撃に弾き飛ばされる。岩が崩れ落ち、ふもとの金の花の草原にまでバラバラと石が降り注ぐ。
わあ……、お空きれい……。
オレは岩と一緒に空を舞い、涙の尾を引きながら草原に落ちてバウンドし、コロコロと花を散らしながら転がった。
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