表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国護りの大樹の敵対者……なんて面倒な立場はごめんだね! 師匠には悪いが、教わった魔法でオレは遊んで暮らしたい。  作者: 青風ぱふぃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/9

4. 井戸の異常と金の花

 昼過ぎになって、リリアちゃんは帰らないとマズい時間になったらしい。


 リリアちゃんは元気なく挨拶をして扉を開け、ふと薬屋の看板を見て、あっ、と声を上げた。


「もしかして、魔法じゃないなら……、えっと、水が汚れてるだけで、そのせいでみんなの体調が悪くなっているんだったら、お薬で水をきれいにすることも出来ますか?」


「ん? そうだねえ。ていうか、何、体調崩したってことは、みんなその変な水飲んだの? 勇気あるなあ」


「最初は気が付かなくて……。みんなが具合悪くなってから、よく見たら水がうっすらと黄色みがかっていて……」

 汚水が混じったのかな?


「みんな、目眩や吐き気で寝込んじゃって、特に子どもに症状が重くて……」

 汚水なら軽い食中毒も起こすよなぁ。


「でも、畑に撒くと作物が異様に育ったり……」

 ……ん? 肥料的な物質の汚染なのかな?


「人によってはすごく元気になったり……」

 ……んん?


「でも、元気になる人は、ぱあって金色に光って、寝ないで3日ほど働いた後ばったり倒れるので、やっぱり良くないんだと思います」

 ……んんん?


「……で、水は薄黄色いですがすごく透明で濁りもなく、ポコポコと細かい泡が湧いている感じです。ええと、リンゴ酒のような……」


 ……………。


「えええええ!?」

 少しの沈黙の後、オレは大きな声を上げた。

 リヴ爺もカウンターの向こうでガタッと音を立てた。そうだよね、そういうことだよね!?


「えっ、何か危ないものですか?」

 オレが急に大声を出したので、オロオロとリリアちゃんが狼狽える。


「……あっいや、なんでもない。そういう水を浄める薬はないかなー。一時的なものの気がするので、少し様子を見たらいいかもー。お役に立てなくてごめんね、じゃあまたね、リリアちゃん」


 オレは平静を装ってリリアちゃんに手を振る。


 その背を見送りながら、ルビーが小声で言う。

「……送っていくよ、とは言わないところがウィズさんらしいですね」

「え? 送る? なんで?」

「……。……送ればたくさんお話できるでしょう?」

 困った顔をした後、少し考えてルビーが言う。

「あと、危ないことかあった時、守ってあげたらカッコいいよ」

 サファイアも言う。


 オレは意味がわからなくて首を傾げる。


「誰かと喋ってたら歩くの遅くなるじゃん。急いで帰るのにウザくない? あと、危ないことって何、来た道帰るだけじゃん。なんかあったら自分で何とかするでしょ」

「……まあそりゃそうなんだけど」

「伝わりませんねえ……」


 ふたり揃ってそんな呆れた顔しなくて良くない?


「てか、夕方になったら花弁ペタル降るじゃん、オレが帰れなくなるけど?」


「それはそうですわね……」

「いや、あんたはそれこそ自分で何とかできるだろ!」

 サファイアが怒った。

 え、だからみんな自分で何とかできるでしょって言ってんじゃん……。なんで怒ったのかわかんない。サファイア怖。


 そうこうしてるうちに、リリアちゃんの背が道の向こうに見えなくなった。それを確認して、オレは店内へ駆け戻る。


「リヴ爺!」

「うむ! すぐにアックスに使いを出して……」

「アスタル村に行こう!」

「……何?」

 不審げに顔を歪めたリヴ爺を引っ掴んで頭に乗せ、店の外へ駆け出す。


「待て、こら、ウィズ!」

「どこ行くんですかウィズさん!」


 アスタル村に行くって言ってんじゃん。


「勝手なことをしたらダメだよ! マスターに怒られるよ!」

 サファイアがオレを捕まえようとしたが、オレは店の横に立て掛けてあった洗濯桶を蹴倒して飛び乗り、空高く飛び上がる。


「なぜ洗濯桶……! まったくもう、ほうきだったり臼だったり、そこらにあるもの手当たり次第に乗り物にして……! それ、ちゃんと壊さず持って帰ってきてくださいよー!!」

 ルビーの声を背に、オレは爆速でアスタル村方向へと飛び出した。


   *   *   *


「……さて、ここが村の井戸の一番上流だと思うんだけど」


 上空から、村にいくつかある井戸の配置を確認し、一番高いところにありそうな井戸のそばに降りる。

 村人はリリアちゃんの言う通り体調があまり良くないようで、外に出ている人が全然居なかったので、誰にも気づかれずに着陸出来た。


「いやー、ホントにシュワシュワしてるねぇ。普通これ飲むぅ? どうなってんのこの村の人達」

 オレは呆れて肩をすくめる。


「さて、沢まで水を汲みに行くってことは、井戸全滅なんだよねえ? ってことは、水脈全部なんだろうから、ここより上を調べるのが良いよね、ね、リヴ爺」

 返事はない。頭の上のリヴ爺からは怒りの圧を感じる。


「リヴ爺! いつまで拗ねてんの。そんなだから奥さんに捨てられるんだよ」

「やかましい! 捨てられてはおらん!」

「すぐ怒鳴るー。そういうとこだよー」

「……ッ」

 バリバリバリ!


「ぎゃー!!」

 雷撃に打たれてオレは地面に倒れ伏す。


「こうなるのがわかってるだろうに何故わしを煽る……」

 ジンジンとした耳鳴りに混じって、リヴ爺の呆れた声が聞こえてきた。


   *   *   *


「ほれ、こっちじゃ。モタモタするな」


 ベタン、ベタン、と跳ねながら、リヴ爺が水脈を辿る。

 オレは草を掻き分け木の根を踏み越えながらリヴ爺を追う。木が生い茂って空飛ぶ洗濯桶は使えないし、つまり担いだ洗濯桶がただの荷物で邪魔だし、斜面は疲れるし。オレは不満たらたらだ。


「ねー、まだあー? 夕方までに帰れなくなっちゃうよー」

「少しは自分で探さんか! 気配くらい分かるじゃろ!」

「えー? めんどくさーい」


 ジロリとこちらを振り返り、リヴ爺はパチパチっと火花を散らす。


「わぁ、待って待って、わかったから! んーと、気配気配……」

 オレはリヴ爺が進む方向へ意識を飛ばす。


「あ、なんだ、もうすぐそこじゃん」

 言いながら、森の中を洗濯桶と共にもたもたと少し走り、そこにあった岩に登ると、不意に視界が開けた。

 目に飛び込んできたのは一面の金色。


「うおっ、すげー!」


 木々の間、ポッカリと空いた、少し窪地になった平原。はるか向こうの山肌に小さな崖がある。

 その崖にあいた洞窟から流れ出す金色の小川が、平地へと広がり、ここを金色の湿地にしている。そして、その湿地には見渡す限り小さな金色の花が咲いていた。


 風に揺らいで太陽を弾き、一面にキラキラと光の粒が散る。

 風の流れに合わせて波のように光が流れたと思うと、凪いだ風にかすかに揺らめいて、小さく瞬く星のようになる。


「うわー、これ上空からならすげえ目立つんじゃない? 1日で往復できる範囲だよ? なんで師匠気づかなかったの?」


「アックスは目立たぬようなるべく空を飛ばないからの」


「そんなことしてるから灯台下暗しになるんじゃん。さて、じゃあ師匠を出し抜いてあの洞窟の探索だ! たぶんあそこに……」

 オレは言いながらニヤッと笑う。


「……金葉リーフがあるよね」


   *   *   *


 オレは洞窟を進む。


 中は暗く、魔法で光の玉をいくつか浮かせて道を照らす。


「こっちの方から水が流れて来てるねぇ」

 水を踏まないよう気をつけながら、立ち止まって少し先を伺った時。


「キャーッ!!」

 洞窟の奥から女の子の悲鳴が聞こえてきた。


「リリアちゃん!?」

 オレは声の方に駆け出した。


   *   *   *


 洞窟の奥は中庭のようになっていた。

 屋根が崩れたのか、ポッカリと丸く空が見え、そこにこんこんと清水の湧く泉があった。

 泉の周りにだけ丸く日が当たり、その奥はまた暗くなっている。


 その薄闇を透かして、巨大なヘビがとぐろを巻いてこちらを睨んでいるのが見えた。


 そして泉の手前には、ヘビと向き合うようにしてリリアちゃんが立っている。


「リリアちゃん!」


「あっ……! ウィズさん、来てくれたんですね……!」

「うん。なにこれ、どういうこと?」

「あ、あの、私、水の汚染の元がもしかしたらこの水源の泉のせいかと思い立って、来てみたら、あ、あのヘビが……」

「へえ……」


「そ、それであの、泉がシュワシュワしてるんですけど、あの、あのヘビのせいですか……?」

「ええと……」

 あのヘビにそんな魔力はないなあ。なんて答えよう。なんて答えるのが正解かな?


「あれはええと……、蛇の魔物、サーペントってやつでぇ……」


 オレが考えながら喋っていると、不意にその大蛇サーペントが鎌首をもたげた。


「シャーッ!」

「キャーッ!! にっ、逃げましょうウィズさん!!」


 リリアちゃんがオレの手を引いて来た方へ走り出そうとする。手、ちっちゃい。ちょっとヒンヤリしてる。可愛い。


「ウィズさんっ……!」

「あっはいはい、戻るのね、はいはい」

 ぐいぐいと引っ張る可愛い手を堪能してたら怒られた。しょうがない、走るか。


「シャアアアアッ!」

 這う音とともに、大蛇サーペントの威嚇の声がする。追いかけてきてるらしい。

 大蛇サーペントには狭いだろうに、よく追いかけてくるな。


 リリアちゃんは右に左にと洞窟を逃げ回る。

 出口こっちじゃない気がするけど、まあいいや、リリアちゃんの行きたい方について行こう。


 そのうち息が上がって速度が落ちてきたリリアちゃんが、泣きそうな声で言う。

「どうしよう、ウィズさん、出口わかんなくなっちゃったぁ……」

「あははは、やっぱり? なんか方向違うと思ってたんだよね」

「わかってたんなら言ってくださいよぅ!」

「えー? 追いかけっこ楽しんでるのかなって……」

「楽しくないです!」

 と怒って振り向く。可愛い。


 気がつけば、大蛇サーペントの気配はいつの間にか消えていた。リリアちゃんとオレは足を止めて、少し休憩することにした。


「っていうかさ、リリアちゃん、洞窟の道わかんないの?」

「落ち着いてたらわかります、ちょっとパニックになっちゃって、ごめんなさい……。あと、灯り、ありがとうございます。私、ランタンを泉のところで落としちゃって……」

「ん? ああ、そういえば」

 見れば光の粒がいくつか、オレたちのまわりをゆるゆると回っている。

 そっか、光魔法つけっぱなしにしてた。


「……もしかして無意識ですか……? すごすぎるでしょ……」


「ええ??」

 この程度で? リリアちゃん、魔法の評価、過大すぎない?


 笑ったオレに、リリアちゃんは不満そうにほおを膨らませる。可愛い。


「ウィズさんは自分のすごさがわかってないんですよ!」

「えー、オレにとっては使えて普通だからなぁ」

「……ウィズさんは、魔術師になって長いんですか?」

「オレ? オレは生まれた時から魔術師だよ」

「すごっ」

 あはは、とリリアちゃんが笑う。

「そしたら、生まれる前から魔術の勉強をしてたんですね」

「……あっそうなるのか、うんそうだねアハハハ」

 オレは慌てて笑って誤魔化す。オレが生まれつき魔法を使えるのは秘密だった。やばいやばい。


「頭の上のカエルさんはもしかして使い魔さんですか? 可愛くて強そうですね!」

「可愛い? これが?」

 笑い飛ばそうとして、ふと引っかかる。

 『使い魔さん』?


「リリアちゃん、そういうの、あんまり表で言わないほうがいいよ」


「えっ?」


「魔術師の事に変に詳しいってバレると、大樹の守護隊に目をつけられるよ」


「あ……、そ、そうなんですね。私、今度の件で色々調べてたものだから……」


 リリアちゃんがオロオロと言い訳を始めたその時。


 リリアちゃんの後ろの闇の中から、音もなく、ぬっ、と大蛇サーペントが顔を出す。


「わ、リリアちゃん、後ろ……」

「えっ」

 リリアちゃんが振り返ったときは遅かった。


 大蛇サーペントはリリアちゃんをパクっとくわえ、あっという間に洞窟の奥へと姿を消した。


「キャアアァァァ……」

 悲鳴が尾を引いて遠ざかって行く。


「えええ……」

 オレはぽかんと口を開けたまま、リリアちゃんの消えた先をしばらく見つめていた。


 ここまでお読みいただいてありがとうございます!


 ご評価、ご感想、ブックマーク、レビュー、リアクションなど、頂けたら嬉しいです。励みになります!


 次もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ