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国護りの大樹の敵対者……なんて面倒な立場はごめんだね! 師匠には悪いが、教わった魔法でオレは遊んで暮らしたい。  作者: 青風ぱふぃん


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3. お客さんと水の魔法

 コン、コンッ。


 躊躇いがちなノックの音がした。


 カウンターに突っ伏して昼寝を決め込んでいたオレが目を上げると、扉横の窓から若い女の子……、オレと同じくらい? ひとつふたつ年下? くらいの子がこっちを覗き込んでるのが見えた。

 オレと目があった女の子は、薄く扉を開け、

「あの、入っていいですか……?」

 と、そっと顔をのぞかせる。


 うわああ、可愛い! 女の子ってこんな仕草するの? 見たことない! 可愛い!


「はいはいっ、どうぞどうぞ!」

 オレは椅子を蹴り、カウンターを飛び越えて女の子を迎え入れた。リヴ爺は近所の池に水浴びに行っている。絶好のナンパチャンス!


「さあさあ、まずはずずいっと奥まで! かぁぁわいいですねえ、お嬢さん。可愛い子はいつでもウェルカムですよ! ところでうちになんのご用ですか、イケメン魔術師の噂を聞いて、オレに会いに来ましたか? なぁんてね! そんなわけないかー。まー順当に考えて薬ですよね、風邪薬ですか、頭痛薬ですか。あ、もしかして! 師匠には内緒ですけど、惚れ薬とかも作れま……」

 バコンッ!

「いってええ!」

 鈍い音とともに後頭部に衝撃が走り、オレは頭を押さえて振り返る。


「ウィズさんうるさいです」

 お盆を持ったルビーが、オレをひと睨みした後、女の子ににっこりと笑いかけ、テーブルに案内する。いつの間に置いたのか、テーブルにはお茶が出されている。


「あの……、えっと……」

 女の子はオロオロしてる。可愛い。


「すみませんお客様、私が承ります。このあたりの方ではないですね、遠くからおいでかしら」

「あっ、すみません、ふたつ向こうの村から来ました。この村の人じゃないと、だめですか?」

「そんな事はありませんよ。まあまあ、ふたつ向こうなら往復一日がかりではありませんか、どうぞまずはお寛ぎください。それともお急ぎですか? 何の薬をご所望でしょう」


「いえ、ええと、あの、ここは魔術師さんのお宅だと聞いて来たのですが」

「あら、珍しい、魔術のご要望ですか。残念ですが今魔術師は……」

「オレオレ! オレ魔術師!」

 ルビーが断ろうとしているところに、オレは慌てて割って入った。

 ってか、オレがいるのに断るって、どういうつもりよ!?


「オレ、いや、私が有能天才イケメン魔術師です。お嬢さん、どのようなお困りごとで……」

 バコンッ!

「いてえ!」

「……お客様、この、人語を話すケモノの言うことはお気になさらないでくださいませ。うちのマスコットキャラ、お猿のウィズくんです」

「お猿のウィズくんでーす! ……ってなんでやねん!」

「リヴ爺が居ないとうるさいのが止まりませんね……、サファイア、お猿のウィズくんを連れてってください」

「はーいはい」


 ガチャリ、と奥のドアが開いて、ダルそうに返事をしながらサファイアが入ってきた。

「もう、しょうがないな、こっちにおいで、お猿のウィズくん、おやつ上げるから」

「わーいおやつぅ」

「待ってください!」

 食べ物につられてあっさりサファイアについていこうとしたオレは、女の子の声で足を止めた。


「ん? オレに言った?」

「はい! あの、魔術師さんなんですよね? あの、私の村まで来てもらえませんか! 村の水が変になっちゃって、魔法が原因っぽくて、困ってるんです!」


「魔法が原因で水が変?」

 オレはサファイアと顔を見合わせて、首を傾げた。


   *   *   *


「えーと、アスタル村のリリアちゃん? どう変なのか分かんないけど、困ってるってことは、水、直ってないんだよね?」

 オレはリリアと名乗った女の子の正面に座って、状況を確認する。


 実は話の途中でリヴ爺もカウンター裏の小窓からぴょこっと戻ってきてて、でもリリアちゃんが怖がるといけないから目配せでカウンターの向こうに隠れてもらった。

 ものすごく不満げな顔をしてたけど、仕方ないじゃん。おやつの横にガマガエル置くわけにいかないでしょ。


 ちなみにおやつはテーブルに持ってきてもらって、リリアちゃんに半分あげた。身を切る思いで、半分も、だ。ありがたく思って欲しい。

 まあ、8:2で少ない方をあげようとしたらルビーに殴られたからだけど。


「はい、もう一週間になります。井戸の水が変になっちゃったので、生活用水や飲料水、畑の水も、全部沢まで汲みに行かなきゃならなくて、すごく大変なんです……」

「あー、それ魔法じゃないね」

 オレはルビー特製クッキーをポリポリと噛りながら言う。


「魔法じゃないからオレ関係ないね、ざーんねーん。そんなことよりさ、オレとデートしない? てかさ、オレと付き合って、この村に引っ越してきたらいいじゃん、そしたら水汲みしなくて良くなるよ。すごーい、グッドアイディーア!!」

バコンッ。

「痛え! もー、お盆でポコポコ殴らないでよ、ルビー」

「下衆なことを言うんじゃないって言ったでしょう」

「えっ!? オレめっちゃいい提案したと思うんだけど!? 水汲み大変って言うから解決案出したのになんで?」

「他の村人はどうするんです? 畑は? 流石に皆で移住してもらえるほどこの村は規模が大きくないですよ」

「他の村人?? なんで? リリアちゃんは楽になるじゃん。畑は見たい人が見ればいいんじゃない?」

 オレは首を傾げる。ルビーは何の話をしているの?


 オレの言葉に、ルビーは呆れたようにため息をつき、サファイアは

だからなぁ……」

 と額に手を当てて首を左右に振る。

 なんか失礼じゃない?


「ごめんなさいね、この子小さい頃『根の下』だったので、ちょっと人付き合いが上手くないんです」


「『根の下』……」

 リリアちゃんが、怯えとも憐れみともつかない声で呟く。


 『根の下』は、国護りの大樹の根が地上に顔を出しちゃっている場所の、文字通りその根の下のことだ。


 大樹の根だからけっこうデカくて、奥も広い。根に遮られて花弁ペタルが届かないし、根から出る水で奥は湿地になっていて、入り口近くまでずっと湿気っぽい。

 土が痩せ、日も当たらず、病気も発生しやすい。とても人が住むところじゃない。

 ……という場所なので、犯罪者や浮浪児が住み着いている。けっこう、国中に大小ちょこちょこあって、問題になってるらしい。


 酷い花弁ペタル酔いを起こすオレには住みやすかったけどね。


「まあ、言ってもわからないでしょうから、ウィズさんはもういいです」

「なんで!?」

「いいから、この現象がなんで魔法じゃないかとか説明してあげなよ」

「えー? 説明いるー? 常識じゃーん」

 オレは机に寄っかかってダラダラとクッキーを貪る。そこへ、おずおずとリリアちゃんが片手を上げる。


「あの……、すみません、私……、わからないです……」

「そうだよね! わかんないよね! 誰だ常識だなんて言ったのは。一般人に配慮が足りないなあルビー。仕方ないな、オレが説明してあげよう!」

「うわ、態度激変……」

「ムカつきますわね……」

 サファイアとルビーがボソリと言うが、ふたりの意見はどうでもいい。リリアちゃんがわかんないって言うなら全力でお答えする所存。オレはニッコニコで立ち上がった。


   *   *   *


 オレはお茶を飲み干して、魔法を使ってそのカップに水を満たした。


「まず、こう水があるじゃん?」

「すごい……」

「へ?」

 なんだか知らないけどリリアちゃんが目を輝かせている。

 ……いや、普通の人は井戸を使うか、沢まで水汲みに行くんだっけ? そうか、水を出すだけですごいのか。


「……だからさ、オレと付き合えば沢まで水汲みとかしなくていいんだって。今からでも……」

 バシッ……バシッ……。

 言いかけた言葉を遮るように、硬い音が後ろから聞こえる。

 ……ルビーさん、手元でお盆をパシパシやるのやめてもらっていいですか。怖いので。


「……と言うのは後回しにして、えーと、水をね、こう……」

 オレは水に手を翳し、魔力を込める。

 水はあっという間にどす黒くなり、不吉にゴボゴボと大きな泡を立てた。


「……魔法で変な感じにすることは出来るんだけど、魔力を流すのをやめればそのまま落ち着くの。……で、水は水であると言うだけで浄めの力が強いので」


 オレはカップを高く持ち上げ、ひっくり返す。キャッ、とリリアちゃんが小さい悲鳴をあげた。可愛い。


 オレはカップからこぼれた水を空中で固定し、そこへさらに新しい水を加えて流す。水は螺旋を描き、部屋いっぱいにぐるりと川を作った。


「うわあ……」

 リリアちゃんの感嘆の声とともに、黒い水は流れに混じってたちまち薄まり、陰も残さず消えてなくなった。


「井戸や沢みたいに流れのあるところでは、こんなふうに、あっという間にきれいになっちゃうの。変な状態をキープしたいなら、ずーっと魔力を流し続けなくちゃいけないけど、一週間もそれやってたら、魔術師死ぬよ」


 ぱちん、と指を鳴らして、オレは水を消す。


「……なので、変な水現象は魔法のせいじゃないです。わかった?」

「……わかりました……」

 あれ、なんか元気ない。さっきまで魔法を楽しんでくれてたと思ったのに。


「……で、さっきの話の続きだけど、ねえ、オレと付き合わない?」


「空気読みませんねこのお猿は……」

 ルビーが呆れたように言った。


 ここまでお読みいただいてありがとうございます!


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