1. 国護りの大樹と反逆の魔術師
ひそひそと自己満足で書いていたファンタジーを連載チャレンジ用に出そうかなって。変なヤツ主人公。
「やっべぇええ、大樹の花が散る時間だぁ」
オレは家路を猛ダッシュで辿る。
オレは、オレの水色の髪に埋まるように頭の上に乗っている、ガマガエルのリヴ爺を片手で抑え、時々薬草かごを背負い直しつつ、ひたすら走る。
「サボりながらモタモタやっとるからじゃ、小僧。さっさと家まで走らんか」
リヴ爺が文句を言う。頭の上に乗ってるだけのくせに偉そうに。
「偉そうなんだよ、このガマガエル」
あっ、口から出ちゃった。
「ガマガエルではない、このバカ者が!」
バチン! と音を立てて、リヴ爺から電気が走る。
「いってえええ、何しやがるこの両生類!」
「もう一発くらいたいか、この阿呆が。いいからさっさと走れ! 花弁が散り始めたら困るのはお主だろうが!」
「あっ、そうだった、やべえやべえ」
オレは、国を覆うように枝を広げる、バッカみたいにでかい木を見上げて、慌ててまた走り始める。
国護りの大樹と言われるその木は、びっくりするほど大きくて、とんでもないほど高い。
どんだけでっかいかといえば、町をいくつかと村をたくさんと、村それぞれの見渡す限りの畑や牧場をひろーく覆ってもまだ余るくらい。幹の中には大きな虚があり、そこに首都があって、そこでもたくさん人が生活してる。
絡まりあって広がった枝葉は日差しをほどよく遮り、国中に暖かな木漏れ日と心地よい木陰を提供してくれている。
木の根からは滔々と水が流れ出し、国中に川を作っている。
この木の恩恵の及ぶ範囲の外側は、熱々でパッサパサの砂漠になってるので、この木のおかげでここに人が住めているということになる。
そして、この木は毎日花を咲かせ、その花びらを日々地上に降らす。
地に落ちれば土を肥やし、水に落ちればそれを清めるので、大樹の恩恵と呼ばれている花弁だが、含んでる力が強すぎて、小さい子なんかは花弁に当たると魔力酔いを起こす。
そのため、花の散る夕方以降は、子どもたちは外で遊ぶのは禁止だ。
そして、大人でも花弁に耐性がないものが稀にいる。
そう、オレだ。
「子どものように清らかで純粋なオレは、大樹の落としてくるゴミには耐えられないのようー」
およよよ、と泣き真似をしながら走っていたら、
「罰当たりなことを言うな!」
とリヴ爺にまた雷(物理)を落とされた。
* * *
「ただいまぁぁぁ師匠助けてぇぇぇ」
オレは村外れのボロ小屋に転がり込むなり師匠に助けを求める。
背負ったかごから薬草が床に散らばった。
「……馬鹿者、何をやっている」
背ばかり高いしかめっ面の師匠が、奥から出てきてオレを見下ろして文句を言う。
長い黒髪を後ろに撫でつけてひとくくりにし、赤い瞳を黒縁眼鏡の奥に隠している。
いつもモサい真っ黒ローブ姿なのに、なぜか村内屈指のイケメン魔術師として、村の小さなお嬢さんから人生熟練のおばあちゃんに至るまで、大人気モテモテなのは納得いかない。絶対オレのほうがかっこいい。誰も賛同してくれないけど。
「花弁にちょっとだけ当たっちゃったんですぅぅ、目眩で動けないです、助けてくださいぃ」
金の瞳を潤ませて、オレは師匠に訴える。
「……しかたないな」
師匠はキッチンへ引っ込んですぐ、湯気の立つカップを持ってきてくれた。
「ウィズ、ほら、飲みなさい」
うつ伏せに床に倒れたオレの水色の髪をポンポンと叩き、頭を上げたところに師匠がカップを差し出す。
ふるふると震える手でそれを受け取ったオレは、なかの薬湯をズズズッと啜った。
「リヴ爺はどうした」
「花弁が降ってきたらどっかに隠れちゃいました」
「お前……、花弁からはちゃんと守ってやれと言っているだろう、リヴ爺に花弁が当たったらどうするんだ」
「いやぁ、だって、知らないうちに花弁降ってくるんですもん……」
「降る時間は日没直前と決まっているだろう。いつになったら夕刻には帰ってくることを覚えるのだ、お前は」
叱責しつつ床に散らばった薬草を集める師匠だが、そんなこと言いながら魔力酔いの薬湯はホカホカに準備してくれている。もー、おっさんのくせにツンデレなんだから。
ニマニマしてるオレに師匠が冷たい目を向ける。
「……反省しているのか?」
「はいっ、勿論ですっ」
そんなどすの利いた声出さないでください、師匠。
「ルビー、サファイア」
「「はい」」
師匠の呼びかけに答えて、声を揃えて返事をした使い魔が、奥から姿を現す。
金の髪に赤い瞳の巨乳のお姉さんと、銀の髪に青い瞳のスレンダーなお姉さんだ。
ふたりとも、よく見ると頭の横に髪飾りのように小さな角が生えている。
顔は双子のようにそっくりだが、セクシー系と健康系、方向性の違う色気を各々お持ちだ。
寝っ転がって見上げているオレには、どちらも大変眼福である。いや短いスカートの中の下着が見えるという意味ではない。見上げる角度のスタイルのいいお姉様方が大変絶品であるという意味である。
悔しいことに、どういう魔術か、なぜか下着は絶対見えない。悔しい。
……なんて考えてたら、視線を感じたのかお姉様方に睨まれた。良い。
師匠いいなぁ。なんでオレの使い魔はガマガエルなんだろ。
「この薬草を分類して陰干ししておけ」
「はいマスター」
「はいっ、マスター!」
優雅な方がルビー、元気な方がサファイアだ。
いいなー、かわいいなー。
オレは床に転がったままなるべくゆっくり薬湯を啜って、サボる時間を目一杯引き延ばしていた。
* * *
オレはウィズドロウ。村外れのボロ小屋……とオレは呼んでるけど、充分に広い、手入れの行き届いた家……に、師匠と一緒に住む、御歳16歳の男の子。年齢にしてはちょっと小柄だけど、将来有望なイケメン魔術師見習いだ。
師匠はアックス。本名かどうかは知らん。いつか国護りの大樹を切り倒すと言ってたから、その覚悟を込めた偽名っぽいよなと思ってる。まあ名前なんか、呼んで返事をしてくれるなら何でもいいけど。
見た目は青年ぽいけど多分めっちゃ長生き。その分ため込んだ恨みもとんでもなさそう。
……不穏なセリフが出てきたと思ったかい?
そう!
オレたちは密かに国家転覆を目論む、悪の魔術師なのさ!
………って、そんなことしたらオレも生きていけないじゃん!
いや魔法を駆使したらギリギリ生きれるかもしれないけど! やだよ砂漠を流離いながら細々と生きるのなんて!
砂漠の外にも国があるけど、行ったことない外国で、大樹を切り倒した国賊としてコソコソ隠れて逃げ回って暮らすのも嫌だ!
師匠には悪いけど、オレは、豊かな都の恩恵を享受しつつ、魔法で楽してダラダラ生きていきたい!
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