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第5話 招かれざる者

かつて、最も美しいとされる魔王がいた。しかし今、彼女はただの幼き少女、イネインとして静かな森の中で穏やかな日々を送っている。この物語は、そんな彼女が日常の中で出会う小さな幸せや、心温まる出来事を通じて、毎日に彩りを加えていく物語です。読者の皆様にとって、この物語が日々の嫌なことから離れ、ほっと一息つける場所となりますように。

あれからメイド達は、積極的に森へ出かけるようになった。3日に1回は2~3人で森を探索しているが、未だに動物は見つかっていないらしい。そろそろ1匹は見つかっても良さそうだけれど、そんなに動物が減ってしまったのだろうか


今日の朝もベルルと共に食堂に行くと、ベアルが紅茶を運んで来てくれた。朝にベアルが紅茶を入れるということは、多分セラが森へ出かけているのだろう。


「イネイン様、おはようございます。ぐっすり眠れたようですね。」


「ええ、最近眠くなることが多くて。」


特に何もしていないのに、突然睡魔に襲われることが多くなった。メイド達を招いたあの日以降は激しい魔力消費もしていないはずなのに。今の私にとって、悪魔の召喚はそんなに負担のかかる儀式だったのだろうか。


「さっきセラとミリアが森へと出かけました。ミリアは植物にも詳しいので、紅茶のレパートリーが更に増えるかもしれないですね。」


それは嬉しい。既に紅茶は毎朝の楽しみになっているから、種類が増えるほど朝起きるのが楽しみになっている気がする。私はそう考えながら、ベアルが入れてくれた紅茶を飲んだ。甘い。


数十分前


セラとミリアは森へ行く準備を済ませ、城を出た。ミリアは肩に乗った小さきものを城へ帰した。


「ベルルはお留守番。」


そう言われたものの、丁度散歩に行こうと考えていたので、遠くから2人を観察してみることにした。音を立てないよう静かに羽ばたきながら、木から木へと飛び移りながら後を追った。


しばらく歩いていると、少しずつ霧が濃くなってきた。セラはミリアに声を掛ける。


「足元に気を付けてください。少し地面が滑りやすいです。」


「分かった。」


「視界が悪くなってきましたね。迷うと大変ですし、そろそろ引き返しましょうか。」


そんな会話をした直後、前方から何かが近づいてくる気配を感じた。二人とも歩みを止め、セラはムチをほどいた。


霧の中から人影から現れる。とは言っても、食べられそうなところはなさそうだ。首と右腕は無く、古びた鎧を纏い、左手に錆びた剣を握っている。セラとミリアは冷静にその剣士を観察していた。


「道に迷ったのでしょうか。あの方、人間と認識するべきですかね。」


「あれはアンデット。生前に剣を使っていると、知能が無くても剣術を使えることがあるらしい。」


「ベルルと違って瘴気が溢れているようです。始末しても構いませんよね。」


「あの方、主は誰にも見つかるなと言った。あれに目は無いけど、念の為に。」


イネインの言った「誰にも見つからないように」は、恐らく人間のように情報を共有できる種族を指しているのだと考えているが、確かにここで倒すのが良いだろう。私と違ってあのアンデットは作りが荒い。これ以上瘴気を振りまかれると、ほかの生物にも悪影響を及ぼす。


ゆっくりと2人へ向かっていた剣士は、突然2人へ飛びかかり剣を振り下した。2人は間一髪で左右へ回避する。セラは剣士の脇腹に鞭を入れるが、彼はびくともしない。ミリアは上を向いて思い出すような仕草をしながらセラに伝える。


「アンデットの弱点は日光や火、あとは聖なる力。」


「火が弱点ですか、ミミがいれば対策してくれたかもしれませんね。」


この前ミミは、私たちに1つ花火を見せてくれた。まだ調整中だから、イネインには見せたくないらしい。確かにあの火力なら、アンデットにも通用するかもしれない。


休ませないかの如く、無数の斬撃を繰り出す剣士にセラは鞭で応戦する。鞭が剣士の鎧に当たり火花が散るも、やはりびくともしない。捌ききれなかった斬撃がセラの腕をかすめた。その途端、セラの腕が震え始めた。


「あれ、なんだか腕が痺れて、上手く動きません。」


「多分毒。アンデットの攻撃は受けると麻痺する。」


鞭を構えなおそうとしたセラに向かって大きく剣を振りかぶる剣士。その時、剣士の肩にミリアの手が掛かった。そして、彼女のスキルが発動する。


ミリアの手のひらが黒く染まり、剣士の体に広がった黒い模様が何かを打ち込んだ。その途端、剣士は痙攣し、動きが鈍くなった。ミリアはその様子を見て、考え込むようなポーズを取った。


「流石はアンデット。痛覚のある相手には決め手なのに。」


そもそも口が無いだろうと考えるより先に、ミリアは剣士の剣を避けて相手の鎧に手のひらを押し付けた。そしてすぐに離れる。手を押し付けていた鎧の胸部分には、薄っすらと傷が付いていた。セラはそれを鋭く見つめる。


「私も新しいスキルを試したかったのです。」


セラは鞭を構え、スキルを使用した。


目にも止まらぬ速さで鞭を振るい、相手を滅多打ちする。激しい音を立てて、相手の鎧から火花が散る。ついに剣士の鎧が砕け散り、剣を構えていた腕も吹き飛んだ。剣士の胸は焼け焦げて、大きく凹んでいた。


煙を立てながら、剣士は後ろへ倒れた。剣士の体は灰になりながら消滅していった。2人はイネインに報告するために、住処へと歩み始めた。私も帰るとしよう。


「さっきのスキル、音が大き過ぎない?」


「そうですか?確かに私もあれは疲れましたけど。」


「耳のある相手なら音だけで倒せそう。」


「ありがとうございます。ミリアのスキルも素敵ですね。」


数時間後


「ただいま帰りました。」


おや、2人が帰ってきた。1日中城にいる私も、彼女達の話を聞くと出かけた気分になれる。眠くなる前に、セラとミリアからも話を聞きたいな。



俺のアンデットが一人、葬られたか…


やはり、この森には何かがいる…


必ず見つけ出してやる…


…アテナ。

イネインと彼女の愛らしい仲間たちとの日々は、のんびりとしながらも新たな物語へと続いていきます。彼女たちの生活は、決して派手ではないものの、その中には暖かみと、時には新たな展開への進展も隠されているかもしれません。この物語が、一息つきたい方に安らぎを与えてくれたなら、筆者としてこれ以上の喜びはありません。読んでくださった皆様、心から感謝申し上げます。

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