表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

第3話 匠

かつて、最も美しいとされる魔王がいた。しかし今、彼女はただの幼き少女、イネインとして静かな森の中で穏やかな日々を送っている。この物語は、そんな彼女が日常の中で出会う小さな幸せや、心温まる出来事を通じて、毎日に彩りを加えていく物語です。読者の皆様にとって、この物語が日々の嫌なことから離れ、ほっと一息つける場所となりますように。

今宵舞い降りた5人の悪魔姉妹達。私は黒い衣装を纏った彼女たちの目を見て、本題に移る。


「あなた達には、この城でメイドをやってもらう。」


この城は部屋の数も多く、一人で暮らすには広すぎると考えていた。敢えてメイドという役割にしたのは、私に掃除の才能が無いからである。


「…急に何言ってんの。」


最初に喋ったのは次女のルナだ。蚊から生まれた悪魔。黒髪で長いツインテール。黒色の縞模様のニーハイが蚊を連想させており、黒い衣装と相まっておしゃれだ。


「これってさ、人間の姿になったんだよね。人間みたいに色んな事ができるんだよね!」


目をキラキラと輝かせてそう言うのは三女のミミ。ネズミから生まれた悪魔。ストレートボブで、身長はルナと同じくらいだ。


「細くて綺麗な指…可愛い。」


鼻を抑えた後、自分の指を見つめながら言う五女のベアル。熊から生まれた悪魔。パーマがかったボブで、左側に一本の三つ編みが輪を作っている。衣装の萌え袖が可愛らしい。背は姉妹たちの中では最も低く、私よりは高い。


「私にできる事なら、何なりと。」


クールにそう言う長女のセラ。蛇から生まれた悪魔。金髪の長い髪に鋭い目をしている。身長は私たちの中で最も高い。


「…」


無言で足元を見つめている四女のミリア。ムカデから生まれた悪魔。一本の三つ編みにセンターパートの前髪。背はルナやミミより若干低い。


彼女たちの反応を見る限り、どうやら生贄となった者の記憶を引き継いでいるようだ。ベアルが鼻を抑えたのも、私が熊の鼻を殴ってしまったからか。


肩に乗っていたベルルは、儀式が無事終わったことを確認すると、地下から上の階へと飛んで行った。とりあえず、城を案内しながら彼女たちに部屋を与えよう。ついでに私がここへ住み着いた経緯も少し話すとする…


私がネクロマンサーの悪者だったこと。勇気ある者に倒されて弱体化し、森の奥深くにあるこの無人の城に隠れ住むようになったこと。そこから数十年経った今日、悪魔姉妹を誕生させたこと。


彼女たちは静かにその話を聞いていた。話が終わり、私は彼女たちの方へ振り返る。


「今日からこの城はあなた達の住処だから、どの部屋も自由に使って。これからよろしく、メイド達。」


私がそう言うと、メイド達は両手を前に揃えて上品にお辞儀をした。ルナを除いて。気付いてはいたものの、途中からルナはついてくるのを辞めた。確かに私は話し慣れているわけではないので、つまらない時間に付き合わせてしまった気がする。


最も興味深そうに案内を聞いていたミミに言われたことが印象的だった。


「あんなにも立派なキッチンがあるのに、全然使っていない様子だったね。」


使えるのなら使って見たかったが、私がこの城を訪れた時には既に様々なところが故障していたのだ。コンロの仕組みについて触れられていた本も図書室で見かけたものの、書かれていることがあまりにも複雑で、読むことを放棄してしまった。掃除すらしていないので、今では更に悲惨な光景になっている。幸い私やベルル、そしてメイド達は食事を必要としない種族なので、キッチンは使えなくても問題はない。


ひとまず解散し、私は自分の部屋へ向かうことにした。さっきから睡魔に襲われており、そろそろ限界に近づいてきた。ベルルを呼び起こしたあの時とは比べ物にならないくらい眠い。使った力が大きいほど眠くなるようだ。


食堂を通りかかると、遠くからルナが声をかけてきた。


「こいつ何て言うの。」


一見ベルルを鷲掴みにしているように見えたが、よく見ると優しく包まれていて、ベルルは落ち着くのか目を閉じて寝息を立てている。早速仲良くなってくれたようだ。ベルルの名前を伝えると、ルナはベルルを手のひらに乗せて眺めた。


私は部屋に戻ってすぐ、沈むようにベッドの上で眠りに落ちた。無事に儀式を終えられたおかげか、いつもより心地よく眠れた気がした。


朝になった。起こしに来てくれたベルルに挨拶をして、私は重い体を起こした。いつもより体が一段と重く感じる。城の中を見渡すにつれて私は目を丸くした。城のあちこちの汚れが無くなっており、濁っていたカーテンは鮮やかな赤色を取り戻していた。


「イネイン様。おはようございます。」


食堂に行くと、窓を磨いていたセラが挨拶してくれた。私も挨拶を返す。


「おはよう。城を掃除してくれたのね。」


「はい。あの子たちと気になったところから清掃しています。」


「たった1日でここまでしてくれたの。」


「いえ、ここに招かれた日から手を付け始めたので、今日で7日目です。」


ん、7日目?まさか、あれから7日間ずっと寝ていたのか。起こしに来てくれていたベルルに気が付かないほど爆睡していたなんて…


私は新しい景色の城を見て回ることにした。廊下を歩いているとベルルの声が聞こえた。声がした空き部屋に行くと、そこにはベルルとルナがいた。ベルルはルナから与えられたおやつを美味しそうに食べている。ルナはこちらに気付くと挨拶をしてくれた。


「おはよう、イネイン様。この子は何でも食べられるの?」


「ええ。アンデッドだから何を食べても問題ないはず。」


ルナがベルルにあげているのは、コオロギの足のようだ。コオロギは森の中を探せばいるのだが、ベルルのおやつにすることは思いつかなかった。


図書室に行くと、ミリアが座って本を読んでいた。本棚を見渡してみると、驚くことに、ほとんどの本がジャンルやシリーズごとに整理されていた。ミリアはそのうちの一冊を選んで黙々と読んでいる。


裁縫室を通りかかると、そこにはベアルが熊のぬいぐるみを抱えて縫い物をしていた。多分ベアルが作ったぬいぐるみだろう。ここにはある程度の裁縫道具や生地が揃っているが、それでもここまで精巧なぬいぐるみが作れるなんて、本当に器用だ。集中している様子だったので、静かに通り過ぎた。


一番驚いたのはキッチンだった。キッチンにはミミがいた。ミミは一冊の本を抱えてこちらに挨拶をした。


「あ、イネイン様おはよう。この本借りてる。」


その本は私が放棄したキッチンの取り扱いに関する本だった。ミミは私を案内しながらコンロの前に立つと、着火した。信じられない。あの難しい本を読破してコンロを治すなんて。しかもオーブンも水道の温度調節機能も使えるようになっていた。この子は天才だ。ミミは驚いた私の表情を見ると、満足したのかいたずらな笑顔を見せた。


城の中を一通り見終わったので、部屋に戻って休むことにした。食堂を通りかかると、雑巾を絞っていたセラに声をかけられた。


「イネイン様。そういえば、たまに私たちで森へ狩りに出かけようかと考えているのですが、よろしいでしょうか。」


そうか、せっかくキッチンが治ったのだし、料理をしなければ宝の持ち腐れか。私はあるお願いをした後、狩りを許可した。


そのお願いとは、誰にも見つからないようにして欲しいというものだ。特に、人間には決して見つからないように。


仮にも、


仮にも人間に見つかってしまったら…


イネインと彼女の愛らしい仲間たちとの日々は、のんびりとしながらも新たな物語へと続いていきます。彼女たちの生活は、決して派手ではないものの、その中には暖かみと、時には新たな展開への進展も隠されているかもしれません。この物語が、一息つきたい方に安らぎを与えてくれたなら、筆者としてこれ以上の喜びはありません。読んでくださった皆様、心から感謝申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ