第2話 デビルウーマンズ
かつて、最も美しいとされる魔王がいた。しかし今、彼女はただの幼き少女、イネインとして静かな森の中で穏やかな日々を送っている。この物語は、そんな彼女が日常の中で出会う小さな幸せや、心温まる出来事を通じて、毎日に彩りを加えていく物語です。読者の皆様にとって、この物語が日々の嫌なことから離れ、ほっと一息つける場所となりますように。
「愚かなる獣よ、我が美貌にひれ伏すがいい。」
私は侵入者を見てそう言った。相手は勇者一人か、なめられたものだな。ただ座っているだけの日々にも流石に飽きてきたし、食後の運動には丁度良さそうだ。
「黙れ。今俺に命乞いをすれば、少しは楽にしなせてやる。」
勇者の殺気を見るに、相当の手練れのようだ。既に私の幹部も葬った後か。
「好きにしなさい。できるものなら。」
私がそう言った途端、勇者の剣が雷を纏いこちらの首を目がけて飛んできた。魔力で剣をはらいのける私の手より速く後ろに回り、次は嵐のような連撃が襲ってくる。
「あはは!やるではないか。楽しいぞ。」
ただ夢中で戦いを楽しむ。退屈が吹き飛ばされる瞬間は実に清々しい。私こそがネクロマンサーにして最美の魔王。
あははは、あはははは!
バタッ
ベッドから落ちた。何やら全盛期の頃の夢を見ていた気がする。魔王を辞めてから既に数百年も経っているが、過去の栄光はいつまでも忘れることは無い。
「ヒュピピピー」
ベルル、今日も起こしに来てくれたのか。
「コホン。忠実なる友よ、我が美貌にひれ伏すがいい。」
ベルルは目を閉じてコクリとうつむく。
可愛いな、よしよし。この子は数日前に私がアンデットにした小鳥だ。毎朝美しい声で私を起こしに来てくれる。とても穏やかで賢い子だ。
だか、不可解なことがある。1階のリビングに小石を積み始めたのだ。それも、グレープ程の石が見事な山の形に整えられていた。最初はお家を作っているのかとも考えたが、もう少しで私の膝に届く高さになってきている。
今日はその様子をしばらく眺めることにした。単に遊んでいるだけなのかもしれないが、黙々と石を集めてくる様子を見ていると何処か癒される。
しばらくすると、小石の山から少し離れてそれをじっと見ている。休憩だろうか。
ガタンッ
ゴトゴトゴトゴト…
床が落ちた。小石の山を切り取るように、床が正四角形を描いて崩れ落ちた。地下に続く階段に小石が転がり落ちていく。地下への階段?今まで全く気がつかなかった。それをベルルはすぐに見つけて私に知らせようと今まで小石を運んでいたのか。私よりも遥かに賢い子だ。
肩にベルルを乗せて、地下への階段を降りる。暗い空間に棺桶が5基並んでいる。その中に、5人の人間が眠っていることを感じ取った。元々この城は、敵から逃れるため森の中で彷徨っていた時に偶然見つけたものだ。棺桶があることには何の不思議もないが、何故わざわざ入口を隠していたのだろう。
私が住み着いてからの年月から考えて、その理由を知る者が今も生きているかは怪しい。すっかりこの城の主気分である私は、この部屋をこのままの状態にしておく考えにはならなかった。でもどうしたものか…
魔王に雷鳴剣落ちる。
今の私にできるかはわからないが、今の閃きを試さない手は無い。申し訳ないが、5人には悪魔を呼び出す糧となって貰う。そう決めた私は、ベルルに留守番を頼んで森へと出かけた。
悪魔を召喚するには、捧げものが必要になる。今回の場合、人間の亡骸に加えて、それぞれ5つの生贄を用意しなければならない。日が暮れて暗くなった森の中、目を凝らして必死にそれらを探した。
こうして、ヘビ、蚊、鼠、ムカデの順に、出会った生物へ睡魔の魔法をかけて捕獲した。あとひとつを求めて歩いていると、
グオォォォッ
後ろから大きな熊が飛び掛かってきた。間一髪で振り下ろされた腕をよける。最後の一匹がようやく見つかった。突進してきた熊の鼻に左ストレートがヒットする。ひるんだ熊は魔法であっけなく眠りに落ちた。
城に帰り、ベルルを肩に乗せて早速儀式に取り掛かった。5基の棺桶の上にそれぞれ生贄を乗せる。後は悪魔に呼びかければ…
「契約を望む者、生贄を前に忠誠を誓いたまえ。」
彼女たちの名前は既に決めている。
「セラ、ルナ、ミミ、ミリア、ベアル」
光に包まれながら、5基の棺桶が開く。そして、亡骸と生贄が融合し、新たな存在へと変化してゆく。
5人の悪魔が舞い降りた。美しい女性の姿をした5人の悪魔たちがゆっくりと目を開き、こちらに視線を向ける。私の言葉を待っているのだろうか。とりあえず…
「ようこそ、我が城へ。」
イネインと彼女の愛らしい仲間たちとの日々は、のんびりとしながらも新たな物語へと続いていきます。彼女たちの生活は、決して派手ではないものの、その中には暖かみと、時には新たな展開への進展も隠されているかもしれません。この物語が、一息つきたい方に安らぎを与えてくれたなら、筆者としてこれ以上の喜びはありません。読んでくださった皆様、心から感謝申し上げます。




