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第1話 半熟

かつて、最も美しいとされる魔王がいた。しかし今、彼女はただの幼き少女、イネインとして静かな森の中で穏やかな日々を送っている。この物語は、そんな彼女が日常の中で出会う小さな幸せや、心温まる出来事を通じて、毎日に彩りを加えていく物語です。読者の皆様にとって、この物語が日々の嫌なことから離れ、ほっと一息つける場所となりますように。

最美の魔王、それが私の通り名だった。


ネクロマンサーにして最も美しい生物として君臨していたが、力の秘訣であるティアラを破壊され、今は恐れるものなど誰もいない、ただの幼女の姿である。人目につかぬ深い森の中、古びた城でひっそりと暮らしている。数百年もの間、寝ることと散歩を繰り返すだけの日々。暇過ぎて心が崩れ落ちそうだ。


私の名前はイネイン。こんなにも素晴らしい名前なのに、なぜ誰も呼んでくれない。


今日もこのカーテンのような苔か何かが生えた城の庭を散歩する。苔むした庭の手入れはどこから手を付ければ良いものか。気が向いたら明日にでも。


いつもと変わらない景色の中に多少の変化を見つけた。小鳥が亡くなっている。庭の隅で休むように。人間にも見つからないこの静かな場所で眠り落ちたおかげか、表情はどこか穏やかな様子だった。起こしたくなった。


まだ友達になれるかもしれない。全盛期の力は失ったが、ネクロマンサーとしての本質は変わっていない。試してみるか。


忠実なる麗しきアンデットよ。永遠の愛を誓う私の声に答えてほしい。


小鳥は光のまゆとなり、紫色の炎に包まれながら私の手のひらに舞い降りた。光が消えたそれをよく見ると、卵だった。アンデットの鳥の卵のようだ。成功したらしい、固ゆでになっていなければ。鳥の卵を孵化させたことなどないが、新たな友達として、大切にすると約束しよう。


それからは、卵を温めながらずっと話しかけたり、音を聞こうとしてみたりして過ごしていた。ネクロマンサーの勘としては、アンデットの卵は放っておいても孵化するはずなのだ。しかし、もし私の声が聞こえているなら、話すのを辞めたら寂しいだろう。掃除にしても料理にしても愛情は大事。「固ゆでじゃないよね…」は朝の挨拶のようになっている。私に食事は必要ないからな、と付け加えて。


久しぶりに力を使ったせいか、最近よく眠くなる。人間で言うところの、一晩寝ずに本を読んで過ごした感覚だろうか。7日目の今日は特にウトウトしている。勿論、両手で卵を温めたまま。机の椅子に座って、ほぼ寝ているような状態だった。ピキッ。目を見開いて飛び起きた。ひびが入った。綺麗な円を描いて少しずつ割れていく。もう少しだ。頑張れと小声で囁いていることにも気付かず夢中で見入っていた。


ついに孵化した。嬉しくて飛び跳ねたい気持ちを必死に抑える。殻から頭を覗かせて何かを伝えているかのように口を動かせている。しまった、餌だ。何をやっていたのか。餌を用意することを考えていなかった。急いで周囲を見渡すが当然与えられそうなものは何もない。


もう一度小鳥に目を向ける。そこには砕けた殻しかなかった。小鳥がいない。落としたのかとも考えたが、何処にも見当たらない。急に冷や汗が止まらなくなる。窓から落ちたのかと考え、窓の方を見ると、そこには黒地に美しい模様の入った小鳥がいた。間違いなくその子は、さっき孵化したばかりのアンデットだ。少し目を離した隙に、既に飛べるまでに成長していた。よくよく考えたら、私の力で孵化したアンデットなので餌は不要か。  


ヒューピピピッ


ああ、なんて美しいのだろう。今まで聞いたさえずりの中でも、こんなにも美しく癒されるさえずりは初めてだ。これを聞いて朝を迎えることができる私は幸せ者だ。そうだ、この子の名前はベルルにしよう。その声が何よりも美しいものであるという思いを込めて。


「ベルル」


そう呼ぶと私の指に飛び乗り、満足そうに飛び跳ねた。


彼女の愛らしい仲間たちとの日々は、のんびりとしながらも新たな物語へと続いていきます。彼女たちの生活は、決して派手ではないものの、その中には暖かみと、時には新たな展開への進展も隠されているかもしれません。この物語が、一息つきたい方に安らぎを与えてくれたなら、筆者としてこれ以上の喜びはありません。読んでくださった皆様、心から感謝申し上げます。

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