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第六話

 ガリレオは科学者として『実験』という概念を初めて作った男である。それまでの科学者は「天使が降ってきた」とか言って想像だけで理論を組み立てていた。その時に使われていたのがマリファナだ。

 もちろん儀式のアイデアも「俺のインスピレーションが呼んでいる」とか言って、乱交などで野生化した時に思いついたモノが殆どであった。というか、ほとんどの儀式が乱行だった。

 つまり、それまでの世の中は科学者の想像を具現化しただけのモノであった。というか、根底には「すけべ」しかなかったのだ。

 ガリレオはそのやり方に異を唱え、「実験」というモノを提唱した。ようするに「男子、ちゃんと練習しようよ!」と目がイってしまっているドラッグまみれの科学者たちに訴えたのだ。

 ガリレオは儀式までに何度も実験を繰り返し、内容を練り上げていった。現代のスタジオミュージシャンの概念を作り上げたのはガリレオなのである。

 その後、ガリレオは「コペルニクスの地動説をカバーしたい」と付き合いのあった伯爵に相談しにきたそうだ。過去に失敗した儀式などをカバーするのは当時の欧米では流行っていた。

 そこで「じゃあ、ソロモン君に頼むといい」と伯爵はガリレオとソロモンの二人を引き合わせ、ボンジョルノもそこそこに三人は儀式の作成のため実験室スタジオに入った。

 そして、地動説を完成させる儀式を一晩で完成させた。コペルニクスが持っていたフィーリングやリズムを生かしつつ、ガリレオなりのアレンジが効いた論文は、ソロモンの編曲によってよりシンプルな儀式に変わった。当時の儀式雑誌『月刊儀式野郎』でもこの儀式は絶賛された。

 地動説とは、それまで全ての天体は地球の周りをぐるぐる回っていたのだが、いわゆる『天動説』に対して、地球が太陽の周りをぐるぐる回るようにするという「お前が上で腰を動かせ」みたいな攻撃的な風潮を好む、男の中の男の理論であった。

 そして、この理論の実現にソロモンが作り上げた儀式は『地球を百兆周、自分たちの足で回る』という人間の限界を軽く超えた壮大なモノであった。

(どうりで今まで誰もやらなかったわけだ)

 心の中では途方にくれながらも、あらゆる方面に「俺たちに不可能はない、地動説はオレ達の科学が重なり合った最高の儀式だ」と強気の触れ込みをしていたガリレオ。しかし、裏ではソロモン、サンジェルマン伯爵と共に頭を抱えていた。

「地球を百兆周するなんて、どうやったらいいんだ」

 連日の殴り合い。しかし、すでに神様の間でチケットはソールドアウト。普段、人間界に住んでいる神々は、期待してこの儀式を見にくる。

「人間とかいうゴミどもがとんでもねぇ儀式をやるそうだ」

 一瞬にして神様の間で噂は広がって行った。

 さらに、この儀式を良く思わないバラ十字団も動き出した。

 当時、バラ十字団はローマ教皇と強く結託し、教会でネガティブな教えをして、ガリレオ達を潰しにきたのだ。

「今回の儀式は、ただのガリレオの金と名声を勝ち取りたいだけの儀式だ。なんの意味もない」

 次第に、ガリレオ達への不信感が一部の神様の間で涌きはじめる。当時のバラ十字団とローマ教皇の影響力は絶大であった。三百年後の世界で言えば「週刊文春」みたいな感じだ。

 いよいよ儀式を失敗させることができなくなってしまった。もし、間違いが起これば、客としてきた神々は怒り、天変地異が起こる。

 ソロモンはこの時に「十円ハゲができた」とガリレオと伯爵に漏らしたが、その前からハゲていた。見ると、十円ハゲの周りにむしろ髪の毛が生えて来ているというストレスに悩まされていたのだ。

 儀式の改良はギリギリまで行われた。百兆周を少しでも削って、なんとか負担を軽減したい。

 極限状態に追い込まれたソロモンが思いついたのがこの『儀式ローン制度』であったのだ。


 そして、ガリレオの儀式当日。

「よーいどん!」の号砲と共に、ローマ武道館を出発したガリレオと伯爵、ソロモンの三人。黄色いTシャツに身を包み、「ゴールしてください」や「泣かせて」という応援伝書鳩、天上界からの伝書天使もたくさん届いた。

 これから地球百兆周。一人、三三兆三三三三億三三三三万三三三三周のノルマがある。

 走れるわけがない。

しかし、ソロモンはここで『儀式ローン制度』を使用することによって、この場を乗り切る事に成功した。

 まず、三人が地球を一周する。そしてその後、三人は足を怪我したフリをしてその場に倒れこんだ。

「どうしたんだ?」と心配そうな顔で倒れた三人を見るローマ武道館の神々。その後、足を引きずりながら三人は、地球二周目に入る。

「頑張って!」

「負けないで!」

 という応援するエールが客席の神々から届く。ここで、三人は再び崩れるように地面に倒れこむ。

 でも立ち上がろうとする三人。するとどうだろう、

「もういいよ!」

「休んでよ!」

 バカな神様たちの声が次第に「ヤメていいよ」っぽい感じに変わり出した。

 これにニヤッと人間のクズ丸出しの笑みを浮かべた三人。

 そして、代表してガリレオが涙ながらにこう言った。

「すいません。走りたいのに、足が……足が、いう事を聞いてくれません。すいません」

 ガリレオは悔しそうな顔を浮かべながら、客席の神様に頭を下げた。すると、

「泣かないで!」

「リタイアしていいよ!」

「がんばったよ!」

 三人の無念に心を打たれた神々は、リタイアという不甲斐ない結果にも拍手という歓迎で応えてくれた。

 そして、その後、ガリレオはソロモンの台本通りにこういった。

「残りの儀式の続きは、後世の我々の子孫達が分割して払っていこうと思っております!」

 と、正式な謝罪文と共に頭を下げた。

 神様もこれには渋々納得し、地動説の儀式は『儀式ローン制度』の使用により成功となったのである。

 神様というのは、テレビ的な演出に弱かったのだ。

 以来、人類はこの時の地動説の残り分の儀式を分割して無意識のうちに払わされる事となったのである。

 たまに大学生などが「自分探し」と言って、思い立ったように夏休みを利用して日本一周バイクの旅などを計画するのは、この時の地動説のローンを分割して払わされているからである。

 しかし、これを良く思わない当時のバラ十字団とローマ教皇。

 儀式成功後、ガリレオを「神への冒涜」とイチャモンをつけて投獄してしまったのだ。この時の神様の間の視聴率は四〇パーセントを超えていた。

 よっぽど悔しかったのだ。

 以来、サンジェルマン伯爵とソロモンは、バラ十字団と敵対する関係となった。


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