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THE ORION  作者: 黒羽感類
Season One 学院編
9/72

出会い

部屋の前で待っていると「う”~ん”」や「んっんん」という気張っている声が聞こえてきた。

その声が聞こえなくなって暫く、ドアが勢いよく開き、二本足で立つ犬が「入れ!」と言った。

三人は恐る恐る部屋に入る。

犬は三人の前をちょこちょこ歩いている。

部屋の中には埃をかぶった木箱がたくさん置いてあった。

「なんだ倉庫じゃん。トイレじゃないじゃん」

「たくっ。さっきの二人はちゃんとノックしたぞ」と犬がぐちぐち呟いていたが、三人は別のことに気を取られていた。

犬が三人に話し始める。

「お前らは何故ここに来た?」

「光っている飛行物体を目にして」

「違う! 何故学院に来た!」

ガブリエルが反応する。

「なんでそんなこと言わなきゃいけないんだよ」

「別に言わんでもいい。だが、魔法使いになりたい奴が即座に理由を応えられないんじゃあな」

「なんだよ!」

「何の目標も目的もない奴は、大した魔法使いにはなれんよ」

「ふざけんな! あるわ! 理由くらい!」

「じゃあ、言ってみろ」

「それは・・・」三人はそれぞれお互いをちらちら見て様子を伺う。

「なんだ? やっぱり言えねぇのか? お前達の目的や決意はその程度か?」

「・・・・・・」





(俺が学院に来た理由は、戦争を止めるため。そしてイエスタデイさんに学院を進められたから。理由は単純明快だ。でも、兵士を育てる場所で、戦争を止めるために大賢者から導かれたなんて言えない)

「何を黙ってんだ!? やれやれアイツも見る目ねぇなぁー」

三人はテピベラの言葉に違和感を覚えた。

(アイツ? アイツって誰だ?)

オリオンはそこで気づく。

イエスタデイが国中を旅しているのなら、オリオンのように導かれた人は他にいてもおかしくない。

三人は同時に声を出した。

「まさか!!」

三人は気付いた。三人ともイエスタデイに導かれたのだと。

三人はお互いの顔見て、頷いた。

オリオンは言う。

「俺は戦争を止めるために、強くなるためにイエスタデイさんにここへ導いてもらいました」

「俺も同じだ。戦争を止めるために家族で笑って暮らすために!!」

「私も!! イエスタデイさんに戦争を止めるならまず、自分自身が強くなって、強い精神を育めって」

犬は三人の言葉を聞いてニッと笑った。

「そういうことだ!! 俺はイエスタデイに頼まれてお前らの成長を見張りに来た。名はテピベラだ!」

アネッテは安心した声で言う。

「気にかけてくれてたんだ」

「当たり前だ。アイツは最後まで責任を取るつもりだ」

(よかった! 頼もしい!)

「テピベラさんはイエスタデイさんとどんな関係なんですか?」

「ただの腐れ縁だ。それ以下でもそれ以上でもねぇよ」

ガブリエルは興味津々で訊ねる。

「へぇ。じゃあイエスタデイさんのこと詳しいんだ」

「そりゃあ小せぇ時から一緒だからな」





打ち解けた三人と一匹の会話は盛り上がるが、急にテピベラは、畏まった表情になる。

「さて、お前らにはアイツから預かった試練をやってもらう。クリアできなきゃとても魔法使いなんかできないものだ」

「お! まじかよ。やりたい!」とガブリエルは身を乗り出した。

(俺もすぐにやりたい!)

「バーカ。こういうものには適したタイミングがあるんだよ。今日は自己紹介だけしたかったんだ」

「な~んだ。つまんねぇの」

「それよりお前らこんなところで駄弁っている時間はねぇぞ」

「え?」

「教師が入学式終わったら、教室に行けって言ってただろ。入学早々遅刻するぞ」

「うわっ! やべ!」

三人は血相を変えて、部屋を出ようとする。

兵士を育てる学院だ。厳しい規則があるはず。

遅刻した者にはどんな罰が待っているのか。

学院で学ばなければ、試練もなにもないのだ。

焦る三人に対し、テピベラは「待て!」と引き留めた。

「なんですか!!」

「いいか。俺の存在を誰にもばらすなよ」

「はい!!」

三人は教室へと向かった。



         ◇◇◇



オリオン、ガブリエル、アネッテは人目も気にせず、全力で廊下を走った。

教師がまだ、教室に到着していないことを願いながら。

しかし、教室のドアを勢いあまってドンッと開け、教室に飛び込んだ三人を待っていたのは、生徒達の憐みの視線だった。



三人は、教卓の方を見た。

そこには、あのボロボロの木の小屋で出会った、威圧感のある黒い服の女、クリファ・コールが立っていた。

クリファは、顔を三人に向け、ギロッと睨んだ。

ガブリエルは思わず「ひぃっっっ」と声が出た。



クリファは、その威圧感とは裏腹にゆっくりとした口調で言う。

「アナタ達は何者ですか?」

オリオンは震えあがりながらも応える。

「一年メタリオスの新入生です。遅刻してしまい申し訳ございません」

「遅刻とは怠惰なこと。これから兵士になろうという者がこの体たらく。今のままではすぐに死にますよ。アナタ達」

「はい。二度とないようにします」

三人の反省の意思を汲み取ったのか、クリファは視線を逸らした。

「まぁいいでしょう。まだ挨拶も初めていません。今回は大目に見ます。しかし、次はありません。いいですか、他の皆さんも同じです。遅刻したり規律を守れない者は即刻退学してもらいます」

そのクリファからの言葉にすら静かな生徒たちをクリファは一喝する。

「返事は!!」

「はいっ!!!」

「そこの三人、席に着きなさい」

改めてクリファは席が全て埋まった教室を教壇から見渡す。

「それでは始めます。私の名前はクリファ・コール。この学院で一番レベルの低いクラスであるメタリオスの担任です。さて、皆さんには本日より授業を行います。一番レベルの低い皆さんが戦場で死なないために一分一秒でも無駄にはできません。無駄な時間を使わせないよう願います」





クリファによる授業が始まった。

「魔法を使うのに才が必要だと言われています。その才とは『引力』を認識できているかということです。人や物には引力があり、魔法を使うには引力を感じることが必須です。引力を認識でき、それを扱えるかが学院に入れる最低限の条件であり、魔法使いの素質です。認識できていれば、練習しだいで操作をすることができます。しかし、認識できていない人に認識させる方法が見つかっていないので魔法使いを意図的に生み出すことはできていません。アナタ達がここにいるということは、その才があり、例え拙くとも、引力で物を引っ張ることが出来るということです」



(俺は本当にその最低限のレベルなんだ)



「引力で物体を引っ張ることや引力そのものが魔法であるかないか。それは今でも結論がでることなく議論されています。ただ、私達魔法使いは、引力を通して物やマナに働きかけているということは、れっきとした事実なのです」



生徒達はクリファの威圧感に関係なく話を真剣に聴いている。



「引力を風に例える者がいます。『吹き抜けの風のように吸い込まれる』と。他には、漁師のする網漁のように捉える者もいます。一度網を投げてその後、網を引っ張る。更には『引力はパワー』とそのままのことを言うタイプもいます。ですが、その捉え方によって魔法使いとしての良し悪しが決まるわけではありません。大切なことは、自分の感覚を見つけることです」



(俺の感覚・・・)



「まずは、皆さんの引力を直接見させてもらいます。十分後、まやかしの森南出入口前にある演習場に集まりなさい。遅刻した者に授業を受ける資格はありません。そのことを忘れずに」

クリファはそう言って、教室を出ていった。

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