実力者
オリオンが学校の校舎を眺めているとクリファとは違う黒い服を着た女が「入学式に遅れます。校舎に入って集いの間へ向かいなさい」と言った。
オリオンは校舎へ向かう他の新入生の流れに混じって歩き始めた。
校舎内を二列になって進んでいく。
廊下を歩いていると服を着たゴブリンが当たり前のようにそこらへんを歩いている。
オリオンは魔物を初めて見たのだった。
(話できくゴブリンとは印象が違うなぁ)
すると、列の前の方で誰かの怒鳴り声が聞こえた。
ゴブリンが新入生の女の子と話していた。
ゴブリンは女の子に言う。
「知っているか? 魔法使いを食べると魔力が上るんだとよ」
そう言われた明るい茶髪をした褐色肌の女の子が「そんなの迷信に決まっているでしょ!!」と強い口調で言い返していた。
(うお! ゴブリンが喋ったぁ!)
集いの間に入ると、オリオンは来た列に並んだまま待った。
新入生の列は六列あった。
みんなオリオンと同い年くらいで、周りの人間と話していた。
オリオンの周りも例外ではなく、オリオンは密かに周りの話に耳を傾けた。
「ダヴィさんが来るらしいぜ」
「まじかよ。最強の国王に次ぐ魔法使い」
「実力、地位共にNO.2か。生で見るの初めてだぜ」
オリオンは国政に疎く、名前に余りピンとこなかった。
暇を持て余すオリオンは、集いの間を見渡していると、小さな光る物体が一つ飛び回っているのを発見する。
(なんだあれ?)
他の新入生を見ても誰もあの光に気付いているようには見えない。
(俺にだけ見えているのか?)
謎の飛び回る光に気をとられていると、急にゴーンと鐘が鳴った。
それまでざわついていた新入生達は静まった。
新入生達の前にある演壇に豊かな白髭を蓄え、金の装飾が施された服を纏った老人が登った。
演壇の中心に立ち、老人は言った。
「よく来た。勇敢な子ども達よ。ワシは学院長のターンニバと申す。これから君達が立派な魔法使いの兵士に育つために最大のサポートを約束しよう」
光は学院長の後ろを飛び回っている。まるで自分の存在をアピールするように。
「さて、ワシが長く話してもしょうがない。なぜなら今日はこの方が参られたのだから」
そう言って学院長は、左手を上げ、演壇の右側に視線を誘導した。
「我が東オビアス国第一士師。ダヴィ・アーリマン!!」
新入生達が「おぉー!!!!」と声を上げた。
軍服を着た背のすらっとした男が壇上に登る。
学院長はダヴィと握手をして演壇から降りる。
ダヴィは自信に満ちた顔をしており、自分の上に立つ者は存在しないという自信が見てとれた。
「初めまして、私が東オビアス国国王の息子、第一士師ダヴィ・アーリマンだ」
その男の声は聡明で力強く、言葉が耳から入り、頭の中の中心で響き渡り、それ以外の思考を排除していった。
ダヴィは新入生達に語り始める。
「私の父はよく、東の魔王と呼ばれて西オビアス国の女王である西の魔女と比べられている。しかし!! 父こそがオビアス最大の魔法使いだ!! 国民の中には大賢者を信仰している者もいるという。七大賢者の一人がなんだ!! 器を持たぬ賢者に何ができるのか。私達ダヴィ軍こそがこの国を守るのだ!!」
新入生と学院教師から拍手が起こる。
ダヴィは拍手を静止させ、演説を続ける。
「かつて存在した数多ある小国を統一し、宗教と神話を確立した初代国王は、父なる神から命を受けた神・ヘラクレスによって神器がもたらされた。ヘラクレスから父なる神について聞いた国王は、国の名をオビアスとした。どうかあの美しきオビアスを取り戻すため、東西統一戦争に力を貸してくれ」
と静かな語り口調で演説をしめると、新入生と学院教師から拍手喝采が巻き起こった。
国王の嫡男であるダヴィ・アーリマンは、兵士育成責任者であり、学院はダヴィ領に位置している。
国王の子どもである士師達の中では、最も戦争に肩入れしており、国王の軍事を引き継ぐ意思を強く持っている。
戦争は指定された戦地でのみ行われるが、それは国自体を壊したくないという魔王と魔女の考えからである。しかし、ダヴィは領土奪還のためなら、この規定を破ってでも悲願を果たす考えを隠し持っている。
◇◇◇
ダヴィが演壇から降りると同時にオリオンは催眠から覚めたように、思考が働きだす。
オリオンは誰もいなくなった壇上に光が浮き上がるのを見た。
(あの光・・・)
別の教師が壇上に上がってきて話始めた。
「学院にはタレッド、カロス、メタリオスの三つのクラスが存在します。クラスごとに皆さんを学院に案内したため今並んでいる列のまま教室に向かってください」
教師の後ろにいた光が動き始める。
新入生達の頭上を飛んで後ろにある集いの間出口から外へ出ていった。
新入生達が出口にぞろぞろ向かっていく中、オリオンはその光を追いかけて走り始めた。
◇◇◇
謎の光を追いかけて階段を下りた。
人気のない廊下を通った所で光の飛ぶスピードがかなり上がった。
光を見失いそうになり、オリオンは光から視線を切ることなく自分の走るスピードを上げた。
しかし、これが間違いだった。
追いかけることに夢中になり過ぎて、オリオンは何かにぶつかってしまい、尻もちをついた。
「うわっ!」
「いててて」
オリオンは謝罪をしながら顔を上げるとそこにはオリオンより少し背の高い黒い肌の男の子と金髪の白い肌をした女の子がいた。
男の子が「大丈夫か」とオリオンに手を差し伸べ、オリオンは立ち上がる。
どうやら、この男の子にぶつかってしまったようだった。
「大丈夫。ありがとう。えっと・・・」
男の子は気さくな感じで自己紹介を始めた。
「俺はガブリエル・ヘルトブルクだ。でこっちが」
「私はアネッテ・ストーリ。よろしく」
「俺はオリオン・ハナムレー。よろしく」
ガブリエルが不思議そうに言う。
「で、オリオンはそんなに急いでどうしたんだ?」
その言葉に光のことを思い出す。
「あっ!」
オリオン達がいる突き当りの右にある廊下の先で光が動いているのを目の端でとらえた。
光はその廊下で唯一ある奥の部屋のドアに透けて入って行った。
そのドアは他と比べるとやけに古びていた。
その反応を見て察したアネッテが「オリオンもあの光を追って来たの?」
「二人も?」
「ああ。俺たちは別々で追って来ていてここで出会ったんだ」
「そうだったのか。あれ、なんだと思う?」
「妖精とか?」
「妖精かぁ。見てみたいなぁ」
「なんにしても、部屋に入ってみようぜ!」
「うん!」
「行こう!」
三人は、宝探しをしているかのようにワクワクして部屋のドアを開けたが、部屋の中を見て呆気にとられる。
そこには二本足で立っている犬がしゃがんでうんこを踏ん張っているところだった。
三人に気付いた犬はすごい剣幕で
「あん? 何見てんだテメェー!!」と言った。
三人は思わず「喋ったー!!」と叫んだ。
その言葉を犬は不快に思ったのか
「犬がしゃべっちゃワリィかよ! それに犬にもプライバシーってのがあんだよ! テメェら犬がクソしている時はトイレのドア閉めろよ!!」と怒鳴った。
「すみませんっ!」と三人は言って勢いよくドンっとドアを締めた。