偉大な魔法使い
仙人と五人は息を潜めて集会所の外から中を覗いた。
集会所の中にはイゲティスの首を絞めて持ち上げるダヴィの姿があった。
ダヴィは言う。
「いいかげん、アレの場所を吐け」
「先ほどから申し上げている通り、そんなものはありません」
「嘘をつくな!! お前達フィモスの民が紛争後、イエスタデイから魔道具を受け取っていたのは知っている!! 隠すのならフィモスの民を終わらせてもいいんだぞ」
「本来国民を守るべき士師が我々を殺すですと。アナタは侵略者か何かですか?」
ダヴィの表情が強張る。
「イエスタデイの保護がなければ今すぐ殺してやるよ!!」
「やってみなさい!!! 例え、我々が消えてなくなってもアナタには何も与えない! 神話を護る意思は信じる者に受け継がれる!! 決して消えることはない!!」
ダヴィはイゲティスの首から手を離す。
「ゲホッゲホッ」
「まぁ、いい。急用を済ませたらまた来る。その時まで用意しておけ。もし差し出さなければその時こそ本当に終わりだ」
イゲティスは言う。
「お帰りください」
ダヴィは執事のモラガと共に集会所を出てフィモス村を去っていった。
◇◇◇
「ダヴィの気配が消えた。もう行ったのじゃろ」
仙人がそういうと、仙人と五人は集会所の中へ入った。
「イゲティスさん大丈夫!?」
五人はイゲティスに駆け寄る。
「はい。これくらい大丈夫です。見苦しいところをお見せしました」
「そんなことないです。長として村を護る姿かっこよかったです!!
「ありがとうございます」
イゲティスと仙人、五人は席についた。
オリオンが問う。
「さっきの話はなんなんですか?」
「それについでですが、ラビュリントスに入る前にワタシが言ったこと覚えていますか?」
「偉大な魔法使いについてですか?」
「そうです。フィモスの民がこの地にやってきて何十年もの間ワタシ達は静かで長閑な暮らしをしていました。
しかし、ある時ワタシ達がここに住んでいることがエラテイアを拠点にしている盗賊に知られていまいました。
フィモスの民の伝説を知った盗賊達は例の如くワタシ達が特別な力を持っていると勘違いしてワタシ達を奴隷にすべくやってきたのです。
ワタシ達は抵抗しました。魔法も武力も持たないながらなんとか持ち堪えていたのですが、やはり限界がきました。
フィモスの民が乗っ取られるのを覚悟したその時、大賢者イエスタデイは現れたのです。
イエスタデイは目にも止まらぬ速さで盗賊達を降参にまで追い込み、二度とここへは近づかないように誓わせました。
そして、大賢者は去り際にとある魔法具を置いていったのです。それは再び我々に危機が脅された時に使用しなさいというものです」
「じゃあ、ダヴィが言っていた通り本当にイエスタデイさんから魔道具を受けとっているんですか?」
「はい。以上がフィモスの民を救った二人目の偉大な魔法使いの話です」
ガブリエルは言う。
「すげぇ!! イゲティスさん演技上手いっすね!!」
「ありがとうございます」
サレンは言う。
「ねーねー。てかさー。ダヴィって確か入学式でイエスタデイに嫌悪してなかったっけ?」
「あーそういえば。そもそもなんでイエスタデイさんの魔道具欲しいんだろう」
仙人は言う。
「事情が変わったのでじゃろう。第三勢力の件もある。それに確かに士師は魔王を崇拝しイエスタデイを敵視しているが魔王本人はイエスタデイを悪く言ったことは一度もない」
「じゃあ、魔王の命令で動いているってこと?」
「その可能性もあるし、単独の可能性もある。なんにせよ、四の五の言っていられない状況なのじゃろう」
アネッテは誰もが気になっていたことを口にする。
「ねぇ。ここへダヴィが来たってことは・・・・・・」
エルザはダヴィがオリオン達に意識がいかないように動こうとしていた。
もし、ダヴィがオリオン達を追いかけようとするようならエルザはダヴィと戦う覚悟であった。
それについて五人と仙人は理解していた。
しかし、ここへダヴィがいるということは、何を意味するのか。
五人は不安な気持ちを隠せずにいた。
仙人は言う。
「まだ、わからない。エルザがどんな思惑で動いているのかはっきりしているわけではない。これも作戦のうちかもしれない」
「先生・・・・・・」
仙人は言う。
「どちらにせよ、予定が早まっただけだ。なるべく早く我が家へ戻ろう」
イゲティスは言う。
「それでは今日は休んでください。遅れましたが皆様怪報の討伐、感謝いたします。これでまた、安心して暮らせます」
◇◇◇
翌日になって仙人と五人はフィモス村を出ることにした。
早朝。イゲティスは見送りに出る。
「イゲティス世話になった。フィモスの民の平穏を願っておる」
「皆さん。お気をつけて」
仙人と五人は走りだした。