紐理論
「やーいレンダ! アネッテ! オリオン! ガブリエル! あーあ、はぐれちゃった。最近よくはぐれるなぁ〜」
薄暗い道をサレンは呼びかけながら歩いていると柔らかい何かにあたる。
「ん? なに?」
手で触ってみるとポヨンとしていて気持ちがいい。
(柔らかいなぁ。なんなんだろぉこれ)
すると頭上から「ん〜〜。なやましいなぁ〜〜」と男の声が聞こえた。
「うわっ!!」
サレンはその柔らかいものを手で払うようにして急いで後ろに下がった。
「人!? 誰!?」
「ん〜〜。なんだよ〜〜。急にさわってきて〜〜。そのいいかたぁ〜〜」
薄暗かった周囲が松明の火で明るくなる。
サレンの目の前には、背の大きな太った男が立っていた。
「アンタは誰? 怪報?」
「んん〜。そうだよぉ〜。ボク、かいほー」
男は満面の笑みで答えた。
「アタシを襲いに来たの?」
「ん〜〜。でもボクぅ名前はかいほーじゃないよぉ〜。ボクの名前はぁ〜ブルーバ・ダブっていうんだぁ〜」
(ん? 話が通じてない?)
サレンは言う。
「ブルーバ! アンタを倒す! いい?」
「ええ〜〜。なんでぇ〜〜!? ボク悪いことしてないよぉ〜〜。エイスタにだって怒られてないよぉ〜〜」
「よし! わかった! 戦おう!」
「話つうじないよぉ〜〜。エイスタたすけてぇ〜〜」
「なんか悪い人じゃなさそうだけど! 倒させてもらうよ!」
サレンは体に魔力を纏った。
(まずはアタシの体術がどれだけ通用するか!)
サレンはブルーバのお腹を力一杯殴った。
しかし、腹が波打っただけで、微動だにしない。
「うわ〜〜。なにするんだよぉ〜。痛くないけどぉ〜。ひどいよぉ〜〜」
(全然効いてない!? ていうかお腹柔らかすぎぃ!)
サレンはカウンターを意識しながらも間髪入れず、殴打を連続で繰り出した。
しかし、相変わらずサレンは手応えを感じなかった。
(体はダメだ! 魔法を使って頭を狙おう!)
サレンがそう作戦を変更しようとした時、ブルーバは言う。
「もぉ〜〜。そんなに叩くとボク硬くなっちゃうよぉ〜〜」
サレンの突き出した拳がブルーバの腹にあった瞬間、サレンは拳に激痛が走る。
「ぐっう!!」
サレンは右手をおさえながらその場にしゃがむ。
「ほ〜〜ら。いったじゃ〜〜ん。ボクわるくないからねぇ〜〜」
(急にブルーバのお腹が硬くなった! これがブルーバの魔法?)
ブルーバは床に横になってあくびをした。
「ふわ〜〜。ボク寝るから邪魔しないでねぇぇ」
サレンはポケットからマメガキの苗を取り出して、右腕に絡ませながら、マメガキの苗と右腕に魔法をかける。
そのまま拳を握り、サレンはブルーバへと向かって走る。
「これも防げる感じぃ? デェトロ・スフィリー!!!!」
ブルーバへ向けたサレンの拳からマメガキの木が飛び出した。
マメガキの木はそのまま伸びていき、ブルーバの顔面に激突した。
ブルーバは寝そべったまま少し後ろに押されたが、眠ったまま鼻をボリボリとかく。
(急激に成長した木の勢いで攻撃する技なんだけど、効いてない?)
サレンは悩む。
(う〜ん。どうしよう。頭部も硬い感じかぁ〜。いっそのこと首絞めるかぁ)
ブルーバは大きく口を開いてイビキをかきはじめた。
(自分が硬いのわかっているから、戦う気ないんだろうなぁ〜)
サレンはポケットから紐を十本取り出した。
(この前みたいに、髪の毛使うのはなし。まだ、禿げたくないもん!!)
十本の紐を絡ませながら、魔法をかけていく。
(よしっ! これで紐の強度が上がった! これで絞まらない首はないっしょ!!)
サレンは眠るブルーバの背後へ回り、首元に紐をかけた。
「秘技!! 暗殺術ぅ!!」
そう意気込んで紐を引っ張った瞬間、紐はぶぢっと切れて勢いのあまり、サレンは後ろに倒れた。
「いったぁ〜! うそぉ〜。こんなに強化した紐でも効かないのぉ!! ありえないっしょ!!」
サレンはブルーバの正面に回り、首元を確かめる。
「まったく跡すらついてない」
するとブルーバは急に目を覚まし、右手を振り上げ、サレンの足元へ拳を振り下ろした。
床に拳がめり込む。
(しまった! 寝てると思って油断した!)
サレンは下がり、次の攻撃に備えて構える。
しかし、砂埃が晴れるとブルーバはまた、眠っていた。
(なんだ? 寝相?)
再びイビキをかき始めた。
サレンはその場に座って考える。
(どうするかなぁ)
黙り込んだサレンの周囲をブルーバのイビキが響き渡る。
(うるさいなぁ)
サレンが呆れてブルーバの顔を見ると、ブルーバが大きな口を開けているのに気づく。
(ん! 待てよ! もしかしたら・・・・・・試してみる価値はあるかもぉ!)
サレンはポケットからマメガキの苗を二つ取り出した。
二つのマメガキの苗を絡ませながら魔法をかける。
絡ませたマメガキの苗を丸めて、小さくした。
サレンはブルーバの顔をじっと見て、タイミングを見計らって、ブルーバの口の中にマメガキの苗を投げ入れた。
その瞬間、ブルーバの口の中でマメガキが急成長を始めた。
苗は木となりブルーバの体を突き破ろうとする。
「うがっ! うがうがっ!!!」
硬化した皮膚は破れなかったが、体の内部は破壊され、ブルーバは気を失った。
サレンの魔法は、紐状のものにマナの種類の組み合わせと四原引の技術を用いて、プログラミングをする能力。
紐状のものには一本につき一つの命令しかプログラミングできない。そのため、複数本を絡ませることで一本とみなして、複数の命令を実現させている。
一本目のマメガキの苗には、液体を吸収すると成長する命令を出して、二本目の苗には液体を吸収する能力を飛躍的に上げるようにプログラミングした。
そのため、ブルーバの口に入るとブルーバの体液を迅速に吸収し始め、木は急激に大きくなった。
サレンは一ヶ月半の修行で体術や魔力操作のみならず、プログラミング能力も伸びていた。
ブルーバが気絶しているのをサレンは確かめた。
「やっぱり。硬くなったのは皮膚だけかぁ。体内ならアタシの攻撃も効くと思ったぁ!」
サレンはブルーバをその場に残し、迷宮の奥へと向かった。
「さぁて! レンダさっがそー!!!!」




