拳技の実力
ソラン二は水に潜るように床の中へ沈んでいった。
「よっしゃ! よくわかんねぇけど、俺もやったらぁ!!」
ガブリエルは一か月半の仙人とカシアスとの修行で身につけたのは体術のスキルだけではない。
アルガリドが行っていた魔力を纏うという魔力操作を身につけていた。
ガブリエルは魔力を全身に纏う。
これにより、体を攻撃から守り、更に身体能力、攻撃力を強化する。
そして、魔法(能力)を使用していないときは常に魔力を集める技術も身につけていた。
(床に潜れるってことは不意打ち狙いか! やっぱり汚ねぇ奴!!)
ガブリエルの足元からソラン二の手が出る。
手はガブリエルの足首を掴もうとするが警戒していたガブリエルは気付き、上に飛び上がって避けた。
(そう来ると思ったぜ!!)
ソラン二は再び床の中に潜った。
着地したガブリエルが足元を中心に周囲を経過していると今度は天井からソラン二が降って来た。
ソラン二の持つナイフがガブリエルに触れようとした瞬間ソラン二の方へ振り返って拳を振るう。
しかし、空振りソラン二はそのまま床に潜っていった。
「お前の魔法は床や壁、天井に潜れるって能力だろ。なら」
といってガブリエルは四方の壁から距離を取る。
「これで壁からの攻撃はない。床か天井か。どっちかに意識を集中させていても俺は両方に対応できる」
ソラン二の声だけが聞こえる。
「そりゃよかった。それなら安心して床から攻撃できる」
ガブリエルはその言葉がはったりであるとすぐに気付いた。
「そう言って本当は天井からなんだろ!」
ガブリエルが天井からの攻撃へのカウンターをしようと構えた瞬間。
ソラン二は天井からも床からも現れなかった。
ソラン二はガブリエルの背後にある壁から現れた。
「な! なに!」
ソラン二のナイフを素手で受け止めるとガブリエルはソラン二へ拳を突き出す。
ソラン二は突っ込んだ姿勢のまま避けようとするがガブリエルの拳が頬をかする。
すぐさまソラン二と距離をとったガブリエルは部屋の雰囲気が変わったことに気付く。
(おかしい。この部屋。こんなに狭かったか?)
「気づいたか。そうだ俺は部屋の壁や天井を動かすことが出来る。悪いがこのままお前には潰れてもらう」
そう言うと四方の壁と天井がガブリエル目掛けて迫ってくる。
「さあてどうする?」
ソラン二は壁の中に潜った。
「大丈夫。準備は出来ている」
(・・・・・・?)
ガブリエルは迫り来る壁を殴打した。
「バカが! そんな攻撃で迷宮の壁が越せたら、誰も迷わねぇよ!」
「拳チャレンジ 相性パンチ発動!」
「あん?」
ガブリエルは拳を振りかぶる。
「何度やっても同じだよ!」
ガブリエルの拳が壁に触れると同時に壁は崩壊する。
「おりゃあ!!」
ガブリエルは魔力を身に纏うことで戦闘を行いながら魔力を溜める技術を身につけた。そのため魔力量が能力の強さに直結する拳チャレンジの準備期間が短縮され、ランダム制は克服できてはいないが、難易度一位、二位を除いた能力パンチは難なく撃てるようになった。
残った壁と天井が迫る。
「まだまだぁ!!!!」
ガブリエルは残りの壁と天井を拳のみで全て破壊した。
『相性パンチ』は拳を当てた対象に三つの内一つの属性を与える。属性はアルファ、ベータ、ガンマの三つで、アルファはベータに強くベータはガンマに強く、ガンマはアルファに強い。属性は必ず三つ共設定しなければならない。
ガブリエルは自分をガンマに設定し、壁をベータ、ソランニをガンマに設定した。
それにより、ガブリエルの拳は壁にとっての弱点になった。
「な! なんで!」
一瞬の間に壁と天井が壊され、ソランニが姿を現す。
ガブリエルはすかさず、ソランニへ攻撃を喰らわす。
「しまった!」
ソランニが構え遅れガブリエルの拳が左の頭部に当たった瞬間、ガブリエルが悲鳴を上げた。
「いってぇ〜!」
ソランニは状況を理解できなかった。
「え? なに?」
「相性パンチ解除するの忘れてたぁ!!」
ソランニは痛がるガブリエルを見てチャンスと思い、ナイフをガブリエルへ突き出す。
「能力解除!!」
ナイフが服をかすりながらもガブリエルはすんでのところで避ける。
ガブリエルも反撃を喰らわそうと振りかぶる。
「拳チャレンジ!!!」
ガブリエルの殴打はソランニがなんとか手で防いだがガブリエルにとって十分だった。
続けてソランニの攻撃を避けながらガブリエルは拳を打ち込む隙をうかがった。
ソラン二は考える。
(くそ! 床に逃げるか? だがさっきのパンチを床に撃たれれば、俺まで被害を受ける。ここで倒し切る!)
ソランニがナイフを持つ腕を振り切った瞬間、ガブリエルは拳をソランニの顎目掛けて振るう。
「ガキが! 舐めんな! 狙いが見え見えなんだよ!」
ソランニは振り切った腕を振り戻し、ナイフをガブリエルの頭部に当てる。
しかし、感触がまったくない。
切り裂いたはずのガブリエルは霧となって消えた。
「俺はここだよ」
ソランニの背後からガブリエルの声がした。
ソランニが振り返る瞬間、ガブリエルの拳がソランニの右頬にめり込む。
『残像パンチ』は自分の残像を一つだけ作り出し、直前の自分と同じ行動をとらせる能力。
ソランニはそのまま床に体を打ちつけた。
「ふぅ〜。危ない危ない」
ガブリエルはソランニに近づいて顔を確かめた。
「気絶してる・・・・・・まっいっか。先すすも〜」
ガブリエルは壁があった場所から廊下に出て、迷宮の奥へと向かった。