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THE ORION  作者: 黒羽感類
Season Two ダヴィ編
64/72

怪報

イゲティスは語り始めた。

「ワタシ達フィモスの民は、アテーナイよりも更に南にあるクレーテー島が生地なのです。

そこでは太古の時代に最高神が育った場所なのだと神話の中にあります。

そのような地に暮らしていたからでしょうか、元々先祖の民は島でただ平穏にオリーブを育てて暮らしていました。しかし、ある時から彼らはある使命を負い始めたのです。

それは『神話を護る』こと。

例え、いつ、どんなことがあろうとも、神話を信じ続けること。

それがフィモスの民が与えられた使命。

オビアスの人間が誰一人として神話を信じなくなり、忘れ去ってもワタシ達が信じ続けることで神話は護られる」





ガブリエルは問う。

「急だな。どうやってそんな使命を自覚するんだ?」

「先祖から代々口承される話によると恐らく、先祖は神と会っていると思われます」

「じゃあ、神から直接使命を与えられたってこと!?」

「そういうことになるでしょう」





イゲティスは続ける。

「神話を信じることとはいったいどのような行為でしょうか。

ワタシ達はこう解釈します。神話を信じること、それは神への敬意なのではないか。と。

魔法は初めからただそこにあるわけではありません。

神話を信じ続けることで神から命を受けた精霊が地上へやって来て自然を通してマナを生み出してくれます。

人間はそのマナを使い魔法を行使し、そしてまた神話を信じるのです。

このように神と神話、精霊は循環しています。オビアスで生き、魔法を使う限り、この『円環』から逃れることはできません。

もし、神話を信仰しなくなれば魔法は使えなくなります。

何故なら、まず精霊がいなくなります。そしてマナが消えます。更には、木や川の水が枯れていきます。

そうなれば、人々はこの国では生きていけないと考える。だからといって外の国へ行っても無駄です。神によって、異国のものを食べたら死ぬ体になっていますから。

そうしてオビアスの人間は、オビアスでしか生きていけないのだと知ることで、原罪と向き合い、神話へと回帰するのです」





思わずガブリエルが反応する。

「ひえ!! 恐ろしいぜぇ!!」

「フィモスの民のこと理解していただけましたか?」

アネッテは応える。

「ま、まあ、少しは」

「それはよかったです」

レンダは言う。

「それで、さっき仙人と話していたこととどう関係があるんですか?」

「そうですね。話の続きの前に質問させてください。フィモスの民が魔法を護っていると聞いてどのような印象をうけましたか?」

「そうですね。やはり、魔法について誰よりも詳しいんだろなって」

サレンが続く。

「魔法のエキスパートとかぁ!!」





イゲティスは無言で頷いた後、語り始めた。

「そうでしょうね。それが普通だと思います。

しかし、皆さんフィモスの民が元々はただのオリーブ農家だったのを覚えていますか? 

実はワタシ達は魔法を使えないのです。

これは神話を護り続けるために魔法に魅了されてはいけないという理由からです。

純粋無垢な信者であり続ける必要を神に説かれたのでしょう。

例え、国民が神話を忘れても私たちが最後の砦となり、神話を護り続ける。これが『使命』なのです」


「まじかよ・・・。メリットないじゃん」





「そうですね。実際、神話の守護者だから特別な力があると思われて狙われたことも多々あります。

しかし、そんな時必ず救世主が現れるのも事実です。

二人の偉大な魔法使いについてお話しましょう。今回の事に直接関わりのある話です。

フィモスの民がまだ、クレーテー島にいた頃、島には厄介な存在がいました。

それは怪物ミノタウロスです。ミノタウロスは島のラビュリントスに住んでいましたが、ミノタウロスの食べ物は人間の子どもでした。

ミノタウロスは子どもを食べられたくなければ使命と共に神から授かった『力』を渡せとフィモスの民に要求するのです。

当然そのようなものはありません。対応に困っているといよいよフィモスの民もミノタウロスによって殺され始めました。

そんな時、彼は現れました。彼とは、偉大な魔法使いの一人。オビアス統一以前の魔法使いガウヤフ・テレルティテットです。

ガウヤフはラビュリントスへ一人で入って行き、その命と引き換えにミノタウロスを討伐してくれたのです。

しかし、それでミノタウロスの脅威から解放されることはありませんでした。ミノタウロスは死ぬ間際、フィモスの民に呪いをかけたのです。

フィモスの民が神話とあり続けるのと同じく、ラビュリントスもまた、フィモスの民とあり続けるようにと」





「それって単なる建物だよね。何か問題でもあるの?」

そのオリオンからの質問に仙人が口を開いた。

「君等は『怪報』という言葉を聞いたことあるか?」

「『怪報』? 初めて聞きました」

「まあ、簡単に言うと怪物を信仰している人間のことをそう呼ぶ」

「怪物って人間を襲う生き物だよね!! 人間が信仰するなんてありえない!」

ガブリエルのその言葉にアネッテは言う。

「でも、ケルベロスは友好的だよね」

「ケルベロスだって元々襲い掛かってきたのを力で屈服させたんだろ。やっぱり怪物は危険なんじゃ」





仙人は言う。

「そうじゃ。ケルベロスとは当然主従関係の契約を結んでおる。

してなければ、君等はとっくに食われておる。やはり怪物は危険で人間の敵だ。

しかし、この広い世界にはいろんな人間がいる。なんらかの才能がありすぎる者。または、何も持っていない者。周りの人間とはあまりにも思想が違う者。親や環境に恵まれず自分を殺しながら生きる者。そのような人間が何を信じる? 何を糧に生きる? 儂らと同じ思想や倫理観を持っているとは限らない。人々から蔑まれ、社会からあぶれた人間が神や神話でなく、怪物を信仰してしまうのだ」

イゲティスは呟く。

「怪物を以って報復する」





仙人は続ける。

「奴らは世界に対して怪物による破壊を企てている」

「怪物をどうやって?」

「怪物を信仰と言っても大体の怪報が行っているのは、死んだ怪物の復活だ。怪物を復活させてこの世界を自由に暴れさせる。世界の怪物密度を上げて、魔法使いに対処しきれなくする。それが奴らの作戦。とは言っても、一度死んだ生き物の蘇生など今まで成功した試しはないがの」

「それで、怪報がなんですか?」





「この森のすぐ近くにあるラビュリントスに『ミノタウロスの怪報』が住み着いている」

イゲティスは言う。

「ワタシ達がクレーテー島からここへ逃げて来た時、確かにここには建物など一つも建っていなかった。しかし、気付くとにラビュリントスはすぐそこにあったんです。ミノタウロスが残した通常とは違うシステムの呪い(魔法)によって移動してきたのです」

五人は驚く。

「それってまさか! この近くでミノタウロスを復活させようとしているの!?」

五人のその言葉にイゲティスが応えようとすると何かを察したように仙人は静止する。

「そうじゃ。怪報といってもピンキリだがのう。もし魔法の才能と邪悪な心を持った者が怪報になれば、それは厄介な話になる」

「それじゃあ、修行って」

「そうじゃ。君等には明日、怪報と戦ってもらう!!」

「えええええええっ!!!!!」

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