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THE ORION  作者: 黒羽感類
Season One 学院編
6/72

旅立ち

その日の夜、宮殿で焚火を囲む三人。

オリオンは悩ましい顔で焚き火を見つめている。

「戦争はなんで終わらないんだろう」

「お互いの領土を奪還しようとしているのだ。馬鹿なことだ。元々一つの国だったではないか」

「神様はいるんだと教えられてきた。何をしているんだろう」

「神は人類の味方ではない」

「え?」

「もちろん敵でもない」

「それでも神様はいるんだ」

「ああ、いる」

「なんでだろう」

「私に神の意志を汲み取る力はない。その資格も」

「・・・・・・」無言の時間が流れた。

穏やかな時間に感じられ、時間もあってか眠気を誘う心地よさだった。

しかし、一人だけ真逆で闘志を燃やしている者がいた。

オリオンだ。

急にオリオンは立ち上がった。二人の顔を眺めて、決心した表情で言う。

「俺! 戦争を止めたい!」

その言葉に思わず祖父は身を乗り出す。

「なにっ!?」

「戦争がない方が村の人達はうれしいでしょ!!」

「何を言っている? 正気か?」

「うん!!」

「どうやって? まさか、魔法使いになって戦うつもりじゃないだろうな!」

「方法はまだ、わからない!」

「無理だ! 五百年やっているんだぞ!!」

「わかっている! でもそれが人のためのような気がするんだ!!」

「アカラスが言っていたことか!! あのなぁ、オリオン!! 魔法を使えるようになったからと言ってなんでもできると錯覚しているんじゃないだろうな!!」

イエスタデイは二人の間に入り、オリオンに優しい口調で語りかける。

「復讐ではないだろうね」

「復讐?」

「動機が復讐ならば、私は君を行かせるわけにはいかない。それは、死の道だ」

復讐をしようとしていたのか。オリオンは考える。

自分はあの雷の槍を放った兵士を恨んでいるだろうか。

いや、恨んでいない。そんなこと考えてもいなかった。

不慮の事故。無意識にそう考えていた。

ただ、父と母が可哀想だと。

「復讐じゃないよ。本当に心からみんなに安心して欲しいだけなんだ」

「それはオリオンがやることじゃない」そう言った祖父をイエスタデイは静止してオリオンに語り始める。






「戦争を止めたいのならば強くなることだ」

「強くなる・・・!?」

「学院に入りなさい。そこで力をつけ、自らの力で戦争を止めなさい」

「オリオンに戦えと言っているんですか!?」

「まず、力をつけるべきだ。自分を守る。そして大切な人を守る。大切な人を守れず戦争など止められない」

「学院は兵士を育てる場所ですよね?」

「学院なら良い師に出会える。兵士を育てる場所だが、本当の正義とは何かという答えのない問と向き合い、魔法使いとして力を与えてくれる教師がいる」

「イエスタデイさんは教えてくれないの?」

「私の旅に今の君を連れてはいけない」

「何故です? 大賢者様なら安心して預けられる」

「探し物があるんです。無くしてはならなかったものです」





オリオンは拳を握りしめる。

「俺は行く!」

「オリオン!!」

「イエスタデイさんが言うなら、きっと間違っていないんだと思う」

「駄目だ! たった一人の孫を兵士にさせたくない!」

「俺は兵士になるんじゃない!! みんなを守る力を手に入れたいんだ!!」

「大賢者様・・・」

「学院に入学できるのは二年後です。それまでに決着をつけてください。オリオン君。最後に判断するのは君自身だ」

「はい!!」



         ◇◇◇



そして、数日が経ってキラノト村の西側に村人たちが大勢集まっていた。

村人の前には旅立とうするイエスタデイがいた。

村人たちはイエスタデイにそれぞれ挨拶を終え、最後にイエスタデイはオリオンと二人だけで話をし始めた。



「決心は変わらないかね?」

「はい! なんとしても戦争を止めたいです!」

「・・・そうか」

「・・・?」

「君には強大過ぎる『引力』があるのは理解しているね」

「はい。なので制御できるまで人がいるところでは使いません」

「それだけじゃない。君はイレギュラーなんだ。だから・・・」

「だから・・・?」

イエスタデイは躊躇いながらもオリオンにあることを問いかけた。

オリオンはその問いにこう答えた。

「それでも戦争を終わらせる!!」

そう答えた後のイエスタデイの悲しそうな顔が、オリオンの脳裏に暫くこべりついて離れなかった。



         ◇◇◇



イエスタデイとの別れから二年が経った。

キラノト村の西側に村人が集まっていた。

村人の前にはオリオンと行商人が立っている。

オリオンは村人に別れを告げる時がやってきたのだ。



祖父は可愛いまだ十二歳の孫を抱きしめた。

そして、目を見て言う。

「大賢者様は世間から史上最弱の大賢者だの大賢者としての器がないだの言われているが、私達を救ってくださったことは事実だ。大賢者様に感謝をし続けるんだ。そしていつか力になるんだ」

「はい! 必ず!」

「オリオン・・・いつになってもいい。だから、だから、生きて帰ってきておくれ・・・」

「じいちゃん!!」

オリオンは祖父を強く抱きしめた。


出発の時間だ。

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