不気味な鷲
「・・・大賢者?」
霧が晴れ、オリオンの前に突如現れた故郷の丘と大賢者の姿。
「ここはキラノト村の・・・」
丘から見渡せるキラノト村の風景は、オリオンにとって懐かしくもあり、どこか違和感があった。
(人が誰もいない・・・・・・幻覚か!)
目の前にある光景に惑わされそうになったオリオンだったが、今自分が置かれている状況を思い出した。
(これは修行だ。あの霧がこの幻覚を見せている。何か意味があるはずだ)
オリオンは大賢者に近付く。
「大賢者! 何をしているのですか!」
大賢者は振り返った。
「オリオン君。私に引力を使いなさい」
「なぜです?」
「君の力を試したい。君は覚醒している」
オリオンは思い出した。
まだ、引力を使えなかった十歳の頃、祖父と大賢者と三人でアフノスの森に行き、そこで自分が覚醒していることを知らされ、初めて引力を放ったことを。
(あの時の大賢者の姿が現れたのか!)
「さあ、少し離れて。オリオン君。引力を使ってみなさい」
オリオンは大賢者から距離を取り、両手を構えた。
(俺はあの時より成長したんだ。例え幻覚でも見てくれ! 俺の今の実力を!)
オリオンは制御された引力を大賢者に向かって発した。
しかし、その瞬間。大賢者が片手でオリオンの引力を払いのけた。
「なっ!?」
「オリオン君! 何をやっている! 君の全力はこんなものじゃないだろう! 手を抜くな!」
オリオンは大賢者の気迫にたじろぐ。
「す、すみません・・・」
「次は全力できなさい」
「はい!」
オリオンは両手を構え直し、全力の引力を放った。
引力が大賢者を襲う。
しかし、大賢者は微動だにせず、両手を広げ笑顔でオリオンを見つめる。
「いいねぇ! いいぞぉ! これがオリオンの全力かぁ! 素晴らしいぃ! 私は嬉しいよ! 君の実力がその程度で!!」
オリオンは大賢者の異変に気付く。
(幻覚だからか? 大賢者の様子がいつもと違う!)
「よし! こっちも行くぞ! 行くぞ! 行くぞぉ! オリオン!!」
すると大賢者の背後に魔法陣が現れた。
魔法陣からは幾つもの光の槍が飛び出し、オリオンへ向かって放たれる。
(まずい!!)
オリオンは引力操作で光の矢の動きを止めようとするも矢の勢いは衰えず、オリオンへ向かう。
「うわっーーー!!」
光の矢はオリオンの周囲に突き刺さり、当たりはしなかったものの衝撃がオリオンを襲った。
「いったい、なんなんだ・・・」
土煙が舞い、周囲が見えなくなる。
(くそっ! 視界が塞がれた。また、光の矢を放たれたら避けられない)
オリオンは両手を構えた。
すると、土煙が晴れ始めた。
オリオンは前方を確認した。
(なにっ!?)
そこには大賢者の姿がなくなっていた。
「わはは。わはは。罰だ。罰だ」
頭上から大賢者の抑揚のない声が聞こえた。
オリオンは空を見上げた。
そこには、一羽の鷲がぐるぐると回って飛んでいた。
「鷲!?」
鷲はオリオンと目を合わせながら言う。
「罰だ。罰だ」
不気味な笑い声を上げながら、鷲は空高く飛んでいき、やがて見えなくなった。
「なんだったんだ。今の」
霧が再び現れ、丘の景色を真っ白に変えた。
そして、霧はオリオンを避け、一本の道を示した。
オリオンはその道を進んだ。
◇◇◇
霧の一本道を進んだ先には小屋裏の草原が広がっていた。
そこには腕組みをしたカシアスと疲れた表情のアネッテ、ガブリエルが休憩していた。
「お! 来たか! オリオン! 三位だ!」
三人の姿を見て、ホッとしたオリオンはカシアスのもとへ走った。
「あのさっき霧の中で・・・」
オリオンの問いかけにカシアスは食い気味で応える。
「霧の中で見たことは俺に聞かれても・・・以下略ぅ!!」
「わかりました!!」
オリオンの頭の中はスッキリし、表情が変わる。
(今できることをやろう!)
「よし! 殴り合うぞ!」
「はい!」
お互いが構えたところでカシアスは、あることを思い出す。
「おっと! その前に! オリオン! 一つアドバイスだ!」
「なんですか?」
「ルールは覚えているな!」
「魔法は使うな。ですよね」
「そうだ! 当然引力も使用不可だ! ただし! 引力が体術にどう生かせるかを考えて殴り合え!」
「引力を体術に生かす・・・?」
学院での体術指導の経験が浅いオリオンは、引力を体術に生かす発想を持ち合わせていなかった。
引力操作によって物を動かし、戦闘に生かす発想はあったものの体術にどう生きるかは、まだオリオンには難しく感じた。
それを感じ取ったのかカシアスは言う。
「体を動かさないと、何もわからないだろうな! 実践あるのみだと思うぜ!」
「わかりました! やりましょう!」
二人は構えた。