表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE ORION  作者: 黒羽感類
Season Two ダヴィ編
56/72

修行開始

仙人は五人に語りだす。

「君等はこれまで魔法の勉強をしてきた。ケルベロスとの戦いで歳相応以上の力を発揮していた。それもこれも学院で出会った魔法使いによる修行の賜物じゃろう。しかし、戦いの中で足りないモノも気づいたはず。例えば、ケルベロスとの戦闘で。また例えば、士師との戦いで」



五人はアルガリドとの戦闘を思い出す。



魔法での攻撃を中心にして五人の力を合わせてやっと勝てた相手。

アネッテとガブリエルが攻撃を受けながらボロボロになって粘った。

オリオンが強大な引力で抑えた。

サレンとレンダは三人で作った時間を使って魔法の罠を準備した。

そのどれもが一つでも欠けていたら負けていたギリギリの戦いだった。

互角に戦っていたとは言えない。

五人には明らかに足りないものがあった。

「君等には圧倒的に体術が不足しておる」



ガブリエルは同調する。

「確かに! あの時俺が士師と対等に殴り合えていれば、あんな無様な姿にはならなかった」

「君等はこれまで自分がどう魔法を使うかを考えてきた。どのような工夫を凝らせば自分が理想とする魔法に近づけるか。だが、戦いになれば敵がいる。自分の都合だけで事は運べない」

オリオンは言う。

「引力で引っ張るだけじゃ強くなれない・・・」

「うむ。これからは相手に対処しながら自分の長所を生かすために体術を向上させることが必須じゃ。それに体術の向上が魔法の効果上昇にも繋がる」

「剣士なんだから! 近接戦闘強くならなきゃ!」

そうアネッテが言うとサレンも同調する。

「レンダ! ウチらもサポート役のままじゃあ、駄目っしょ!」

「そうだね! 僕たちも一人一人がしっかり戦えるように強くなろう!」

五人の反応に仙人は柔らかな表情で頷いた。

「戦争を止めるなら強い身体を持つことじゃ! 早速、明日から頑張りなさい」

「はい!」



                ◇◇◇



「お前らぁ! 起きろ! 朝飯できているぞぉ!」

カシアスの大声で修行の一日目が始まった。

久しぶりに深く眠れた五人はウトウトしながら目をこすって身体を起き上がらせた。

「はぁーあ。よく寝たぁ。久しぶりに俺なぁんにも夢見てない」

オリオンの言葉にガブリエルは反応する。

「俺、誰かに名前を呼ばれる夢見たなぁ。名前を呼ぶから振り返ってもだれもいない夢」

「変な夢ぇ~。でも案外誰かが寝言でガブリエルって叫んでいたんじゃない?」

「まっ! そんなもんだよなぁ!」

レンダは言う。

「そういえば仙人はどこですか?」

カシアスが応える。

「そこで寝ているぞ」

カシアスが指さす方を五人が見るとそこには、壁に挟まって尻を突き出している仙人がいた。

「えっ。なにあれ・・・」

「師匠は寝相が悪いんだ。それに寝起きも悪い。あの歳で睡眠時間が長いんだ」

「へっへー。意外とだらしないんですね」

ガブリエルが落胆の声を上げる。

「俺はてっきり朝早くから水浴びでもしてんのかと思ったぜ」

すると壁に挟まった仙人は口を開く。

「愚か者。長時間睡眠こそ長生きの秘訣じゃ」

そう言って仙人はカシアスに壁から引っこ抜いてもらい起き上がった。

「昔はこんなに寝相わるくなかったんじゃがなぁ」

全員起きたところで、五人はカシアスが準備した朝食をテーブルに並べ、食事を始めた。



                 ◇◇◇



朝食の後片付け後、五人はカシアスに連れられて小屋の外に出た。

小屋の裏には草が生い茂る平地があり、体を動かすには十分な広さだった。

カシアスは五人をその場所に並ばせて修行の説明を始めた。



「俺は体術を鍛えるために師匠に弟子入りしてからこの小屋の裏で毎日修行を積んできた。筋力トレーニングや師匠との手合わせなどでそれなりに強くなり、こうやって新入りのお前らを指導するまでに信用を得ている。しかし、それでも年老いた師匠の本気を引き出せたことはない。お前らは兵士育成機関に居ただけあって普通のガキよりはできるようだが、正直、『本物』の戦いを知っている様には見えない」

「これでも何回か死にかけてるんですけどぉ~」

「それは知っている。まぁ何が言いたいかというと。俺を倒せないようでは『本物』の師匠に直接指導してもらえないということだ」

「カシアスさんはどんな修行をさせてくれるんですか!」

「呼び捨てでいい。今日やる修行! それは! 俺との殴り合いだ!」

「いきなり殴り合い!?」

「そうだ! まずは味わえ! 俺の体術を食らえ!」



                  ◇◇◇



カシアスは続ける。

「ルールは簡単。俺のところまでたどり着いた者から俺と殴り合いをスタートさせる。殴り合いはそのままの意味。魔法や武器は禁止だ」

「たどり着くって。このままだと五対一になりますよ」

「それでも俺は一向に構わんが。そうはならないと思うぜ」

カシアスはそう言うと、腕をクロスさせて体中に力を入れ始めた。

「何故なら・・・」

「なんだ?」

カシアスは唸り始める。

「うぅぅぅぅぅぅん」

するとクロスしていた腕を勢いよく広げた。

「はっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!」

雄叫びを上げるカシアスの体から霧が噴出し始めた。

霧は小屋裏の平地一体を包んだ。

五人は何が起こったかわからず戸惑った。

真っ白な視界の中、カシアスの声だけが聞こえる。

「もう一つのルール。この霧の中から俺を見つけ出すことだ」






暫く戸惑う五人だったが次第に理解した。

(既に修行は始まっている!!)

オリオンは今まで隣に立っていた四人がいなくなっていることに気が付いた。

「みんな! いるか!」

返事はない。

人がいる気配が一切しなくなった。

(もうみんなは修行と向き合っているのか?)



四人を探すよりも修行に向き合うべきであるとオリオンは気持ちを切り替えた。

オリオンはカシアスに辿り着くために、まずは先ほどカシアスが立っていた方へ進もうとした。

しかし、その瞬間。オリオンは真っ白な霧の向こう側で動く人影を見た。

(カシアス?)

オリオンはその人影に向かって走り始めた。

人影に近付くほど、霧は晴れていき、草原が見えた。

そして、人影が気のせいではないということも何者かの後ろ姿を目にしたことで確信した。

段々と鮮明になっていく後ろ姿を見てオリオンは思う。

(この後ろ姿カシアスじゃない!? でも知っている!)

オリオンはその見知った後ろ姿が立つ草原が小屋裏ではないことにも気付く。

それは、懐かしき故郷の丘だった。

オリオンは後ろ姿に問う。

「あ、あなたは・・・」




その後ろ姿は紛れもなく大賢者イエスタデイのモノだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ