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THE ORION  作者: 黒羽感類
Season Two ダヴィ編
55/72

エルザの狙い

胸元を超えても尚伸びる白髭を撫でながら五人の前に現れたのは、仙人を自称する老人だった。

「あなたが仙人?」

慈愛に溢れた表情の老人は優しく頷いた。

「儂の名前はリウ・ジンロン。この山で隠居生活をしておるピチピチのジジィじゃ」

「リウ・・・さん」

「仙人でも師匠でも、じいちゃんでもなんとでも呼んでいいぞ」

死闘の直後、急に現れた仙人に五人は戸惑いを隠せないでいた。

アネッテ、ガブリエル、レンダ、サレンの四人は一斉にオリオンを見る。

オリオンは立ち上り、仙人に言う。

「あの、俺達・・・学院から来たんです」

「わかっておる。全てエルザから聞いておる」

「先生!? そうだ! 先生が! エルザ先生が僕らのせいで士師と戦うかもしれないんです!」

仙人は落ち着かせようと再び柔らかな表情で頷いた。

「わかっておる。取りあえず儂の家に来なさい。狭いがのう。温かいご飯も作っておる。そこでゆっくり話をしようじゃないかね」



                 ◇◇◇



仙人の案内の元、山の頂上へ登ると山頂にはポツンと小さな小屋が立っていた。

小屋と言っても学院への入り口として使われていた小屋よりは大きく、老人一人で暮らすには十分なモノだった。

小屋の脇には先ほどまで死闘を繰り広げた三つの首を持つ黒い暴犬がまるで小鳥のように昼寝をしている。

仙人がケルベロスの頭を撫でると目を開けて甘い声を出した。

「おい。どうなってんだ。あの恐ろしい怪物があんな腑抜けた姿になるなんて」

「・・・わかんない」




仙人は小屋の扉を開けて「さあ、入りなさい」と言った。

五人が仙人の開けた扉から小屋に入ると中には、一人の男がいた。

筋骨隆々の黒い肌を持つ男は振り返った。

「やあ、いらっしゃい。メシできているぞ」

男は台所で食事の支度をしているようだった。

「ど、どうも」

五人が入り口で突っ立っていると部屋の隅から聞きなれた声が聞こえた。

「遅かったなぁ。お前ら。鍛え方が足りなかったか?」

声のする方を五人が見ると、そこにはご飯をかきこむテピベラがいた。

「テピベラ!? なにやってんの!? どうしてここに?」

「あん? どうしてもなにもずっとお前たちと一緒にいたが?」

「ええ!?いたの!! ずっとぉ!?」

「たくっ。俺の気配に気づけないなんてまだまだだな」



微笑みながら仙人が椅子に座った。

「ほほほ。さて食事にしよう。そこへ座りなさい」

五人は台所の前にあるテーブルの席についた。

食事の支度をしていた黒い肌の男はテーブルの上に料理を並べ始めた。

仙人は男から取り皿を受け取って五人に配った。

「自己紹介せい」

男は手を止めて五人に向きなおった。

「俺の名前はカシアス・ペルニー。リウさんの弟子としてここで一緒に住んでいる」

「よろしくお願いします」

そう五人が返すと仙人が言う。

「カシアスには君等のことは説明してある。明日から頼むぞ」

「はい! 師匠! お前ら、今日は休め。だが明日からはビシバシしくぞ!」

(ビシバシ?)

五人は訳も分からず、だが元気だけは良い返事をした。



                ◇◇◇



五人と仙人、カシアスは食事をとった。

五人は久しぶりのまともな温かい食事に喜びを隠せなかった。

ガッツくように食べ、仙人とカシアスはそれを微笑みながら見ていた。

食事が終わると、カシアスはケルベロスへデザートを届けに小屋を出た。



五人と仙人でテーブルを囲いながら話を始めた。

「改めて自己紹介をさせてもらう。儂はエルザの祖父リウ・ジンロンだ」

仙人は一息間をおいて再び話し出す。

「まずは、謝らなければならないな。さっきのケルベルスとのことじゃ。既に察していると思うが、儂がケルベロスに君等を襲うように命令したのだ。君等の実力を試すためとはいえ、怖い目に合わせてしまったことは申し訳ない。しかし、どうだったかのう。怪物との戦闘は? 手応えはあったかい?」



オリオンは応える。

「まるで通用した気がしません。正直、死を覚悟しました」

アネッテは俯きながら言う。

「私の攻撃まったく効いていなかった。なんの役にも立てなかった」

五人の反応は仙人にとって意外な反応だった。

子どもが怪物と戦って生き残ったのだ。大口を叩いてもいいものだ。

五人の反応が彼らの強さへの渇望と意識への高さから来るものだと仙人は思った。

「いやぁ、すまない。意地悪な質問になってしまったのう。手加減していたとはいえ、十二歳の子どもが大した怪我もなくケルベロスを追い込んだんだ。誇りなさい」

「やっぱ本気じゃなかったんですね」

「もちろん。十分の一程度かのう」

「あれで!十分の一!?」

「それでも子どもが勝てるような強さじゃない。それに効いていなかったのはアネッテだけじゃない。のうガブリエル」



ガブリエルは拳を強く握る。

「そうだ。俺の魔法の効力が十分に発揮されなかった」

サレンとレンダが続く。

「アタシも本当だったら一発目の攻撃で倒せる算段だったのに!」

「毒を敵の体内に送る手段が足りない。毒の強さも」

オリオンは仙人に言う。

「俺の全力の引力は通用したんですかね」

「怪物にも色々いるが、ケルベロスの動きを止めるには、ちと力か足りないのう」

「そうですか」

「だが、やはり一番警戒しておったのはオリオンの引力だったと思うぞ」



ガブリエルがオリオンに言う。

「怪物すらも警戒する武器を持っているってすげぇことじゃなんか!!」

仙人は言う。

「そうじゃのう。そんなに落ち込むことでもない。ケルベロスは怪物の中でも強い方じゃ。なんせ儂が生まれるよりも更に昔にあった第二次怪物大戦の生き残りだからのう」

「いや、なんでそんな強い怪物をあんなペットを飼うように手懐けているんだよ!?」

ガブリエルの疑問にサレンも同調する。

「たしかにー。なんでなんで?」

「それはのう。儂が若かった頃に、まだ小さかったエルザの母親と訳あって世界を旅しておったんじゃ。その途中でケルベロスとバッタリ会って、儂らを喰おうとしたんじゃ」

「ええ!! やばいじゃん!! それでそれで!」

「だから儂がボコって手下にしたんじゃ。以上じゃ」

「えっ? どどどういうこと? ボコったって」

「言葉の通りじゃ。殴って大人しくさせた」

「殴ってって・・・魔法は?」

「魔法は使えんことはないがのう。儂はあまり魔法が好かん。じゃから基本儂は殴って蹴るだけじゃ」

五人は絶句した。

怪物に普通の人間の肉体的な力だけでは勝てないから魔法を使うのにも関わらず、仙人は体術だけで怪物を圧倒したというのだ。

オリオンはとんでもない人に出会ってしまったと思った。





そこまで話すと仙人は真面目な顔になる。

「君等はエルザのことを心配してたのう」

「はい。先生は一人で僕らの存在を隠し通すつもりです」

「エルザが今窮地に立ち、賭けに出ていることは本人からの報告で理解している。しかしなぁ、君等に問いたい。君等がエルザを心配したところでなんになる?」

「それは・・・」

五人は言い淀む。

「心配な気持ちは理解できる。だが、何故エルザは君等をここへ逃がしたのか」

「ここに隠すため・・・。でも、心配じゃないんですか? 先生は家族ですよね?」

「儂はもうエルザを学院に送った時点であの子の心配をすることはやめたのだ」

「何故ですか!?」

「エルザは小さな時から自分の信じた道を進む子じゃ。今更何も心配することはない。今回の選択もエルザが自ら選んだやり方だ。信じて待つのみ」

「・・・」

「君等の言い分はわかる。だがな。エルザの思いをないがしろにしないでやってくれ」

オリオンは言う。

「エルザ先生の考えを聞かせてください」

「エルザからは、ここで君等を鍛えなおすように言われておる」

五人はカシアスの言葉を思い出す。



『明日からはビシバシいくぞ!』



五人は仙人に問う。

「まさか明日からって言うのは!?」

「そうじゃ。明日から君等の修行を始める!」

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