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THE ORION  作者: 黒羽感類
Season One 学院編
51/72

出発

学院へ続く小屋の扉が開いた。

扉からはダヴィと黒いスーツを着た老人が現れた。

ダヴィが歩き出すと老人は三歩後ろを歩いた。

「私が補佐でよかったのでしょうか」

ダヴィは振り返って気さくな表情で応えた。

「しょうがないさ。城に残した仕事はブルにしか任せられない」

「それにしてもいつ以来でしょうか。学院で問題が起こるのは」

「我々の屋台骨であることは誰もが知っている。それにしては問題が少ない方だ。優秀な教師に恵まれている」

「学院長を除いては。ですね」

「また適任を見つける。それにしても予想通り、あの学院長は小心者だな。従順だから学院長のポストを用意したが、まさか真っ先に逃げるとは」

「やはり、西オビアスの人間による襲撃とお考えで?」

「無論、可能性はある。だが、学院の場所は秘匿事項だ。西の人間が純粋に導き出したとは思えない」

「つまり、内通者がいると?」

「そのつもりで教師と生徒を見ろ」

「生徒もですか!?」

「もちろんだ」






二人は学院に到着するとエルザが向かい入れた。

エルザは二人を学院長室に案内すると学院長室には学院長とクリファ、シンを除いた教師が全員揃っていた。

教師たちはダヴィに畏敬の念を示すと教師の列の間をダヴィは歩いて真ん中で立ち止まる。

エルザも列に加わる。

ダヴィは言う。

「エルザ。現状の報告を頼む」

「はい。5日前の夜、第三勢力を名乗る組織によって学院は襲撃にあいました。そのメンバーには学院教師であるシン・アガードも含まれており、私エルザ・シュウとの戦闘により死亡しました。翌日の明朝、学院教師クリファ・コールが戦闘を行った跡が発見されるも、クリファ・コールの姿は確認されませんでした」

「第三勢力というのは?」

「はい。シン・アガードによる発言です。学院教師の任に就いた当初から諜報活動を行っていたと証言しています。魔法使いとしての力量を鑑みて拘束する余地はないと判断しました」

「生徒たちは?」

「はい。学院敷地内にいたタレッド生、一年から四年は襲撃後行方不明になっています。襲撃後、指令通り、カロス及びメタリオスの教育プログラムをタレッドと同様のものとしました。しかし・・・」

「しかし?」

「しかし、その身に余るプログラムの過酷さから既に死亡者が五人出ています」

「・・・そうか。命令したのは私だ。私に責任がある。仲間を失うというのは悲しいことだ。それで、その五人の亡骸は?」

「はい。残留魔法を考慮し、火葬しました」



通常、魔法は魔法使いが死ねば消滅する。

確実に殺すことで死んでゆく魔法使いに置き土産を貰うことはない。

残留魔法とは死体が残っていれば魔法を継続する技術。

ただし、死を確信した上での魔法でないと継続はしない。

つまり、死体を消滅させれば『結果』を除いて死してなお残り続ける魔法はない。




「そうかわかった。後で墓へ案内してくれ」

「承知しました」

「よろしい。三十分後、生徒の身体検査を行う。準備をしてくれ」

教師たちは返事をして学院長室から出て行った。




学院長室にはダヴィと老人のみとなった。

老人は言う。

「シンの件、どうお考えで?」

「学院長のバックには俺がいる。だから教師たちは下手なことはできない。報告にあった通り、シンは学院に来た時既に敵側だったということ」

「では生徒たちは?」

「戦力を低下させるための誘拐だろう。まだ、学院内に内通者はいる可能性がある」

「クリファ・コールは死亡したのでしょうか」

「推薦の件の報告書を見ただろ。行方不明のクリファとエルザは学院の同期だ。何かあるかもしれない」

「エルザがですか!?」

「本来立ち入れない場所に襲撃があったんだ。疑う余地のあるものは徹底的に疑う。それに俺が思うに」

ダヴィは言う。

「エルザは嘘をついている」



      ◇◇◇



それはダヴィが学院を訪れる前の晩のことだった。

学院外へ続く小屋の前にマントをつけたオリオン、アネッテ、ガブリエル、サレン、レンダの五人がいた。

五人は暗闇に溶け込むようにフードを被っていた。

五人の前にエルザが現れると五人は駆け寄った。

「エルザ先生!!」

「あんたたち。準備はいい? 今後、学院には戻ることはできないわよ」

「エルザ先生! エルザ先生はどうするんですか?」

「私はなんとかしてダヴィを出し抜く」

「そんな! エルザ先生も一緒に逃げてください!」

ガブリエルも続く。

「そうだよ! ダヴィはこの国で二番目に強いんだ!」

エルザは応える。

「馬鹿ねぇ。私がなんとかしなければ、あんたたちがダヴィとやりあうのよ」

「でも・・・・・・」

「逃げなさい」

エルザは思う。

(クリファならきっとこうする)

エルザは五人の手を重ねて両手で包む。

「引力は繋がり。全ては『引力』で繋がっています。例え離れ離れになっても、見えない力で繋がっている」

それでも不安そうな五人をエルザは微笑みかける。

「クリファは生きている。簡単に死なない女よ」

エルザは自分が、らしくもなく確証のないことを言ったことに対して笑みをこぼす。

しかし、クリファが生きているという考えは、心からくるものだった。




彼らはまだ、子どもなのだ。

それを理解した上で兵士として教育してきた。

エルザは彼らが自分から離れていってしまうことを憂慮した。

もう管理ができない。

自分の手が届くところからいなくなってしまう。

エルザは最後に魔法使いとしてこの国を旅する上で気をつけるべきことを話した。

「教えられなかったから、一つだけ忠告をするわ。ドラゴンを見たら逃げなさい。必ず近付いては駄目よ。死なないために」

五人揃って「わかりました」と言った。



エルザはギムレットを召喚した。

「日が昇るまではこの子が案内してくれる。その後もおそらく迷うことはないと思うわ」

オリオンは小屋のドアノブに手をかける。

「さぁ! 行きなさい!」

五人は小屋に入って目的地へと歩み出した。



      ◇◇◇



小屋に入っていく五人の背中を悲観を写した眼で見つめるエルザがいた。

エルザは襲撃時、五人の首筋にある獣の刻印を見た際、自分の使命を理解した。

ダヴィにだけは見られてはいけない。と。

鋭いダヴィであれば、クリファとエルザ以外には隠蔽されている獣の刻印の存在に気付くかもしれない。

もし、ダヴィが知れば、反逆者として殺されてしまう。

エルザは思う。

(クリファ。あんたがこの五人を守っていた理由がわかったわ。あの首にある刻印。あれは国家を揺るがす大罪を犯した者に押される刻印。そして、大賢者と既に出会っているということでもある。子どもでありながら大罪人の五人がここに集められたということは、イエスタデイ、あんたの意思なんでしょ。なら、私もやり遂げる。この五人だけは繋いでみせる。私はここまでだけど、後は、頼んだわよ! おじいちゃん!)

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