襲撃③
「クリファ先生。怒っているかな」
アネッテが不安そうに言うとガブリエルが「それよりよぉ。また、エルザ先生とかにこの火事を俺らのせいにされるんじゃないか?」と言った。
「いや、それはないと思うよ。半透明の魔物や学外の魔法使いが攻めてきてるんだし、先生たちも状況をある程度は把握しているんじゃないかな」
「アタシもそう思う~!!!」
「サレン。本当に考えてた?」
五人がそう言ってアルガリドと戦闘を行った場所から立ち去ろうと走り出した時、五人を呼び止める声がした。
五人が立ち止まり振り返ると、そこにはシン・アガードが立っていた。
学院で魔法人体学の研究をしている教師であり、オリオンたちに引力の授業をした。
その柔らかな口調から五人が頼って相談をしたこともある。
五人はシンの姿を認めると安心感が湧いてでてきた。
「シン先生!!」
五人はシンのもとへと駆け寄った。
「何故、ここにいるんですか?」
「クリファ先生から五人がいないと言われてね。手分けして探していたんだよ」
「そうだったんですか。よかった」
レンダは言う。
「それより先生!! 魔法使いが攻めてきています!! 早く学院に戻らないと!!」
「そのようですね。道中はワタシが守ります。急ぎましょう」
そう言って五人が学院に向かうためにシンに背を向けたその時。
シンは言った。
「な~んちゃってね☆」
五人はシンの出す殺気に一瞬その場に固まってしまった。
五人の背後でシンは巨大なスライムのような化け物を出現させた。
シンはスライムの上に乗って命令を下した。
「ヤレ」
スライムは首だけを振り返させる五人へ向かって触手を振り下ろした。
その瞬間またも聞き覚えのある声が聞こえる。
「テキーラ・ショット!!」
触手は突如飛んできた炎の弾丸によって弾かれる。
「あんた達!! 無事!!」
そう言って現れたのはエルザ・シュウだった。
予想外の登場に五人は困惑したが、オリオンは「無事です!」と答えた。
エルザはシンから五人を庇うように五人の前に立った。
エルザは横目で五人を見た。
「怪我しているじゃない!! 何があったの!?」
「士師のアルガリドが犯人でした!!」
エルザはシンの後ろで植物に絡まれているアルガリドを見る。
(どういうこと!? 士師が襲撃の犯人?)
困惑したがエルザは思う。
(どちらにしろ。この男に聞くしかないようね)
エルザは言う。
「あんた達は学院に戻りなさい」
エルザは「ギムレット」と呪文を唱えると羽を生やした子どもの形をした炎を出現させた。
ギムレットは緑色の炎でできていた。
「ギムレットについて行きなさい。学院まで護衛してくれます」
「でも!! 先生は!! 俺達も援護します!!」
「馬鹿言うんじゃないわよ!! あんた達なんかに任せられるわけないでしょ!! 邪魔だからさっさと行きなさい!!」
オリオンは気付く。
(俺達は足手まといだ。俺達がいたらきっと全力で戦えない)
オリオンはギムレットに近寄る。
「おい。オリオン!」
「行こう! 先生なら大丈夫! それにクリファ先生が待っている!!」
その言葉に四人は納得してギムレットについて走り出した。
エルザは五人が見えなくなるまで、視線を送った。
そして、その目はあるモノを捉えた。
それは、五人の首筋に刻まれた獣の刻印だった。
エルザは図らずも五人に刻まれた獣の刻印の二人目の目撃者となった。
エルザは激しく動揺したが現在の状況を考慮し、気持ちを切り替えた。
「さて、説明してもらおうじゃないの!! あんた達は何者?」
「ふっふっふ。ワタシ達ですか? ワタシ達はねぇ・・・第三勢力ですよ!!」
「第三勢力!?」
「ええ。ウロボロスのような子どものお遊びではありません。本気でこの国を乗っ取るために組織された、第三の戦争勢力!!」
「本気で言ってんの?」
「だから本気と言っているでしょう。わざわざ学院にスパイとして潜り込んで襲撃の時を待っていたんですから」
「目的は? 何のためにするのよ!!」
「この国の神話と魔法体系を我々の所有物にするのです。ある人は力のために、ある人は名誉のために、そしてまたある人は復讐のために!!」」
「もしかして!! オークが脱走したのも!!」
「ええ。ワタシがやりました。あの五人がオークを止めるのは予想外でしたが、そのおかげで教師たちの注意が逸れました」
「あの時、あんたらの仲間が進入したのね!!」
「そうです。ワタシが十年かけて作り上げたまやかしの穴をついてね」
「いつから第三勢力に?」
「生まれた時からです」
シンは続ける。
「十年間の成果はこれだけではありませんよ」
◇◇◇
オリオン達五人はギムレットの案内によって学院に辿り着いた。
途中危険なことはなく、最短で着くことが出来た。
「エルザ先生は大丈夫かな」
「大丈夫っしょ。タレッドの担任だしぃ」
「そうそう。口だけは達者なんてことはないだろ」
「・・・そうだね」
五人が学院に入るとギムレットはその場に止まった。
「ギムレット。ありがとう」
そうオリオンが言うとギムレットの炎は段々と小さくなりやがて消えていった。
◇◇◇
シンは言う。
「無駄です無駄です」
エルザが放つ炎は悉く、シンの乗る化け物に消火されてしまう。
(あのスライムみたいな化け物。おそらくシンの魔法は膜を作ること。あの膜で水を取り込んで私の炎を消火している)
「ワタシはねぇ。学院に潜り込んで襲撃の時期や学院の場所、教師の魔法を調べ上げたんです。もちろんエルザ先生の魔法もね」
「対策は万全ってことね」
「その通り。あなたのレベルなら炎を自由な形にして放つことはできるはず。しかし、それを行わないのは魔法を型に落とし込むことで瞬時に安定した魔法を放つためです。そしてワタシはあなたが使う炎魔法の型を全て知っています。先ほど出したマルガリータはあなたが放つ最大の火力を誇る魔法。しかし、その程度ではワタシに敵いません」
炎の体を持つワニであるマルガリータは、シンの化け物によって体の半分以上を消火されていた。
「膜に包まれた水の供給元は、まやかしの森に流れる川の水です。尽きることはありません。あなたは海の上に火の粉を落としているに過ぎないのです」
「よく勉強しているじゃない」
エルザあらゆる手を使って攻撃を与えようとしたがシンには届かなった。
(こんな奴に苦戦するなんてね)
しかし、その瞬間オリオン達が学院に到着したのをギムレットの帰還により知る。
「ふっ」
エルザの僅かな微笑みをシンは気にいらなかった。
「なんです? 降参ですか?」
「いいえ。準備が整っただけよ」
「は?」
「あなた。私の魔法をよく調べたみたいだけど、これは知っているの?」
そう言ってエルザはギムレットを召喚した。
それを見たシンは馬鹿にするような口調で言う。
「ギムレット? 効きません効きません。それはあなたの魔法の中で最も火力が低いでしょう」
「あら勉強不足じゃないの」
ギムレットは段々と大きくなる。
子どもの容姿をしていたが大きくなるにつれてその見た目は大人になっていった。
「なんですかそれは!?」
するとギムレットは大きな口を開けて、そこに大きな炎の弾丸を作り始めた。
シンは焦った。
十年間の調査でこんな技は一度も見ていなかった。
「その反応。やはり初見のようね」
「あっあっ」
「それもそのはず。この技を見た者は全員、灰になってるのだから」
「や、やめなさい!! いくらなんでもその規模の炎じゃあ、森が火事になりますよ!!」
「大丈夫安心して」
「だ、駄目です!! 駄目です!!」
「さようなら。シン先生」
エルザは言う。
「ギムレット:バースト!!!! 灼獄砲!!!!!!!」
ギムレットの口から炎の弾丸が放たれた。
膜の化け物は体内の水を解放するが全く効果なく、シン諸共灰となった。
炎の弾丸はシンと膜の化け物、アルガリドを飲み込んた後、そのまま消滅し、無傷の自然だけが残った。
エルザは言う。
「安心しなさい。炎使いは火事なんて起こさないから」




