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THE ORION  作者: 黒羽感類
Season One 学院編
45/72

クリファと学院

あの五人は何故、寮にいなかったのだろうか。

何故いつも事件に巻き込まれるのだろう。

クリファはあの獣の刻印を押された五人の生徒が普通の人生を送れないと悟っていた。

周りのみんなと同じになれなかった五人を思いながら、クリファは自分がウロボロスだった頃を思い出していた。





クリファが学院の一年生の時だった。

裕福な家庭で育ったクリファはタレッドの生徒として学院に入った。

クリファは誰にでも優しく知性もあったため生徒や教師たちから好かれていた。

だが、クリファが最も心を許していたのは同じクラスのエルザ・シュウという女の子だった。

エルザは本当の両親を知らず、決して裕福な家庭でもない。

それなのに、勤勉さとセンスで入学テストを突破してタレッドに振り分けられていた。

クリファは彼女の魔法への貪欲さに心を惹かれて親友として接していた。

一方のエルザは、孤独を愛していたためにクリファの積極的なコミュニケーションに不愛想に返していた。

それでも二人はクリファの人柄と知性とエルザの勤勉さとセンスで一年のトップを争うライバルとして学院では知らない人はいないくらいの名コンビとなっていた。

ある日、エルザが言った「どうせ戦争でみんな死ぬ」という言葉にクリファは激昂したことがあった。

クリファは「戦争は死に場所じゃない」や「生きるために戦うの」や「生きるための魔法よ」などと意見した。

エルザは「相手をできるだけ多く殺した後に死ぬんだよ。アンタも戦地へ行ったら人を殺すんでしょ」と意見を変えなかった。

その日から二人は関わることがなくなった。






二人が関わることをやめて一ヶ月が経った頃、クリファに訃報が舞い込んだ。

クリファの父が死んだのだった。

クリファの父は学院の副学院長を担っていた。

この年は、学院から派遣され、戦地で学院六年生の指導をしていた。

後方支援の部隊であったが、戦地であることは変わりなかった。

生徒たちの命を優先した行動の結果クリファの父は命を落とした。

悲しみの中、クリファは父を誇りに思った。

生徒のために身体をはった父を。

しかし、別の考えが頭から離れなかった。

戦争が父を殺したんだ。

父も学院の教師である以上、戦争の駒だ。

それはわかっている。

それでも父の死を許すことが出来なかった。






そんな時だった。

クリファが倉庫の掃除をしているとある羊皮紙を見つけたのは。

羊皮紙には、うねうねとした長い棒の中に沢山の丸が書かれており、その丸の中には時折、文字が一文字ずつ書かれていた。

クリファの頭脳であれば、解読するのは簡単だった。

そこには『破壊と再生』『地下』『儀式』と書かれていた。

クリファが羊皮紙を眺めていると倉庫の扉が突然開いた。

クリファが振り返ると扉のところに上級生らしき女の子が驚いた表情で立っていた。

女の子は早歩きでクリファに近付いて、持っていた羊皮紙を奪って言った。

「見た?」

急なことで緊張したクリファは「・・・見た」とだけ答えた。

「どうだった?」

クリファはその問いの意図がすぐにわかった。

丸の中に書かれていた文字の意味を解読できたかということだった。

クリファは静かに頷いた。






女の子の名はペトラといった。

ペトラはクリファをある部屋に案内した。

その部屋には四人の上級生がいた。

三人の男の子と一人の女の子だ。

ペトラは四人をクリファに紹介した後、語りだした。

「私たちはね、ウロボロスという秘密結社なの。戦争を本気で終わらせたい。その気持ちだけで組織されたんだ。あの羊皮紙も戦争に対して疑念を抱いている人にしか見つからないように魔法をかけてあるの」

ウロボロスのリーダーであるメルクーリは言う。

「クリファちゃん。君が戦争を終わらせたい理由を教えてよ」

クリファは、はじめは警戒していたが、五人の真摯な視線に感銘を受けて素直に答えた。

「先日、戦争で父が死にました」

その言葉に五人が反応する。

クリファの父が学院の副学院長だということは学院のトップの教師以外は知らせれていない。

クリファは特別視されることを拒み、父もまた特別視する気はなかったからだ。

五人は察したのだ。二人の関係性を。

クリファは続ける。

「父も私も兵士です。戦地で死ぬことはしょうがないと言えます。しかし、私はどうしても父が死んだことが許せなかった。父が死んだから戦争を恨んでいるわけではありません。ただ、父は死ぬべきではなかった。父は生徒からも教師からも戦地にいる兵士からも慕われていたんです。そんな人が死ぬのは間違っているんです。だから、戦争を終わらせるんです。これ以上真っ当な人間が、ただの普通の人が戦争で死なないために」

五人のクリファを見る目が憐みで溢れていた。

クリファはその向けられた感情の意味がその時はわからなかった。

五人はクリファを囲った。

「ありがとう。思いを曝け出してくれて。一緒に戦争を終わらせよう」

打ち解けた五人とクリファは毎日授業が終わると集まり、作戦会議を行った。

クリファにとって喜ばしいことにこの五人は魔法に対して貪欲で魔法に関する多くの知識をクリファに与えた。

次第にクリファは組織とは関係なく五人と接することが増えた。

そして、戦争を終わらせるための本格的な作戦が練られた。

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