参戦
そこにはオリオンが立っていた。
「お前か。一体どうやった。俺の動きを止めた方法を教えろ!」
オリオンは素直に答えた。
「別に。何も特別なことはしていないよ。ただの引力だ」
その言葉にアルガリドは驚愕した。
(はぁ!? 引力? そんなのありえるわけがない。高度な引力操作でも説明がつかねぇ!! しかも学院の生徒だぞ。メタリオスの。そんな奴がこの俺の動きを完全に封じる程の引力を放てるわけがねぇ)
「アルガリドだっけ? あんた戦いたいんだろ。俺とやろうよ」
オリオンのさっきとは違う覚悟の決まった顔にアルガリドは更に殺意を強くする。
「ガキが。言うじゃねぇか」
オリオンの他に誰も来ていないのを目視で確認したアルガリド。
(何か仕込んできたか? まだ他の二人も来ていないみたいだしな。いいぜ。乗ってやる)
アルガリドが胸ポケットに手を入れたのを見てオリオンは両手をアルガリドに向ける。
(さっきのが本当に引力か試してみるか)
カードをオリオンへ向けて呪文を唱える。
「ネロティグリス」
カードから水の虎が飛び出してオリオンに襲い掛かる。
オリオンは左手だけを虎に向ける。
すると、水の体を持つ虎は動きを止めた。
(マジで引力かよ!!)
オリオンは左手を動かすと水の虎は動きを止めたままアルガリドに向かっていく。
(反発か!!)
元々のスピードよりも速く、戻って来る虎をアルガリドは間一髪で避ける。
水の虎は木に当たって形を崩し、ただの水となって地面に落ちる。
(引力操作でここまでやる奴を俺は見たことがない。オヤジやボスですらこんな引力を持っていない)
アルガリドはオリオンから距離を取った。
それを見てオリオンはアネッテとガブリエルの無事を確かめる。
「大丈夫?」
「うん。ガブリエルは気絶しているだけ。それより聞いて。あいつの魔法のこと」
アネッテは戦いの中で掴んだことを話し始める。
「あいつの体を包む魔力の壁が問題なの。それを剥がさないとダメージを与えられない。それにさっき大技を使う時に見えたんだ。あいつカードを使用する時魔力の壁を消費することで発動している。たぶんあらかじめ魔力を体に纏っておくことで魔力を練る時間を無くして魔法の発動時間を短縮している」
「なるほど。壁は厄介だけど、魔法を使わせれば剥がすことができるんだね」
「そう。あいつに時間を与えると壁を修復されるかもしれない。私たちのことはほって行って!!」
「わかった! じゃあ、後で!!」
オリオンは三人と距離を取ったアルガリドのもとへ行く。
「お前、名前はなんだ」
「オリオン」
「オリオン。お前は将来優秀な魔法使いになるかもしれない」
「・・・」
「だが、今ここで俺はお前を殺さなければいけない。それがお前に出会ってしまった俺の使命なんだ」
「そうか」
「誰もお前を制御できない。お前自身もだ」
「もういい」
「そうだな」
アルガリドはカードを取り出し言う。
「フィシアイードリア」
すると、大きな壺が現れた。
「もう一つ。プミリオ」
アルガリドが追加で出したカードからは小人が飛び出し、アルガリドの軍服の内側へ入った。
更に、小人を排出したカードからは光が飛び出し、大きな壺へと吸収されていった。
「本気でやろう」
「こっちは初めからそのつもりだ」
アルガリドは光の矢を複数放ち、オリオンを襲う。
走り出したオリオンは引力を使うことなく、矢を避けたつもりだったが矢はオリオンの背後を飛んでいた。
(追尾の矢か!!)
矢から距離を取ろうとしているとアルガリドは水の虎を出す。
挟み撃ちにされたオリオンは右手で水の虎を左手で追尾の矢の動きを止めた。
「俺もいるぜ!!」
オリオンは虎と矢をアルガリドへぶつけようと操作するがアルガリドの速さに間に合わない。
アルガリドの右足がオリオンの腹部に食い込む。
「がはぁっ!!!」
虎と矢はお互いぶつかり、消滅する。
アルガリドは攻撃をやめない。
「イグニススフェラ」
ガブリエルを戦闘不能に追い込んだ火の弾がオリオンを襲う。
オリオンはそれを引力で止め、反発で返す。
アルガリドもそれを読んでおり、オリオンが反発を始める前に次の火の弾を発射し、オリオンに近付く。
オリオンはもう一つの火の弾に手を向けるが引力は使わずそのまま火の弾を迎えようとしていた。
(何をするつもりだ!?)
アルガリドはそのままオリオンに攻撃を加えようとする。
目の前に来た火の弾をオリオンはギリギリのところで引力を使って止めて炎を体に纏うようにして、アルガリドの蹴りを受けようとした。
しかし、アルガリドは自分の炎に焼かれまいと瞬時にオリオンから距離を取る。
それを見たオリオンは反発によって火の弾をアルガリドへ返す。
アルガリドは水の壁を作ってそれを防いだ。
アルガリドが水の壁を作るとカードから光が出てきて、壺へ吸収されていった。
(まただ、あの水の虎や追尾の矢、火の弾、水の壁とカードを使うとカードから発せられた光が壺に吸収されていく。何かを溜めているのか?)
「やるねぇ。これはどうだ。スレイシング」
瞬間、オリオンの体に切り傷が入る。
傷口から血が垂れる。
「斬撃か」
しかし、オリオンに降りかかったのはそれだけではなかった。
オリオンの背後からゴゴゴと音がなる。
振り向くと木がオリオンへ向かって倒れようとしていた。
オリオンは転がって間一髪のところで避ける。
「オリオン。お前の引力は凄まじい。だがな、引力操作の未熟さが足を引っ張っている。だから俺に攻撃を当てられないんだ」
(そんなのわかっている。あと一つ。足りないんだ。引力操作とは何か。その自分なりの答えが)
「おそらく。これで終わる。ネロラチェルタ」
三体の翼の生えたトカゲが現れ、オリオンを見下ろした。