第五士師
熱い抱擁を交わした三人は立ち上がった。
「どうしてここへ?」
「騒ぎがあって寮から避難することになったんだ。でもガブリエルがオリオンがいないことに気がついて、それならまやかしの森以外ありえないだろうと」
「そうかありがとう」
三人で話していると草陰からガブリエルとアネッテが合流する。
「オリオン! よかった無事だったか!」
無事を喜ぶガブリエル達とは逆にオリオンの表情がすくれないことにアネッテは気づいた。
「オリオン! 何があったの?」
オリオンは先刻までお互い励まし合っていた友人について話した。
「嘘でしょ」
「ライトってあの研究室であったヤツだよな」
「テピベラが言っていた通り、何か陰謀めいている」
「みんな! 取り敢えず学院に戻ろう!」
そう言って五人が学院に向かって足を踏み出そうとした瞬間、背後に邪悪な気配を感じた。
魔物とは違う邪悪さ。
人間の持つ支配欲からくる邪悪さ。
間違いなくこの侵攻はこの人間によるものだと確信ができた。
それにいち早く反応したのはアネッテだった。
「なに!?」
アネッテが振り返り、遅れて四人も振り返る。
そこには東オビアスでも西オビアスのものでもない軍服を着た若い男が立っていた。
「なんだお前ら学院の生徒か?」
男は五人を見るなり、微笑みながらそう話しかけた。
だが、五人はその微笑みに薄気味悪さを感じ、表情を強張らせた。
「あなたは誰ですか?」
レンダのその言葉に大げさに驚いた態度を取りながら男は言う。
「あん? おいおいおいおい!! マジか! 学院の生徒のくせに俺のこと知らねぇの!?」
星の明かりに照らされて全貌が露わになった男の顔を見て、五人の中で唯一アネッテが動揺した。
それを感じ取ったオリオン。
「どうした? アネッテ」
「・・・この人知っている」
「え?」
男は試すような表情でアネッテを見る。
「東オビアス国第五士師アルガリド・アーリマン・・・だよ」
「第五士師って」
「うん。魔王を除いて東オビアスで五番目に強い魔法使い」
男はまたも不気味な表情を浮かべた。
「正解!! 話のわかりそうな奴いんじゃん。で、お前らのクラスは?」
「・・・メタリオスです」
「メタリオス・・・あー・・・」
その言葉を聞いてアルガリドはあからさまに興味をなくしたような表情になった。
「お前らもう行って良し」
「!?」
アルガリドの顔から笑みは消えており、冷徹な目が向けられるだけだった。
「お前らみたいな盾にもならん雑魚に用ねぇーわ」
「どういう意味ですか」
「そのまんまよ。消えろ穀潰し共!!」
「なに!!」
ガブリエルが激昂してアルガリドに立ち向かおうとするがレンダに引き留められる。
「ガブリエル。何をする気だ!」
「あいつをぶん殴るんだよ! 士師かどうかなんて関係ねぇ!!」
「そんなことをしたら問題になる」
アルガリドを睨むガブリエル。
アルガリドは言う。
「やるんなら来いよ。お前ら低クラスは殺してもいいって指令がでている」
「指令?」
「お前らが知る必要はない」
アルガリドは突如五人の視界から消えたかと思うと、気付けばガブリエルの腹に拳をねじ込ませていた。
ガブリエルを抑えていたレンダも一緒に木に打ち付けられる。
「ガブリエル!! レンダ!!」
「まだ死んでねぇから安心しな」
アネッテは剣を取り、構える。
「許さない!!」
オリオンとサレンはガブリエルとレンダに肩を貸して起き上がらせた。
「駄目だアネッテ! ここは逃げるぞ!!」
オリオンがそう言うと、アネッテは剣に炎を纏わせた。
「やるのか」
アネッテは剣を地面に刺して叫ぶ。
「煙造雨!!!」
すると刃から大量の煙が噴出し、アルガリドを包み込んでいく。
煙が五人とアルガリドを分断した。
「よし!! 成功!!」
アネッテは踵を返して、五人で学院に向かって走り出した。
煙が晴れてアルガリドの姿が現れる。
顔には笑みを浮かべていた。
「少し遊んでやるか!」
アルガリドは五人を追って走り出した。




