襲撃①
いつかこんな日が来るとは思っていた。
戦争を行っている国だ。
いくら戦地とそれ以外を線引きしているとはいえ、絶対なんてありえない。
いずれ、兵士の教育機関である学院を攻撃してくることはわかっていた。
クリファはメタリオスの生徒を寮から避難場所まで誘導する。
学院建物の外は火の海だ。
その上、今まで見たことのない半透明の魔物の大群がうろついている。
(子どもたちを守らなければ)
クリファと生徒は他のクラスの生徒と教師が集まる広間に入った。
すぐさま、クリファは一年メタリオスの生徒の数を数えた。
そして気付く。
(五人足りない!)
その五人が誰なのかクリファは考える時間を必要としなかった。
ここ数日毎日、他の生徒や教師の目を避けて特別授業を行っているあの五人だ。
(なんで、寮の時点で気付かなかったのかしら!)
クリファは広間を見渡した。
やはり、ここにいない。
(あの子達。どこに行ったの!)
すると焦るクリファの名を呼ぶ者がいた。
「クリファ!」
クリファがその声の方を向くと、そこにはエルザ・シュウがいた。
「クリファ! 生徒が足らないの?」
「ええ。五人」
「五人・・・って。まさかあの!?」
「そう」
クリファの表情を見て、エルザの頬に汗が垂れる。
エルザは言う。
「わかった。ここにいる生徒は私に任せなさい! アンタはあの五人を見つけに行くのよ!!」
「エルザ・・・」
「早く行きなさい! 絶対に死なせるんじゃないわよ!」
エルザの言葉にクリファは冷静さを取り戻した。
「わかりました。生徒を頼みます」
クリファは、まやかしの森に走り出した。
学院建物を出ると先ほど確認した時より、森は火よりも魔物によって被害を受けていた。
(魔物によって火事が起きている。これ以上火を広げていけない)
クリファが森の前でその有様に呆然としていると右肩に誰かの手が乗った。
すぐさまクリファは手を振り払い背後にいるであろう人物と距離を取った。
その人物を見たクリファは目を疑った。
「・・・・・・イエスタデイ」
そこにはこの場所にいるはずのない大賢者が立っていた。
「どうしてアナタが・・・」
「その話はまた今度にしよう。魔物と火はワタシに任せないさい。君は子ども達を」
クリファはエルザに託されたことを思い出した。
「はい!!」
クリファは再び、五人の生徒の捜索に向かった。
一人になったイエスタデイは腰を下ろして両手を地面につけた。
「円環の走者 御礼 羊 庭 卵 鉛 右足 太陽 神話に永久を」
するとイエスタデイの両手が光った。
イエスタデイは立ち上がり、両手を天に向けた。
両手の光は球体となって両手から離れていき、暗い夜空に登り始めた。
光る球体が上昇をやめると、更に光が強くなった。
光はまやかしの森全体を照らした。
その光は森や大地や川のみにとどまらず、森をうろつく魔物までも照らした。
光で照らされた魔物たちは悲鳴を上げながら消滅していった。
そして、森の自然達は逆に生き生きとして木は成長して川にある水のマナは火事の火を消していった。
イエスタデイはその顛末を見ると「ふう。疲れた。クソしてもう一眠りするかぁ」と言って学院建物内へ消えていった。




