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THE ORION  作者: 黒羽感類
Season One 学院編
37/72

夜話

オリオンは自分の部屋のベッドの上で横になっていた。

連日行っているクリファによる特別授業の影響で疲れがたまっていたのだ。

(少しずつだけど確実に引力をコントロールできている。でも、後一歩何かが足りない)

そう思いにふけているとコツンコツンと窓に何かが当たる音がした。

その音の原因に心当たりのあるオリオンは窓から外を見た。

寮の外にライトが立って手を振っている。

オリオンは直ぐに部屋を出てライトのもとへと向かった。





寮の出入り口に行くとライトが待っていた。

オリオンはライトのもとへ走って寄った。

「やあ! オリオン」

「ライト!」

「一緒に星を見ないかい」

「星か、いいね。行こう!」

二人は星の良く見える丘へと登った。

生い茂る草の上に各々好きなように座ったり寝転んだりして星を眺めた。






しばらく星空を眺めて感想を言い合ったり、星の数を数えようとしたりと戯れていた二人は、その後、星の光だけが照らす丘の上で静かに天体観測をした。

ライトが口を開く。

「どう? 魔法の授業は」

「うん。毎日大変だけど着実に力をつけているのが実感できるよ」

「引力操作。うまくできそう?」

「確実に入学前とは違う。でも正直まだ、不安はあるよ」

「そっか。ねぇ、もしかして自分が引力を出すことで被害が出るって思っている?」

「・・・うん。正直。仲間を巻き込んだり、直接でなくても誰かに影響を及ぼしてしまうんじゃないかって」

「エルザ先生が言ってたんだ。人を助けるために魔法を使いなさいって。オリオンは優しい。君の魔法は人を助けることができるよ」

「ありがとう」

「それにね。これも先生が言っていたんだけど、若い魔法使いはオリジナル魔法に気を取られがちだけど、重要なのは引力操作の技術なんだって。引力操作があるから魔力が練れるわけだし、その基礎を疎かにしてはいけないって。オリジナル魔法にばかりこだわるのは魔法使いとして成熟していない証だってさ」

(確かに。クリファ先生も毎日引力操作の基礎練習をやり遂げないと魔法開発には進ませてもらえないってガブリエルが言っていたな)

「オリオン。君が受けている苦悩は必ず、実を結ぶよ!」

「ライト。君は良い奴だ」

「え!? そう? はは。嬉しいなぁ」

ライトは照れながら頭をかいた。






「ライトはどう? タレッドはレベルが高くて大変じゃない?」

「そうだね。小難しいことをやっているのは確かだよ」

「小難しい?」

「うん。タレッドの生徒が光と闇を含めた基本五属性を扱えるのは知っているね」

「知っているよ。そもそも光と闇を扱えるようになるのって難しいんでしょ。一年で扱えるなんてやっぱ才能だよね」

「ううん。違うんだ。才能なんかじゃない」

「どうして?」

「何度もエルザ先生の言葉を出して申し訳ないけれど、エルザ先生が言うには『上位クラスと下位クラスでは潜在能力の違いはない』んだ」

「ええ! 俺なんてまともに引力も扱えなかったのに!」

「ボクが魔法を使えるのは、偶々生まれが良くて英才教育を受けてきたからだけなんだ。親や環境のおかげ」

「そうなの」

「例え今は引力しか使えなくても、君は直ぐにボクを追い越すと思うよ」

「それはどうかな。でもさぁ、ライトが魔法を身につけられたのはライト自身の努力でしょ。確かに環境に恵まれていたかもしれないけれど、それを生かせるかどうかは結局その人自身だと思うんだ。やっぱりライトはすごいよ! 同じ学院生徒として尊敬できる!」

「ありがとう」

ライトの表情が星の光のように明るく輝いたのをオリオンは見た。






(とは言っても、早くライトのレベルに追いつきたいな)

オリオンがライトの横顔に尊敬の眼差しを向けていたその時。

急にライトが立ち上がった。

ライトの表情には焦りが見えた。

「オリオン」

「何?」

「オリオン・・・」

「どうしたの?」

ライトの急変に不安が湧き上がるオリオン。

「大変だオリオン! 襲撃だ!」

ライトがそう言ってまやかしの森の奥の方を指さした。

オリオンは立ちあがって森の奥を見た。

そこには悲鳴を上げるように煙が立ち昇るまやかしの森の姿があった。

「火事だ! まやかしの森に誰かが火を点けたんだ!」

「誰かって誰!?」

「わからない。でもここは未来の兵士を育てる場所。いつどこから誰かが隠されているこの場所をつきとめて、襲撃をしてきてもおかしくない!」

更に大きくなった火の波が森を飲み込もうとする中、森の中を歩く物体がオリオンの視界に入る。

「ライト! あれを見て!」

火よりも前を行き、森から学院に向かって進むそれは、半透明の魔物たちだった。

「なんだあれ!? あんな魔物見たことがない!」

「それよりあんな大群が攻めてきたら大変だ!!」

「うん。早く先生たちに知らせなきゃ!!」

そう言ってオリオンとライトが学院に向かって走り出した時だった。

大地が揺れ始めた。

「地震!?」

余りの揺れの強さに二人は倒れそうになる。

「オリオン!!」

ライトはオリオンに手を伸ばした。

オリオンはライトの手を掴もうとしたが、後ろに倒れてしまった。

「大丈夫かいオリオン?」

ライトは姿勢を低く保ちながら少し離れてしまったオリオンに近付こうとした。

「待って。ライト。大丈夫」

オリオンの言葉にライトは気付いた。

揺れが段々と緩やかになっていっていることに。

そして揺れは直ぐに収まった。

「よかった」

安心したライトが再びオリオンに駆け寄ろうとしたその瞬間。

地面がゴゴゴゴゴゴと轟音を立てたと思うと、ライトの足元に亀裂が走った。

「ライト!!」

「うわぁ!!」

亀裂は瞬く間に開いていき、大きな暗闇が口を開けた。

「ライト!! 掴まれぇ!!」

オリオンは亀裂に近付いてライトに手を伸ばした。

しかし、暗闇に吸い込まれ始めたライトも手を伸ばすが届かない。

(引力だ!! こういう時にこそ引力を使うんだ!!)

オリオンは出せるだけの引力をライトへ向かって出した。

後のことは何も考えなくていい。

ただ、ライトを引っ張ることができれば。

しかし、オリオンのその思いは実を結ばなかった。

(なんで? なんで全力の引力を出しているのにライトは落ちて行くの?)

「ライト! ライトォ!! ライトォ!!!」

オリオンがイレギュラーなその強力な引力を開放し、友人の名を叫んでいるまさにその時、オリオンは僅かに見えたのだった。

地面にできた底が見えぬ暗闇の穴の奥に、こちらをじっと見つめる巨大な目ん玉を。

そして、ライトはその目ん玉に吸い込まれるように落下して行き、やがて姿が見えなくなった。

「ライトォ!!!!」

オリオンが暗闇の中へ乗り出して手を伸ばす。

オリオンの手は空を切るだけだった。

「ちくしょ!!」

オリオンは更に身を乗り出して、穴の中に入って行こうとする。

だが、オリオンの体が穴とは逆に地面に戻されているのに気付いた。

オリオンは穴から顔を出して、周りを見た。

そこには二人の学生が立っていた。

「・・・レンダ・・・サレン」

「オリオン!! 大丈夫か!!!!」

レンダとサレンがオリオンを抱きしめた。

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