オリジナル魔法
「よっ!!」
突然聞こえた声にレンダとサレンは驚いた。
しかし、その声の主がテピベラであると知ると「驚かすなよ」と二人は軽口をたたいた。
「テピベラっち急に現れてどうしたの? てか今までどこ行ってたの?」
「いやいや。お前らが学院の教師とくっついているから中々接触できなかったんだよ」
「ふ~ん」
「それより、あの女教師はいないよな」
「いないよ。今はガブリエルの指導をしているからね」
「そうか。よかった」
「で、テピベラっちは何にしに来たの?」
「おお。それはお前らにアドバイスをしようと思ってな」
「アドバイス?」
「おう! なんやかんやあって、試練の続きができそうにないからな。それなら師匠としてアドバイスの一つや二つしなきゃってもんだ」
「意外とテピベラっちって弟子思いなんだね」
サレンの言葉にレンダも乗る。
「確かに。もっと薄情なのかと思ってた」
「おいおい。マジかよ。俺ほど弟子思いな師匠はいねぇぞ」
「ちなみに聞くけどオークの件、本当にテピベラが仕組んだことじゃないんだよね」
「マジで俺じゃねぇ。つーかそれについてはまたキナ臭くてな」
「なに? キナ臭いって」
「どうも陰謀論じみているというか」
「どこが?」
「俺にも詳しくはわからん。だが、お前らも気をつけろよ」
「わかった」
それ以上テピベラは話そうとしなかったが、陰謀論という言葉にレンダはウロボロスの一件について思い出した。
オークの件にウロボロス、エルザによる昇格試験、クリファとシンによる説明の食い違い、クリファが焦ったように五人に魔法を教え始めたこと。
レンダの中で答えはでないが、陰謀という言葉が頭から離れなかった。
「で、テピベラっち。アドバイスってなんなのさ」
サレンはテピベラの言葉に引っかかるところはなかったのか、いつもの調子で質問する。
「そうだな。まずは、レンダよ。さっきから見ていたがお前、毒物を探しているのか?」
「はい。毒を利用した魔法を考えています」
「ならこの森林スペースには、クロッカスやスミレ、イチハツ、ヒヤシンスなどの毒性を持った花が咲いているぞ。他にも毒蛇や毒カエルもいる。根気よく探してみるといい」
「本当ですか! 思ったよりも研究が捗りそうだ! ありがとうございます!」
「うむ」
「ねっねっね! で、アタシにはどんなアドバイスがあるの?」
「サレンよ・・・お前は・・・一体何がしたいんだ?」
「え?」
「いやあ、マメガキなんか持って。何をしようとしているのかまったくわからん。マメガキを育てるのか?」
「うん。育てるよ」
「それで?」
「木の根っこや枝、葉っぱをうねうねさせるんだ!!」
「つまり、植物系の魔法を使うということか? ならば、植物のマナを集めなさい」
「うううん。違うよ。アタシは植物系魔法を使いたいんじゃないの。うねうねさせたいの」
その発言にテピベラは、何かに気付いてしまったようで苦い顔をした。
「まさか!! 蛸の棍棒を使うゴブリンとの戦いで、うねうねによからぬ興味が!!」
「ちーがーいーますー!! ほら見て!!」
サレンは強く否定して倉庫から取ってきたロープを見せた。
「ロープ」
「うん。クリファ先生に許可貰って、マメガキと一緒に持ってきたんだ」
「それをどうするんだ」
「これに命令をだす」
「うねうねしろと?」
「うねうねは、準備段階。重要なのはそれから」
サレンは「見てて」と言って、右手から引力で植物のマナを集め、それを左手に持っているロープに移した。
マナはロープの中に入っていき、そこに留まった。
「ほう。やるじゃないか」
レンダも意外そうに言う。
「そんなことできたの? サレン」
「実はさっき、クリファ先生からアタシは四原引の一つである『留保』のレベルが高いと言われたの」
「なるほど。紐状のものに魔法を込めて使うっちゅうことか」
「そう。だから、植物の茎とかで実験したいの。ロープを持っていなくてもその場の発想次第で状況を変えられるでしょ」
「単純に植物のみで戦うよりも弱点を突かれにくいかもな」
そう三人で話していると森の中からカサカサと音がした。
その音を聞いたテピベラは人目につかないように草影に隠れる。
◇◇◇
森の中からスイセンの生い茂る場所に入って来たのはクリファだった。
「クリファ先生」
「進捗はどうですか」
「はい。プランが固まりそうです」
「よろしい」
そう言ってクリファがサレンを見ると、クリファの動きが止まる。
クリファの目に入ったのは、サレンの握るロープだった。
ロープには植物のマナが込められていてる。
(粗いけれどロープにマナをストックできている。『留保』が得意だとわかっていたけれど、まさかここまで・・・。恐ろしいセンス)
クリファは五人が魔法に対する視点や発想に優れていることに気付く。
五人は魔法を使って何をするのか強い意思がある。
五人は魔法を生かすための魔法以外の勉強の重要性を知っている。
例えば、どうやったら毒殺できるかを常に考えている。
以前の授業で体内に水があることと引力操作を結び付けたレンダにクリファは驚いた。
兵士になろうと真面目に励む生徒はいるが、五人の魔法に対する執着はクリファには異質に見えた。
そしてやはり、この五人は魔法の上達が早かった。