きっかけ
学院の校舎内を学院長室に向かって歩いて行くと明かりが段々とうす暗くなっていく。
この前来た時もそうだったが、何故学院長室前はこんなに暗いのだろう。
不安を煽られる。
オリオン、アネッテ、ガブリエル、レンダ、サレンの五人はまやかしの森で遭遇したエルザ・シュウの後ろを歩いてた。
五人は再び職員会議に参加することになったのだ。
学院長室の扉の前に着くとエルザは「全てを正直に答えなさい。誤魔化せるだなんて思わないことね」と蔑むような目で五人を見た。
腹立たしい言葉だったが、今ここで何を言ってもしょうがないと五人は思った。
エルザが扉を開けると臨時の職員会議が行われていた。
以前と同じように学院長が高い椅子に座っており、その前に教師が二列で並んでいた。
クリファは列には並ばずに扉の前で立っていて、エルザがその横を通り過ぎる際、エルザに何かを言われていた。
クリファが五人を見る。
五人はクリファの目から特に非難の意思を感じなかった。
エルザが学院長に何かを伝えると「また、この五人ですか」と教師の内の誰かが言った。
五人はクリファに連れられて前回と同じように学院長と教師達の前に立った。
エルザの話が終わったのかエルザは教師の列に加わり、学院長が五人を見つめた。
「大体のことはわかった。だが、君達に説明してもらいたい。何があったのかを。まず、君達は何故生徒だけでまやかしの森の奥地にいたのかね?」
レンダが冷静に答えた。
「僕達は演習場近くのまやかしの森にいただけです。動物達が逃げ出していたので何があったのか様子を見に行ったら、オークが森で暴れていたんです」
アネッテも続く。
「森を荒らされたら精霊達を怒らせてしまうと思ったので止めようと思ったんです」
「ほう。立派な心がけじゃな」
エルザが口を挟む。
「オークを逃がして遊んでいたのでは?」
ガブリエルが思わず反応する。
「そんなことはしていません!」
するとクリファは、五人よりも前へ出る。
「まずは、生徒達の無事を喜ぶべきでは?」
「やけに庇うわね。まあ、自分の生徒だし当然か」
「彼らは傷だらけになってオークを止めたんです。彼らが言っていることを私は信じます」
学院長がクリファとエルザを静止するように言う。
「そうじゃな。生徒が無事で何よりだ。それに一年生が五人だけでオークの動きを止めたのは初めてのことじゃ。めでたいめでたい」
学院長は教師達を見る。
「では、何故オークは逃げだしのかのう」
シン・アガードは応える。
「封印する魔法陣が消えかかっていたとかですかね」
「魔法陣は新学期前に一度書き直したはずじゃが」
「はい。今年は確か・・・エルザ先生が」
「ちょっと待ってください! 私のミスだと言うんですか!」
「そうは言ってませんが、その可能性もあります。誰にでもミスはありますし」
「絶対にミスはしていません! 責任をもって魔法陣はしっかり書きました!!」
クリファは言う。
「どちらにせよ、この件は更なる調査が必要ですね。ただ、私の生徒がそのようなことはしません。これだけははっきり言わせていただきます」
学院長は言う。
「もちろん。それには同意します。彼ら五人は学院の危機を救ってくれたのです」
学院長は五人の目を一人一人見つめる。
「ただし次同じようなことがあったら、直ぐに教師に知らせるように。良いですか」
「はい」
クリファは五人に「行きますよ」と言って退室を促した。
五人は先に扉の前に歩いて行くクリファを追って歩き出した。
その時五人は見逃さなかった。
五人とクリファの姿を映すエルザの眼を。
扉は学院長室を隠すように閉まった。
学院長室の外の空気はとても心地が良かった。
緊張感から解放されたガブリエルはクリファに聞こえないように言う。
「今、見下してたよな」
それにオリオンは同意し、サレンが言う。
「ちょー感じわるーい!」
学院長室から出てしばらくクリファは五人を連れて校内を歩いた。
そして、人気のない例の倉庫の前でクリファは立ち止まり五人に振り返った。
「アナタ達がやったことは無謀です。自信や理由はあったかもしれませんが、私は評価しません。死んでしまっては意味のない事です」
クリファのこれまでの冷淡な口調ではなく、感情的な話し方に五人は困惑した。
ただ恐怖でしかなかった冷淡な口調の時にはなかった『何か』を五人は感じた。
「すみません」
クリファは溜息をついて自分を落ち着かせた。
「そもそもアナタ達はまやかしの森で何をしていたのですか?」
「それは・・・」
オリオンが答えあぐねているとアネッテは言った。
「勉強会です。魔法の自主練をしていました」
「ならば演習場でいいでしょう。危険な魔法でも使おうとしていたのですか」
レンダは冷静に答える。
「いえ。今よりももっと魔法を知りたい。そう考えて予習をしていただけです。決してやってはいけないことはしていません」
クリファは再び溜息をついた後、五人の目をそれぞれ見て言った。
「よろしい。そんなに魔法の練習がしたいのなら、私が特別授業をしましょう」