VSレンダ
「よし。最後はレンダだ」
「はい!」
レンダを『葉っぱ』を眺めながら位置に着く。
(僕の魔道具は『葉っぱ』か。植物系の魔法かな)
「それはなぁ、レンダ。投げたら戻ってくる葉っぱだ」
「え? それだけですか?」
「それだけだ」
「その分硬いとか? 触った感じ普通の葉っぱだけど」
「いや、硬度も普通の葉っぱだ」
「・・・そうですか」
「だが、安心してほしい。耐久性はツノと比べものにならないくらい高い!」
(アレと比べてもなぁ)
「ちなみにこれはどうして作られたんですか?」
「これは辺境の村に住む子どもたちの遊び道具だ」
「玩具ですか」
(こんなんで倒せるわけないじゃん)
戸惑いを隠せないレンダにサレンは言う。
「レンダ! 逆に考えるんだ! 逆に!」
(逆に・・・。硬度がただの葉っぱなら威嚇にはならないな。当たっても痛くないんじゃ、攻撃にもならない。相手の棍棒とピンチになると使ってくる魔法。それに対抗できるとは思えない。ならば・・・・・・)
「始め!」
レンダは早速ゴブリンに向かって葉っぱを投げる。
ゴブリンは飛んでくる葉っぱを気にも留めない。
(少しは気にしてよ)
先手を打ったレンダに対してゴブリンはその場を動かず、棍棒を地面に突き刺すと「ギャラヒクギャラヒク」と呪文を唱え始めた。
地面に打ち付けられた棍棒の先端からレンダに向かって放たれたのは地面を削る程の衝撃波だった。
衝撃波が出方を伺っていたレンダを襲う。
レンダは両手をクロスし、衝撃波を受ける。
「くっう!」
(なかなか威力があるな。様子を見ていた分、動き出しが遅れた。でも衝撃波の威力に比べてスピードは大したことない。仕掛ける!!)
レンダはゴブリンに向かって走り出した。
いつでも葉っぱを飛ばせるように構えながら。
ゴブリンは両手で持った棍棒を一度上に上げて、再び地面に打ち付けた。
レンダはゴブリンがその一連の動作に入るのを隙と見て目を目掛けて葉っぱを投げた。
しかし、ゴブリンは簡単に顔をのけ反らせて避ける。
囮の葉っぱがゴブリンを通り過ぎた頃、レンダは滑りこむようにゴブリンの背後に回った。
(背後が基本!)
ゴブリンが振り下ろし直した棍棒は地面に付き、その瞬間衝撃波がレンダに直撃する。
「がはっ!!」
(衝撃波を打てるのは正面だけじゃないのか。でも衝撃波を打つには棍棒を両手で握っていないといけないみたいだ)
レンダは衝撃波に飛ばされて距離をあけられる。
(どうするかな)
一撃を食らうもレンダはこの戦い方に手ごたえを感じていた。
レンダは再びゴブリンの目を目掛けて葉っぱを投げ、すぐにゴブリンの背後に走る。
衝撃波を撃つために両手が塞がっているゴブリンだが、攻撃力のない葉っぱをはたき落とすまでもないと考え避ける。
背後に回ったレンダはゴブリンが避けて飛んできた葉っぱを掴んで再び葉っぱを投げた。
ゴブリンはレンダが葉っぱを投げなおしている隙に棍棒を振り下ろした。
葉っぱを投げ終えたレンダは、衝撃波を両手で受け止めて少し後ろに押される。
ブーメランのように戻ってきた葉っぱはゴブリンの目を襲撃しようとするがは直前で避けられ、葉っぱは再びレンダの元へ戻って来た。
お互い、直撃を免れようと避けながら威嚇を繰り返す。
(さて、ここから攻撃に転じなきゃな。理想は葉っぱが戻って来るときに攻撃をあてることだが、衝撃波で距離を空けられると間に合わない)
レンダは今日何度もしてきたように葉っぱを投げる。
ゴブリンもこれまで通り衝撃波を撃って対抗し、レンダは両手で受けて距離を取られる。
ゴブリンを通り過ぎた葉っぱは弧を描いて再びゴブリンの目に向かって戻ってくる。
(このタイミングだ!)
レンダは履いていた靴をゴブリンの後頭部に投げつける。
靴はゴブリンの後頭部に当たり、ゴブリンはこれまでにない事態に気を取られる。
その瞬間、葉っぱがゴブリンの目の下をかすめる。
「はぎぎぎっ」
ゴブリンが目を押さえて痛がっている間にレンダは距離を詰めてゴブリンの背に飛びかかる。
棍棒を手の届かないところへ蹴り飛ばし、レンダがゴブリンにヘッドロックをかけるとゴブリンは「うぎだっぶ」と言った。
「そこまで!」
テピベラの合図が聞こえるとレンダは手を離した。
「レンダァ! よくあんな魔道具で勝てたな!」
ガブリエルがレンダの元へ走り寄る。
「いやあ、本当に他に使える物ないかなって考えて靴しか思いつかなかったよ」
「いいじゃん! レンダらしいよぉ!」
テピベラは言う。
「そうだ。わたされた物だけが武器じゃない」
「はい!」
大賢者からの初めての試練は、五戦全勝と思いがけない結果となった。
レンダの勝利に湧く五人を見ながらテピベラはやりがいを感じていた。
テピベラの労いの言葉と共に一回目の試練は終了した。