VSオリオン
オリオンが渡された魔道具は「不思議なスティック」だった。
(言ったら怒られるかもしれないけど、ただの棒切れにしか見えない・・・)
オリオンが棒を眺めているとテピベラが言う。
「それは『不思議なスティック』だ。試しに強く振ってみろ」
オリオンはスティックを強く上から下へ振ってみた。
するとある違和感に気付く。
(腕に力が入らない!?)
不思議そうな顔をするオリオンにテピベラは言う。
「それはなぁ、強く振ると弱く、弱く振ると強くスウィングするんだ」
(戦闘中に力を抜かなければいけないのか)
「不安か? だがな、戦闘中力み過ぎてもいいことないからな。それにお前の引力操作のヒントになればと思ってそれを選んだ」
(引力操作・・・。これできっかけを掴みたい!)
オリオンはテピベラに「ありがとうございます」と言った。
(それにこの魔道具、シンプルだからこそ強い攻撃を放てるかもしれない)
五人が立つ広場の向かいから棍棒を持ったゴブリンが五匹現れた。
「こいつらがお前らの相手をしてくれる。しっかり挨拶しろよ!」
五人は「よろしくお願いします」と言うとゴブリン達は「おうおうあっあ!!」と返事をした。
「まずは、オリオン! 前へ出ろ」
「はい!」
他の四人とゴブリンは広場の隅に行き、オリオンと対戦相手のゴブリン一匹は広場の中央で向かい合う。
(このスティックでダメージを与えるには弱く振らなければいけない。脱力して戦ってみよう)
オリオンの思いとは裏腹に、テピベラの「お互い全力で、容赦はいらない」という言葉を聞いて身体に力が入る。
オリオンとゴブリンは握手をしてから後ろに下がり、位置についた。
テピベラの「はじめ!」というかけ声で勝負は始まった。
オリオンは臆せず、ゴブリンに向かって走っていく。
ゴブリンもオリオン目掛けて突っ込んでくる。
棍棒を振り下ろすゴブリンにオリオンはスティックで防御。
ゴブリンが再び棍棒を振り上げるとオリオンはその隙をつくように、ゴブリンの脇腹を狙ってスティックを振った。
しかしスティックを強く振ってしまい、脇腹に当たっただけでダメージを与えられない。
逆にゴブリンは脇腹に棒切れを当てているオリオンに棍棒を力の限り振り下ろす。
棍棒はオリオンが避けようとしたため、オリオンの左肩に当たる。
「いっでぇ!!」
オリオンは一歩下がる。
(くそ! ついつい強く振ってしまった。チャンスだとしても冷静に脱力しよう)
ゴブリンはオリオンに考える暇を与えないように追撃する。
遠慮のない攻撃にオリオンは避けることで精一杯になる。
(や、やばい! 当たる!)
寸前で棍棒を避けるも尻もちをついてしまうとゴブリンが再び棍棒を振り上げる。
オリオンは寝転び転がって避けて、そのまま距離をとった。
容赦のないゴブリンは突進してくる。
ゴブリンはオリオンが反撃できないのを確信したのか、全速力でオリオンに突っ込む。
しかし、それを間一髪のところで避けたオリオンはゴブリンの後頭部がガラ空きなのに気付く。
ゴブリンが振り向く前にスティックをぶち込もうと振り上げた。
(今だ!!)
スティックはゴブリンの後頭部に直撃する。
「トンッ!」と音がする。
前のめりになったゴブリンは上半身を起こす。
振り返ったゴブリンはまったく動じていなかった。
(失敗か)
ゴブリンはそのままオリオンに向かって頭突きをした。
オリオンは吹っ飛ばされながらも考える。
(タイミングはあってたのに、また力んだ。力の入り加減。感覚を掴まなければ!)
地面に倒れるオリオン。
(まだ、やれる)
オリオンは立ち上がってゴブリンを見る。
ゴブリンはオリオンの様子を伺っている。
(待つんだ。相手は必ず俺のところへ突っ込んでくる。このまま脱力して、その状態で向かい打つんだ)
ゴブリンはオリオンにまだ戦闘意思があることを感じ取り、再びオリオンへ向かって突進を始める。
「おっおっおっあっあっーー!!!!」
この一撃で決めるつもりのゴブリンの突進。
オリオンは待ち構える。
そしてゴブリンは棍棒を構え、オリオンに振りぬく。
オリオンは冷静に棍棒を屈んで避け、スティックを弱く遅く振りぬく。
スティックはゴブリンの脇腹に直撃し「ヴぉヴぉヴぉヴぉヴぉう!!!!」とゴブリンが叫ぶ。
(さっきまでと感触が違う! なんだ? 力を抜いたのに力が湧き上がる感じ! これか! これが力の使い方!)
ゴブリンは吹っ飛んでいき、体を木にぶつけて倒れる。
それを見たテピベラは「それまで! 勝者オリオン!」と言った。
オリオンの勝利に他の四人が沸いた。
「オリオン! お前すげぇじゃん!」
「ホントに死んじゃうんじゃないかと思ったよ」とアネッテが心配すると「はは。さすがにここで死ぬのは嫌だなぁ」
「てか、左肩痛くないのぉ?」
「めっちゃ痛い!」
「ゴブリン相手とはいえ、激しい戦いだったなぁ」
そう五人が話しているとテピベラがやって来て言う。
「一年のメタリオス生は、進級する際にゴブリンを狩る試験がある。その試験に合格することが進級の条件なんだが、そんな相手をよく倒せたな」
というテピベラの言葉にオリオンは「えっ! そんな後に戦う相手と今戦わせたの?」と言って絶句した。
「そうだ。死ななくてよかったなぁ」
呑気な返事をするテピベラにガブリエルは「いやいや、俺達これからなんだけどぉ!」と思わず不安になる。
テピベラはオリオンに関心した顔で言う。
「しかし、オリオン。よく戦闘中に脱力できたな」
「はい。俺はそもそも力を入れることが最大のパワーを生むと勘違いしていました。だから、引力を放つときも力のことばかり考えていて。でも、それだけじゃあ駄目なんだと気づかされました」
「うん。しっかり学んでいるな!」
テピベラは他の四人に向きなおり「よし。続けるぞ!」と言った。
それを聞いてガブリエルは「マジで俺の魔道具ちゃん、頼むから俺を導いてくれよぉ」と言って魔道具に頬ずりをした。
それを見て四人は笑うが、これから試練を受ける四人は緊張で胸が一杯だった。