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THE ORION  作者: 黒羽感類
Season One 学院編
23/72

罰と好機

五人に与えられた罰は倉庫の掃除だった。

その倉庫とは、五人が初めてテピベラに会った場所だった。

「ここは使わなくなった道具などをしまう倉庫です。なので人の出入りが殆どなく、埃まみれになっています」

五人の掃除をする手が芳しくないところを見たクリファは言う。

「幸い、精霊は怒っていない。防衛に何も影響はありません。もう気にするのはやめなさい。この程度の切り替えができないようでは、戦場で直ぐ死にますよ」

それでも自分達に向けられた冷淡な目に納得がいかない五人は、掃除の手は動かすものの表情は暗かった。

「早く終わらせなさい。私はここを離れるわけにはいかない。まだ、仕事が残っているのです」

五人は黙々と掃除を進めた。

沈黙が続く中、レンダがクリファに話しかける。

「あの」

「なんですか? レンダ・サコリ」

「質問をしてもよろしいでしょうか?」

「許可します」

「上級生からの攻撃は一体なんだったのでしょうか?」

「はぁ」溜息をついてクリファは話し出す。

「アナタ達は進級時の格上げ試験に利用されたのです」

「格上げ試験?」

「四年生から五年生に進級する際、希望者には、現在のクラスより一つ上のクラスへ格上げするチャンスが与えられます。メタリオスの生徒はカロスにカロスの生徒はタレッドに」

「それにどんな意味が?」

「学院卒業時のクラスによって、兵士として配属される場所や将来つける役職が決められます。できるだけ良い待遇を受けたいのならクラスは高い方がいいというだけの話です」

「つまりあの上級生達は、自分が格上げするためだけに僕らを襲ったのですか?」

「そうです」

五人に怒りが湧いてきた。

なぜ、他人の試験のために自分達が傷つけられなければいけないのか。

試験の理由は理解できてもやり方には同意できない。

それに、推薦者のエルザ先生がしらばくれていたのは許されることなのか。

五人の掃除をする手に力が入るり、表情にも怒りが現れる。

それを見てクリファは言う。

「先程も言いましたが、切り替えなさい。もう終わったことです。それよりも兵士として死なないためにもっと努力をしなさい」

五人は高ぶる感情を抑えて「・・・はい」と返事をした。





しかし、他の理由で納得がいっていない者もいた。

それは、上級生が攻撃をしてきた理由の説明がシンとクリファでは、違いがあることだった。

どちらが事実にしろ、怒りはこみ上げてくるが、何故違うのか疑問が残った。

しかし、その疑問は次の話題によってかき消されてしまう。





「質問は以上ですか?」

クリファがそう言うとレンダは他の四人に視線を送った。

四人ははじめ意図を理解できなかったが、レンダが羊皮紙をポケットから取り出そうとしているのを見て察した。

(クリファ先生にそれを今聞くのか・・・)

そこでオリオンは思った。

シンは、地下の話を教えてくれたがウロボロスのことは知らなかった。

立ち入り禁止の地下の話をクリファ先生にするのは危険ではないか。

シン先生だからフランクに話せたが、クリファ先生はどんな反応をするかわからない。

レンダはクリファの目の前に羊皮紙を広げて見せた。

「先生。これが何かご存知でしょうか?」

ウロボロスの紙を見たクリファは微動だにしなかった。

沈黙の時間が少しばかり流れ、クリファが口を開いた。

「ウロボロスの絵ですね。稚拙な絵です」

「ウロボロスはこの学院にいるんですか?」

「何を言っているのです?」

その言葉にガブリエルが身を乗り出す。

「ウロボロスっつう怪物を学院の地下空間に封印してるんですよね? だから、立ち入り禁止なんですよね?」

「地下空間のことを誰から聞いたのですか?」

「い、いやぁそれは」ガブリエルは口籠る。

「まあ、いいです」と言ってクリファは溜息をつく。

「誰に吹きこまれたかは知りませんが、地下空間にウロボロスは封印していません」

「じゃあ、何が・・・」

「まず、ウロボロスは怪物ではありません。そもそもウロボロスは概念であって、この世に存在する生物ではないのです。そして、地下に怪物など閉じ込めておく手段は人間にはありません。怪物は常に人間より上位の存在です。怪物に封印魔法を使用したとしても、簡単に解かれてしまいます。それは、怪物が人間より魔法への理解度が高いからです」

「では、怪物への対処はどうすれば・・・」

「怪物を一人で倒せる魔法使いはいません。強大な引力と魔法への高度な理解力を持つ怪物に対して、人間はその数と魔法への想像力で対抗してきました。ですから、怪物と対峙する場合、多くの命を犠牲にして対抗するのです」

「地下空間はそもそも本当にあるのですか?」

「ええ。それは本当です。教師を含め如何なる人間も立ち入りは禁止です」

「なぜ、立ち入り禁止なんでしょう。過去にあった生徒を巻き込んだ事件とはなんなのでしょう」

「アナタたちは本当に誰から聞いたのかしら・・・。まあ、いいでしょう。・・・ウロボロスと言うのは、過去に学院を壊滅させようと企んだ六人の学院生徒達によって作られた組織の名です」

「学院を壊滅・・・。生徒が?」

「そう。戦争を恨んだ生徒達が母国を裏切って起こそうとしたテロ。地下ではその集会が行われていたのです。学院を破壊するため、異国から入ってきた危険な儀式魔法を発動させようとしていました。しかし、それは失敗し、儀式に参加した五人は死んでしまった。今も地下には惨劇の跡が残っています」

「なぜですか?」

「魔法の効力が消えないからです。地下に行けば、死が待っている。効力が消えるには後、千年はかかると言われています」



         ◇◇◇



倉庫掃除の罰を終えた五人は寮に戻ってそれぞれの部屋に入った。

オリオンがベッドに入ってゴロゴロしていると窓の方からコツンコツンという音がした。

オリオンが窓に近付いて外を見ると、寮の庭にある花壇の前でライトがこっちを見て手を振っている。

シンの研究室でばったり会ったライト。

引力のことで意気投合したが、オリオンは会いに来たことに驚いた。

オリオンは庭に出てライトのもとに行くと「寮に入って行くのが見えた」と言われた。

そして、そのままライトと散歩をすることになった。

ライトは言う。

「大変だったみたいだね」

「うん。学院の教師って怖いよね」

「はは。そうだね。まぁ兵士を育てているわけだから怖くもなるよね」

「ねぇ、ライトってクラスどこなの?」

「ボクは一年タレッドだよ」

「ええ!! タレッドなのぉ!!」

「そうだよ」

「じゃあ、あの光の階段上ってお茶会に行ったんだ」

「ああ、言ったね。あまり楽しくなかったけど」

「なんで? 国王に会ったんでしょ?」

「会ったよ。でも、国王は威厳があるというか、ただの怖いおっさんだった。なんか話しかけずらいというか」

「へぇ。タレッドってことはエルザ先生が担任? あの人も怖そうだね」

「う~ん。確かに授業中は怖いけれど、意外と優しいとこもあるんだよねぇ」

「えっ!! どんなところが?」

「やっぱ、悩みとか聞いてくれるところとかかな」

「へぇー。意外だなぁ」

ライトは学院の外に広がる山々を眺める。

「そういえば、エルザ先生から聞いたんだけど、この国のどこかの山に仙人と呼ばれる人が住んでいるんだって」

「仙人? 初耳だなぁ。どんな人?」

「ボクも詳しくは知らないんだけど、その人は武術の達人らしいよ」

(へぇー。ガブリエルに教えたら、会いたいって言いそうだなぁ)


こうして、二人は深夜までお喋りを続け、その後寮の部屋でぐっすりと眠った。

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