裁判
オリオン、アネッテ、ガブリエル、レンダ、サレンの五人は、クリファに連れられて職員会議に出席することになった。
職員会議が行われる学院長室には、シンや一年タレッド担任のエルザ・シュウをはじめ学院の教師が全員集まっていた。
学院長を含めると十二人の教師がいた。
学院長室は広いが暗く一番奥の真ん中にある学院長専用の椅子だけが照らされていた。
豪華に装飾された椅子に座る学院長は、入学式の時と比べ身長が半分以下に見える。
学院長前の左右の端から二列になって教師が並んでいる。
学院長室に入った五人とクリファを教師たちが寸分の狂いなく同時に振り向いて見た。
学院長は足の長い椅子に座っているため、五人を見下ろしている。
学院長は口を開く。
「その子達かな。まやかしの森の木々を傷つけたのは」
クリファは応える。
「はい」
学院長は長い白髭を撫でながら言う。
「さて、どのような処罰を下そうかのう」
すると緊張で黙っていた五人の内、ガブリエルが口を開く。
「ちょっと待ってください!! 俺たち一年メタリオスが上級生から魔法による攻撃を受けています!! そのために・・・」
「黙りなさい!!」クリファがガブリエルにそう一喝し、続けて言う。
「アナタ達に発言は許していません」
「ふぉふぉふぉ。まぁ、そう言うでない、クリファ先生。彼らも言い訳がしたいじゃろうて」
(言い訳?)
五人は学院長室の不穏な空気を感じ取った。
(なんだこの空間。嫌な空気が流れてんな)
クリファは言う。
「いえ。この子たちに発言は必要ありません」
するとエルザが言う。
「謝罪くらいあってもいいんじゃなくて」
「それは、担任教師の私から」
「これこれ。ワシは学生たちの意見を聞きたいんじゃ」そう言って学院長は、五人の目をそれぞれ見つめてから言った。
「上級生から魔法の攻撃を受けたと・・・。それで? 証拠はあるのかい?」
(えっ!?)
自分達が魔法の攻撃を受けたのは事実。
その証拠を示すのは攻撃を仕掛けてきた犯人を差し出すしかない。
しかし、唯一捕まえたルーホウはここに来る途中に、クリファが寮に帰してしまった。
他に証拠となるものは存在しない。
攻撃によってついた傷を見せたところで攻撃によるものだという証拠にはならない。
なぜ証拠を示さなければいけないのか。
そもそも学院側も上級生による魔法の攻撃を禁止にしていたはず。
オリオンは学院長前の列に並ぶシンを見たが、何も言わない。
寧ろ、この話題に興味がないようにも見てとれる。
五人が黙っていると、エルザが言う。
「まったく。まやかしの森が学院にとってどれだけ重要か何もわかっていないようね。担任教師のレベルが知れるわ」
(なんなんだこの人。さっきからつっかっかてきて。タレッドの担任がそんなに偉いのか!!)
学院長は五人に言う。
「まやかしの森は森の精霊たちの力によって契約に基づき学院の場所を隠してもらっておる。それにも関わらず、森をぞんざいに扱っては精霊の怒りを買ってしまう。もし精霊からの協力がなくなれば、学院は襲撃にあうかもしれない。君たちは学院の人間達を守ることはできるのかな? それを踏まえて、理由を示してくれるとありがたいんじゃが」
五人は黙ったままだったが、クリファは反応する。
「私の完全な指導不足でした。これからより、厳しく指導してまいります。ですので処罰は私にお任せください」
その言葉に再びエルザが口を挟む。
「担任に決めさせては、甘い処罰を下す可能性があります」
学院長は髭をさすりながら、呑気な声で言う。
「そうじゃのう」
クリファは言う。
「彼らについてのことは私に責任があります。もう二度と同じ過ちを繰り返させません。どうかここは私に」
学院長はこの話題にもうあきたように「わかった。クリファ先生に任せる」と言った。
クリファは五人をドアの方に連れて行く。
「それでは、私はこの子達と退席させていただきますが、一つだけよろしいでしょうか」
「なにかね」
「この間、提出された進級の推薦書の話です。メタリオスの四年生が五人、カロスへの格上げを推薦されていましたが、彼らの成績を鑑みるに格上げは相応しくないように見受けられます」
「ふむ。それでその推薦者は?」
「エルザ・シュウ先生です」
エルザの表情が曇る。
「エルザ先生。これはどういうことですかね?」
学院長のエルザへの問答が始まった。
クリファは五人を連れて学院長室を出た。




