酔い
シンへの相談を終えた五人は、この後は授業がないため教室へは戻らず、解散することにした。
「じゃあ、明日会議しようぜ!」というガブリエルの言葉でそれぞれわかれた。
オリオン、ガブリエルは寮へ、アネッテは剣術の自主練をするため演習場へと向かった。
レンダとサレンは学院内に残った。
「レンダぁ。アタシらどうするぅ?」
「図書室に行こうと思う。サレンは?」
「アタシもついてくぅ!!」
「わかった。一緒に行こう」
二人は図書館へと向かって廊下を歩き始めた。
サレンはレンダの腕を掴んでくっついて歩いた。
「あんまりくっつくなよ。恥ずかしいよ」
「ええ!! ひどい!! アタシといるの恥ずかしいのぉ!!」
「そうは言ってないよ。学院内でくっつきすぎると先生たちに目をつけられるぞ」
「え~ん。なにそれ~。アタシらの愛は誰にも壊せないのにぃ~」
「なら、大人しく離れて普通に歩きなよ」
「へへへ。アタシらの愛については否定しないんだぁ~」
「まったく。サレンは・・・」
と二人で会話をしている時だった。
「あっ!!!!!!! レンダ発見んんんんん!!!!!!!!!!!!」
急に見知らぬ生徒がレンダを指さしてそう叫んだ。
「なに!? レンダ知り合い?」
「いや知らない」
すると立て続けに
「レンダ発見!!!!!」と五人の生徒が言う。
「発見?」
「誰かレンダを探しているのかなぁ?」
「いや、あの生徒たちはどこかおかしい」
「おかしいって?」
「普通の行動じゃない。きっと魔法で操られているんだよ」
「ええ!! ついにレンダも魔法の攻撃を。許せん!! レンダに攻撃するなんてアタシがやり返してやる!!」
「まってサレン。今のところ名前を呼ばれて指をさされただけだ」
「でも・・・」サレンが何かを言おうとしてやめる。
「ん? どうしたの? サレン」
「レンダ! それなに? 頭に矢印ついている!」
レンダは自分の頭上に浮かぶ矢印に気付く。
矢印はレンダのことをさしていた。
「なんだこれ!? いつのまに」
レンダは矢印をとろうとするも、びくとも動かない。
「駄目だ。これとれない」
するとレンダが「サレン! 頭!」
サレンが頭上に手をやると矢印にあたる。
「えっ!! アタシにも!!」
その間も「レンダ発見!!!!」と言う生徒は後を絶たず、更に「サレン発見!!!!」が追加された。
二人の周りに人だかりができていた。
「サレン。とりあえず、ここから移動しよう」
二人はその場を走って去った。
◇◇◇
人がいない教室に隠れて作戦を考えることにした。
「どうやら僕たちはお互いを見ても、魔法の効果は発動しないみたいだね」
「もしそうだったら、酷い絵面だったね」
「この矢印はとれない。この魔法をかけた本人を叩くしかない」
「オリオンたちの時って魔法をかけた本人が近くにいたんだよね」
「そうだね。相手の出方に合わせるために、常に監視できるところにいたんだろうね」
「あと、能力の性質上近くにいないと発動できないとかだね」
「でもこの魔法は、人を見つけるために使えそうだけど・・・」
「だけど?」
「ガブリエルとアネッテが攻撃を受けた時、たしか二人の上級生がいたって言っていたよね」
「うん・・・あっ! じゃあ」
「来る!!」
その瞬間、廊下からドンドンドンという鈍い音が聞こえてきた。
「なに。この音」
そして、窓がスッと開かれたかと思うと三メートルはあるカエルが二人を覗き込んでいた。
「ひぃぃぃぃぃいぃぃぃ!!!!!!!!!!!!」
サレンは慌てて椅子を持ち上げてカエルに投げるポーズをした。
「サレン!!」
カエルはドシドシとゆっくり近づいてくる。
「サレンこっちだ!!」
レンダはサレンの腕を掴んで引っ張り、カエルが入ってきたドアとは違うドアから出た。
「なんなんだ! あれは!!」
二人は廊下を走って逃げる。
走っている間も廊下や教室にいる生徒達から「レンダ発見!!!!」「サレン発見!!!!」という言葉が聞こえる。
「レンダ! 見つかってる! また、カエル来るかも!」
「わかっている。とにかく犯人は二人いる。どっちかを見つけよう」
二人は廊下から中庭へ出る。
「広い場所からみんなを観察しよう」
すると花壇の周りを飛んでいた蝶が巨大化する。
「レ、レンダぁ!! 今度は蝶だよぉ!!」
蝶は二人の方へ向かって飛んでいく。
「逃げようよぉ!」
レンダは蝶に背を向けて走ろうとした時、あることに気が付き立ち止まる。
「おかしい」
サレンは焦りながら「なにがぁ? 」と聞いた。
「周りの生徒が怖がっていない」
サレンは周りにいる生徒を見渡した。
レンダやサレンを視界に入れてレンダやサレンを指さしている生徒は操られていると仮定しても、これだけの巨大な蝶だ、レンダとサレンに気付かず普通に廊下を歩いている生徒が蝶だけに気付いて騒いでもおかしくない。
「じゃあ、あの蝶はアタシらだけに見えているってこと?」
「そう。つまりあれは、幻覚だ!!」
レンダは蝶に近付いていき、蝶に触れる。
すると巨大な蝶は、レンダの人差し指に止まる小さな蝶に変わっていた。
「おっ!! すごい!!」
「触れると元に戻るらしい」
「それにしても相性最悪だね。人の注目を集める魔法に一部の人間にしか効かない幻覚魔法なんて」
「そうだね。でもまだ犯人を捕まえたわけじゃない。幻覚はいいとして、この矢印はいつまでもあったら困るな」
「どうやって見つける?」
「この魔法ってかけた本人はどうなるんだろう」
「どうなるって?」
「僕を見つけた場合、本人も僕を指さすのかなぁって」
「ああ、確かに。自分もかかったら元も子もないよね」
「よしっ決めた!」
「なに?」
「僕、これからめっちゃ目立つからさ。サレンはなるべく人がいないところから犯人を見つけてくれないか」
「レンダを見ているのに、指をさして叫んでいない人を見つければいいのね」
「そう。お願い」
「うん!! わかった!! レンダのために頑張るぅ!!」