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THE ORION  作者: 黒羽感類
Season One 学院編
2/72

大賢者

振り返った顔には黒い髭がふさふさと首元が見えないくらい生えていた。

一瞬老人に見えたが若くないにしても老人ではない男の人だった。

男はオリオンと目が合うと口を開いた。

「初めまして。この村の方ですか?」

「うん。キラノト村になんか用?」

「私は、イエスタデイという者です。旅をしています」

「旅人!? へぇー珍しい。俺はオリオン! キラノト村で薬草の採取をしてんだ!」

「ここに村があると聞いて立ち寄ったんです。」

「じゃあ、イエスタデイさんはこの村初めてなんだ。案内しようか?」

「はい。よろしければ。それと泊る場所があればいいんですが」

「う~ん。キラノト村にお客さん来ないからなぁ。宿はないんだよねぇ」

「そうですか」

「でも、おじいちゃんに相談してみるよ」

そう言うとオリオンは荷車を再び引っ張ろうと力を入れる。

「よし行こう!」

「重そうだね」

「全然! いつもこんな感じだよ! これがないと薬草が作れないからね!」

二人はそう会話をしながらキラノト村に向かった。

「イエスタデイさん。ちょっとこの荷物、調合師さんの所へ持って行っていいかな?」

「もちろん。仕事が先だ」

「ありがとう!」






村に入るとイエスタデイは、村人を通りすがる度に視線を感じていた。

旅人が珍しいのなら警戒されるのは当たり前だと納得していたが、それは杞憂だった。

村人たちは皆、オリオンに声をかけていた。

「オリオン帰って来たのかい。これ持って行きな!」

野菜を手に持った中年女性がオリオンに野菜をわたす。

「ありがとう! おばさん」

「いいんだよ。この前屋根の修理してくれたからね。困ったらまた頼むよ」

「うん!! いつでも言ってよ」

通りすがる大人達から軽く声をかけられるだけでなく、子ども達からも声をかけられる。

「オリオン兄ちゃん‼また遊んで!!」

「おう!! 今度は別の遊びを教えてやるよ‼」

「やったー!! じゃあ、またねぇー」

子ども達は喜んで走っていった。

オリオンは村の一本道を進み右手にある調合師の家へ入り、採取した物を渡した。

「それじゃあ、取りあえず俺の家へ案内するよ」






二人はオリオンの家に着くとまず、オリオンだけが家に入った。

「母さん、じいちゃん! ただいま!」

「おお、オリオンお帰り」

母のサキは無言だったが、にこやかな表情をオリオンに向けた。

祖父は元気にオリオンを出迎えた。

「じいちゃん。相談したいことがあるんだけど」

「なんだ? 言ってみなさい」

「村に旅の人が来たんだけど」

「ほう、それは珍しいなぁ」

「で、この村、宿ないでしょ。だから連れて来たんだけど」

「大丈夫だよ」

祖父から了解を得るとオリオンは振り返り、ドアに向かって言う。

「入って来ていいよー!」

ドアが開き、イエスタデイは家に入ると被っていたフードをとった。

「失礼します」

イエスタデイがそう言うと、祖父はイエスタデイを見つめたまま、目を大きく見開いて口をポカリと開けていた。

「どうしたの? じいちゃん」

オリオンの声に反応した祖父は大声で言った。

「どうしたもこうしたもあるか。この方は・・・まさか」

オリオンは名前を聞かれているのかと思い応える。

「イエスタデイさんだよ!!」

「ああ。そうだろうな」

「イエスタデイと申します。あの、お邪魔でしたか」

「いえいえ。決してそんなことは。あまりにも驚いたもので」

オリオンは祖父の態度にただ事ではないと察し、問いかける。

「あの、イエスタデイさんて・・・」

祖父は食い入るように言う。

「大賢者様だ」

「大賢者・・・・・・様?」

「お前も知っているだろ。国や世界が崩壊する程の危機から人類を救う力を持つとされる世界最高峰の魔法使い。何故こんな何もない村に……まさか」

すると挨拶だけして黙っていたイエスタデイが口を開く。

「ただいま旅をしておりまして、一度キラノト村も見ておきたいと考え、立ち寄りました」

「では、厄災があるわけではないのですね!!」

「はい。ご安心を」

祖父は「それはよかった」と一呼吸置いて続けた。

「それで宿をお探しと言うことでしたが」

「はい」

「この村には小さい宮殿がありますが、その、本当に貧相な宮殿でして・・・」

「大丈夫ですよ。私はどこでも寝れますから」

「いやいや、折角ですので我が家に泊っていくのはいかがでしょうか。大したもてなしはできませんが」

「よろしいのですか?」

「もちろんですとも。大賢者様なら大歓迎です」

その後、祖父がキラノト村の村長に事を伝えると村長や村人などがオリオンの家に集まり、あいさつをして帰っていった。




         ◇◇◇




丘で頭を冷やしたアカラスは、アフノスの森を出て村に入った。

村に入ってからのアカラスは通りすがる村人に話しかけられる。

「アンタまたオリオンに修行だとかしていたの? 魔法もほどほどにして、オリオンの話も聞いてあげなさいよ」

そう言ったのは、オリオンに野菜をわたした中年女性だった。

「いい子なんだけどねぇ。偶に元気ない時あるし」

それを聞いていた村の男は「そうだぞぉ。オリオンをもっと大切にしろよ」と加勢する。

アカラスは村人から信頼されてはいるが、オリオンのこととなると最近この話題をよく村人に突きつけられる。

アカラスは言い返さず沈黙する。

怒りを感じているわけではなく、呆れているわけでもない。

この話になるとアカラスはどう対処していいのかわからないのだ。

嫌な思いをしているわけではないけれど、心がざわつくのを静かに抑えようとする。

村人の二人は、アカラスの表情を見るなり、「ま、まあアンタも子育て大変だろうけど、それこそ村の誰かに頼りなよ」「おう! そうだ!」と言って去っていった。

アカラスは家へ向かって再び歩き出した。




         ◇◇◇




「父さんと素材の採取をしているんだ。父さんからは村の人の役に立てって言われて育ったから、俺にも出来る仕事を手伝ってるんだ」

オリオンはイエスタデイに自分の生活や家族のことについて話し始めた。

「夕方までずっと採取を?」

オリオンは首を横に振る。

「昼過ぎまで採取していたけど、その後は丘で修行してだんだ」

「修行?」

「うん。父さんに指導を受けながら、魔法の」

「オリオン君は魔法を使えるのですか?」

オリオンはまた首を振って「まったく」と言った。

オリオンは悔しいような諦めているようなどっちにもとれる表情を浮かべている。

「魔法を使ってみたいですか?」

「正直、あったら便利かなとは思うよ。村の人の助けになるなら。でも・・・」

「でも?」

「でも魔法使いではない父さんは立派に働いていて、村の人からも尊敬されている。なのにあんなに必死になって・・・・・・」

すると家のドアが開いた。

「ただいま。オリオンはちゃんと帰ってきているか?」

入って来たのはアカラスだった。

「父さん! お帰り!」

オリオンの声の方へ視線を向けたアカラスは、一瞬顔が強張った。

「あなたは!?」

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